STORY5-END 『私は…山上君のことが好き』
そのころ翔たちを近くの駅まで送っていった忍はエレベーターを待っていた。
ふと、入り口を見ると恭子が歩いてくるのが見えた。
忍が会釈するとそれに気づいた恭子も会釈を返し、忍の横に並ぶ。
忍は今までの経緯を説明する。
ついさっきまで翔たちがいたこと。そして、自分が近くの駅まで送っていったこと。
柚子葉の容態がある程度まで安定したこと。
「すいません。園長先生にまで迷惑をかけて…」
「いえ、いいんですよ」
二人が乗ったエレベーターは8階で止まった。
「それじゃあ、先生ありがとうございました」
「いえ」
忍を乗せたままエレベーターはドアが閉めてそのまま上昇を開始した。
恭子は自分の家に入って玄関を見ると男物のスニーカーが目に入った。
まだ、深夜が家にいるのだろうと思いリビングに入るが深夜の姿は見えない。
秀太の部屋も覗くがいなかった。
柚子葉の部屋を覗くとベッドで眠っている娘、そしてそのベッドによりかかって眠っている深夜の姿が見えた。
近づいていくと二人の手が握られているのを確認した恭子は笑みを浮かべ、風邪を引かないように深夜に布団をかぶせた。
家を出た恭子は真上の深夜の家に向かおうとドアを開けると丁度そこには忍が立っていた。
「あ、山下さん。もしかして、まだ深夜お宅にお邪魔してませんか?」
「いますよ。静かに入ってきてください」
恭子に案内された部屋を忍が覗くとすやすや眠る柚子葉、そして隣には柚子葉の手を握って眠る深夜の姿があった。
忍が深夜を起こそうと柚子葉の部屋に入ろうとするが、恭子に止められた。
「このまま寝かせてあげませんか?せめて、もう少しだけでも」
「でも…」
「あんなに気持ちよさそうに眠ってる二人を起こすのはちょっと気がひけて…」
「それはそうですけど…。けどよろしいんですか?娘さんが男と一緒にいて」
「大丈夫ですよ。深夜君も眠ってるんですし」
「それじゃあ、もう少しだけこのまま寝かせてあげましょうか」
「ええ」
忍と恭子はリビングで恭子が入れたコーヒーを飲みながら話している。
「深夜君にも言ったんですけど娘達がお世話になってるようでありがとうございます」
「構いませんよ。弟の友達が遊びに来るぐらい。私たちも楽しいですし」
「やっぱり深夜君とご姉弟なんですね」
「え?どうしてですか」
「今朝深夜君も楽しいって言ってくださったんですよ」
「そうですか」
恭子と忍はそのまま深夜や柚子葉、秀太のことなどを中心に話を続けた。
眠っていた深夜はズボンに入っていた携帯のマナーモードの振動で目を覚ました。
目を覚ました深夜は何故自分が座ったまま眠っていたのかを不思議に思ったが背後から柚子葉の寝息が聞こえて、あのまま眠ってしまったのかと理解することができた。
携帯に入ってきたメールを開くと差出人は勇一だった。
内容は『忍が山下の家に行ったまま帰って来ない』というものだった。
深夜は柚子葉を起こさないように立ち上がろうとしたが、柚子葉は目を覚ました。
二人は握ったままの手を見て、すぐにパッと離した。
深夜は今のメールの内容を柚子葉に話し、柚子葉も起き上がって二人揃ってリビングに入る。
「あら、起きた?」
恭子が部屋から出てきた二人の顔を見て声をかける。
「すいません。眠ってしまって…」
「いいんですよ」
深夜は恭子に合鍵を返した。
忍に勇一からメールが来たことを伝え、深夜と忍は自分の家に帰ることにした。
「こんな夜遅くまですいませんでした」
「いえ、私のほうこそ助かりました」
深夜と忍は自分の部屋に戻っていった。
柚子葉は自分の部屋の布団に入り深夜にお礼のメールを送った。
深夜からの返信には柚子葉を気遣う内容が入っていた。
柚子葉は深夜が握っていた手を見る。
深夜の手は大きくて温かくて…
柚子葉は自覚して呟いた。
「私は…山上君のことが好き」
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