STORY5-1 『じゃあ、俺が迎えに来ましょうか?』
ある金曜日、深夜はいつも通り学校に行こうとマンションを出ると後ろから小さい物体に体当たりされた。
下のほうを見ると秀太が足に抱きついていた。
「えへへ、しんやおにいちゃんおはよう」
「秀太おはよう」
深夜が秀太の頭を撫でてやると嬉しそうに秀太は笑った。
後ろのほうを向くと柚子葉の姿は無く、代わりに母親である恭子がこちらに近づいてきた。
深夜が会釈をすると恭子も笑って会釈を返してくれた。
「おはようございます」
「若先生、おはようございます。ごめんなさいね、秀太が」
「いえ、もう保育園で慣れてますから」
「そういってもらえると助かるわ。それと、何回か柚子葉たちを食事に誘ってくれてるようで」
「あ、いえ。こちらのほうも多くて三人、少ないときは俺一人なので楽しいんで大丈夫ですよ」
「ねぇ〜ねぇ〜、しんやおにいちゃんもいっしょにいこうよ」
「行こうって保育園にか?」
「うん!」
「えっと、一緒に行ってもいいですか?」
「え、ええ。でも学校大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。卒業できないほど休んだりはしてませんから」
「そういう問題じゃあないでしょう」
「姉貴も卒業できれば何も言いませんよ」
そういって深夜は秀太の手を取った。
秀太も嬉しそうに深夜の手を握り返してきた。
恭子ももう何を言っても無駄だと悟り秀太の隣に並ぶ。
「そういえば柚子葉が喜んでましたよ。成績が上がったって。若先生が教えてくれたんでしょう?ありがとうございます」
「別に俺は何もしてませんよ。それと、お願いですから若先生は止めて欲しいんですけど…」
「じゃあ、深夜君でいいですか?」
「あ、それでお願いします。若先生って言われるほど俺は偉くないですから」
「そんなことありませんよ。子供達が皆言ってます。『深夜お兄ちゃん大好き』って。ですから、私たち保護者は若先生って呼んでるんです。子供達と遊んでくれることはとてもありがたいんですよ。特に私みたいに父親がいない家は」
「そういってもらえるとありがたいんですけど…やっぱ若先生は」
「分かりました。今度からは深夜君と呼びますね」
「お願いします」
三人はそんな話をしながら保育園に向かった。
保育園に着いて忍が秀太を預かった際に深夜の姿を見て言った。
「なんで、あんたここにいんの?」
「別にいいじゃねぇか」
「ほら、さっさと学校に行った行った」
「へいへい」
深夜が手を振りながら学校に歩き始めたときに、忍と恭子の話し声が聞こえた。
「すいませんが、この保育園っていつまで預かってもらえますか?」
「どうかしたんですか?」
深夜は気になってしまい、足を止めて二人の話を聞き始めた。
「いえ、娘が風邪をひいてしまって娘が迎えに来れないんです。私も仕事の関係上時間の約束ができないんです。なるべく早く迎えに来ようと思ってはいますが…」
「でも、お母さんの仕事は今日泊りではないんですか?」
「もう、上司に話をつけてますので今日は泊りではないんですが帰りの時間までは決めることができなかったんです」
「分かりました。一応ここでは8時まで預かるようにできますが」
「8時ですか…」
その言葉に恭子は困惑している。
8時では迎えに来るのが難しいようだ。
深夜は二人に近づいて口を開く。
「じゃあ、俺が迎えに来ましょうか?」
「え?」
「俺が迎えに来ますよ。秀太の扱いにも慣れてますし後、山下さんの友達の井上と田中にも声をかけますから」
「え?でも…」
「駄目ですか?」
「え、えっと…」
恭子はまた困惑した。
少しの間考えた末に恭子は答えを出した。
「じゃあ、お願いしていいですか?」
「はい」
「家の合鍵も渡しておきます。柚子葉のこともお願いしていいですか?」
「預かります。山下さんのほうは井上たちにお願いします」
「じゃあ、お願いしますね」
「はい。じゃあ、学校に行きますんで」
深夜は学校に向かって走り出した。
その後姿を見送って忍が恭子に話しかける。
「いいんですか、山下さん?」
「大丈夫ですよ。少ししか話してませんが悪い子ではないと思いますし、娘達からいろんな話を聞いてますから」
「そうですか」
恭子も忍に会釈して仕事に向かっていった。
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