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STORY26-4 『そんな前振りいらないんだけど…』

深夜達が教室に戻っていると入り口から廊下を男子生徒が覗いていた。

そして、深夜達の姿を見るとニヤッと笑みを浮かべて顔を引っ込めた。


「…なんか嫌な気がする」

「…私も。でも、戻らないと」


深夜と柚子葉が教室に入ると何故か拍手で出迎えられた。

二人は拍手で出迎えられる意味が分からない。

入り口に立っている二人を見て生徒が勇一に声をかける。


「山上、山下夫妻が戻ってきましたね」

「そうだな」

「いやいやいや。誰が夫妻だ、誰が」


会話を聞いていた深夜が口を挟む。

柚子葉も隣で頷いている。


「あれ?俺は濱田から愛の逃避行をしたって聞いたけど?」

「…濱田。お前何言ってるんだよ」

「お前が『先生には上手く言ってくれ』って言ったから。ただ、『出て行った』っていうより上手いだろ?」

「そういう意味で言ったんじゃねぇよ。上手く誤魔化してくれってことだろうが」

「あぁ、そういう意味だったんだ。全然気づかなかったよ」

「…お前後でデコピンの刑な。柚子、席つこうぜ」

「あ、うん」


深夜と柚子葉は席につこうと歩き出した。

教室の後ろに立っている保護者の前を歩いていると深夜は浩史と敬子が立っているのに気づき小声で話しかけた。


「あれ?戻ってきてたんだ?」

「今朝な。ほら、さっさと席に着け」

「はいはい」


深夜はまた足を進めて自分の席についた。

勇一は二人が座ったのを確認して口を開いた。


「さて、二人も戻ってきたことだしHRを進めるか。山下、前に来い」

「え?」

「卒業証書いらないのか?」


勇一は柚子葉の卒業証書を掲げた。

柚子葉は席を立って駆け足で教卓の前に進んだ。


「卒業証書、山下柚子葉殿。…卒業おめでとう」

「ありがとうございます」


柚子葉は勇一から卒業証書を受け取り席に戻ろうとした。

が、勇一に肩を掴まれ柚子葉が振り向くと勇一は笑みを浮かべていた。


「まぁ、待て。山下から皆に一言」

「え?」

「別になんでもいいぞ。目標でも思い出でも好きなことを言っていいから」


そういって勇一は柚子葉の肩から手を離した。

柚子葉は教室内を振り替えり、戸惑いながら口を開いた。


「えっと…、何を言ったらいいのかよく分からないんだけど皆と過ごせて楽しかったです。私は保育士目指して大学で勉強を頑張りますので皆も頑張ってください。以上です」


柚子葉が頭を下げると教室から拍手が起こった。

柚子葉は恥ずかしそうに早足で自分の席に戻った。


「よし、いいか皆。もし子供ができたら山下の保育園に預けるんだぞ」

「は〜い」


勇一の言葉にクラスメイトが賛同して教室に笑いが起こる。


「最後にクラス代表の山上、前に出て来い」


勇一がいうと深夜は立ち上がって歩き出す。

深夜が教卓の前に立つと柚子葉と同じように勇一が卒業証書を手渡す。

卒業証書を受け取った深夜はその場で振り返って教室内を見渡す。

深夜が話し出す前に勇一が声を出した。


「いいか〜、クラス代表のありがたい言葉だ。皆、しっかり聞くように」


その言葉を聞いて深夜は勇一に顔を向ける。


「そんな前振りいらないんだけど…」

「ほら、さっさと一言」


勇一が深夜の頭を掴んで前を強引に向かせる。

深夜はため息をついた後、口を開いた。


「俺、本当にこのクラスでよかったって思ってる。正直こんな風にクラスに溶け込んで卒業できるとは思ってなかった。二年が始まるとき、この教室で俺が話せるのは翔だけだった。でも、その日のうちに柚子と会って、話すようになって。で、次の日に柚子の友達の井上と田中と話すようになって。二年のうちは大体翔や柚子達としか話さなかった。けど、三年になって達志や濱田とも話すようになったし、他の皆と笑ったりして楽しかった」


深夜の言葉に生徒だけでなく保護者も耳を傾けている。

浩史と敬子も普段見れない息子の姿をしっかりと目に映している。

深夜は一息ついて言葉を続けた。


「俺についての噂はほとんど事実だった。だから、話してもらえるとは思ってなかったけど皆は今の俺を見てくれた。それが本当に嬉しかった。学園祭のときも俺の昔のこと、荒れてた理由を話したけど皆は同情するようなこともなく今までどおりに接してくれた。一応大崎と金田には『するな』って言ってたし恐らく俺のことを良く知ってる翔が言ったんだろうけどそれでも嬉しかった。他のクラスだったらどうなってたか分からないけど俺はこのクラスで本当に良かった」


深夜はまた一息ついた。

ふぅっと息を吐き、目を少し瞑ってもう一度深呼吸をした後目を開けた。


「今日でこの教室で勉強することは無いって思うと少し寂しい。でも、もうこれで終わりってわけでもない。さっき来賓のお偉いさんの誰かが言ってただろ。『皆さんはここを旅立ちますが』って。俺はそのとおりだと思ってる。俺『別れる』っていうより『旅立つ』っていう言葉のほうが好きなんだよ。どっちも人と離れ離れになるってことには変わりない。けど、旅立つってことは何か目標があるからここを離れるってことなんだと思う。俺は教師になりたいから、柚子は保育士になりたいから大学に行く。他にも専門に行く奴だっているし、就職する奴、浪人になる奴だって一緒だ。行きたい大学があるからこそ浪人して勉強を続けて大学に行く。それは目標があるから頑張れるんじゃないかな」


深夜は言葉を止め教室の中を見渡した。

生徒達は深夜の顔をしっかり見て、頷く生徒もいる。

深夜は少し笑みを浮かべた。


「さっき俺は『これで終わりじゃない』って言った。それはここを『旅立つ』からだ。旅立つってことは将来何年後か分からないがここに戻ってくるってことだろ?言葉通りこの学校に戻ってくるわけじゃないけど、このメンバーで、この雰囲気でまた会えるときがある。だから、俺はここを旅立てるんだ。それにもし俺が何かあって大変なことがあってもきっと柚子や翔が支えてくれる。皆だって何かあればきっとここにいる誰かが支えてくれる。その中には俺だって入ってるから何かあったら連絡を」


深夜の最後の一言に教室から笑いが起こった。

その中には泣いている生徒も何人かいるし、保護者の中にも笑みを浮かべている人、ハンカチを目に当ててる人もいる。

浩史は深夜を誇らしげに、そして感心したような目で見ていた。


「何かムダに長くなったし、何が言いたかったのか微妙になったけど俺の話は以上だ。皆、ありがとう!」


深夜は最後に今まで一緒に頑張ってきたクラスメイトに向け感謝の意をこめて頭を下げた。

教室から拍手と涙をすする声が聞こえる。

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