STORY26-3 『一緒に暮らさないか?俺の部屋で』
深夜と柚子葉は二人で校舎内を歩いていた。
どこに向かっているか柚子葉は深夜からまだ何も聞いていない。
柚子葉は前を歩いている深夜に話しかけた。
「し、深夜?どこ行くの?」
「二人で話せる場所。やっぱ屋上が一番安全かな」
「何の話?」
「大事な話だから屋上で話す」
そういって深夜は柚子葉を屋上に連れてきた。
屋上を出ると雲一つない青空が柚子葉の目に飛び込んできた。
「うわぁ〜、いい天気」
柚子葉は風で靡く髪を押さえながら屋上からの景色を楽しんだ。
屋上から見る景色も今日で最後だ。
なのでいろんな方向を見始めた。
深夜はゆっくりと景色を見ている柚子葉に近寄った。
「柚子」
「何?」
「こうやって柚子とちゃんと話すようになってもうすぐで二年だよな?」
「う、うん。二年の春の始業式に保育園で会ったから。でも、どうしたの?」
「あれからいろいろあったよな。あの時は正直こんな風になってるとは思えなかった。柚子と付き合うなんてこともクラスメイトとも笑いあえるなんてことも、な」
「私もだよ。あの時は深夜が保育園にいるのを見て『何で』っていう気持ちしかなかったもん。それに…」
「俺のこと苦手だったんだろ?」
「…うん。深夜の噂を聞いてから『怖い人なんだろうなぁ』って思ってた」
「保育園で見ただけで分かった。すっげぇ俺のこと怖がってて言葉も敬語だったし。まぁ、その日が終わるころには普通に話してくれたけど」
「深夜が噂と違うっていうのが分かったからかな。普通の同級生って感じたの」
「柚子と付き合うようになっていろんなことを柚子とした気がする。もちろん翔や井上達とも遊んだし、秀太と三人でデパートにも行った。けど、柚子と過ごす時間が一番多かった気がするんだ。勇兄や姉貴と過ごすよりも」
深夜はそういって少し間を空けた。
柚子葉はまだ話の本題をつかめていない。
思い出話をするためにここに来たわけではないと思うが、一体何を言いたいのだろう…
柚子葉が考えていると深夜はまた口を開いた。
「高校を卒業して、大学に入っていろんな人と会っていろんなことをして。今まで会った人とももっといろんな話をしたい。でも、それ以上に柚子と一緒にいたいんだ」
「え?」
「…これ」
深夜はポケットからあるものを取り出して柚子葉に差し出した。
柚子葉は深夜から受け取ったものを自分の目線の高さまで持ち上げた。
「…鍵?どこの?」
「俺の部屋の鍵」
「え?」
「一緒に暮らさないか?俺の部屋で」
「どういうこと?」
「そのまま。俺と同棲しないかってこと」
「ど、同棲?」
「あぁ。さっきも言ったとおり俺もっと柚子と一緒にいたい。今も柚子と一緒にいる時間は多いとおもうけど、一緒に暮らすからこそ見えるものもあると思うんだ。嫌なところも見つかるだろうし違う面も見えると思う。俺は柚子の知らない所をもっと知りたい。だから、一緒に暮らして欲しい」
深夜は柚子葉の目を見詰めて自分の今の想いを柚子葉に伝えた。
柚子葉は自分の手の中にある鍵を握って深夜の顔を見詰めた。
突然の提案で柚子葉は内心驚いている。
だが、すでに答えは決まっている。
「…私も、深夜と一緒に暮らしたい、よ?」
「…なんでそんな言葉を区切るんだよ。ちょっと嫌々なんじゃないかって感じる」
「ちょっと驚いたから。けど、嫌じゃないよ。嬉しい」
柚子葉は照れ笑いを浮かべた。
深夜はゆっくりと柚子葉を抱きしめ、柚子葉も深夜の背中に手を回す。
抱きあったまま柚子葉は思い出したように呟く。
「あ、でもお母さんに聞いてみないと」
「あぁ、それなら大丈夫」
「え?どういうこと?」
「実はさ、先におばさんには話してたんだよ。正月に、な」
「え、じゃあ、そのときから同棲のこと考えてたの?」
「あ〜、もうちょい前からかな。柚子を送っていくときや、見送るときに思ってたんだよ。だから、おばさんに先に許可もらった。もし、大学に合格できなかったら同棲の話はしないって約束で」
「そうだったんだ…」
「近くに保護者がいるし、勇兄達は俺の部屋にいつも通り来るだろうし、秀太も家で面倒をみる。実際、柚子が一番影響がでかいと思う。けど…」
「うん、一緒に暮らす。だって、深夜が助けてくれるんでしょ?」
「…あぁ、もちろん」
柚子葉が深夜の顔を見上げると深夜は笑みを浮かべて顔を寄せてきた。
柚子葉も目を瞑って深夜からのキスを待った。
数秒、唇をつけたあと深夜が柚子葉を離した。
「さすがにそろそろ戻らないとまずいだろう」
「あ、そうだね。もしかしたらもうHR始まってるかも」
深夜と柚子葉は二人揃って屋上の鍵を閉める前にもう一度屋上を見渡した。
「…もうここに来ることもないな」
「…うん。ここもいろんな思い出があるね」
屋上ではいろんなことをした。
深夜と柚子葉の二人きりで弁当を食べたこともある、翔や真希達と一緒に5人で笑いあったこともあった。
数秒、屋上を見た後深夜がドアを閉めて鍵をかけた。
「行くか?」
「うん」
二人は屋上を後にして、自分達の教室に戻った。