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STORY26-2 『ご苦労様』

式は進み卒業証書授与が始まった。

A組から順にクラス全員の名前が呼ばれ、その中から代表者が一人壇上に上り卒業証書を受け取る。

B組の代表者が卒業証書を受け取るとC組の担任である勇一が立ち上がりマイクの前に足を進めた。

そして、B組が全員座ったことを確認すると名簿を開き口を開いた。


「C組、井上真希」

「はい」


深夜達のクラスの出席番号1番である真希の名前を勇一が呼び真希が立ち上がる。

次々に勇一に名前を呼ばれたクラスメイトが立ち上がる。

圭も翔も立ち上がっており深夜の前のクラスメイトが立ちあがった。

勇一が深夜の名前を呼ぶ。


「山上深夜」

「はい」

「山下柚子葉」

「はい」


深夜が立ち上がると続けて勇一が柚子葉の名前を呼び柚子葉も立ち上がる。

そして、勇一は少し間を空けた。


「…以上。C組代表、山上深夜!」

「…は?俺?」


勇一が呼んだ名前を聞いて深夜の口から声がこぼれた。

隣に立っている柚子葉が深夜に小声で話しかけた。


「し、深夜。返事しないと」

「あ、そっか。…はい」


深夜は返事をして面倒くさそうに歩き出した。

深夜が歩き出したのを見て保護者の席からざわめきが起こった。

そのざわめきを聞いて深夜はため息をついた。

自分の名前が呼ばれて歩き出すときにこうなるのではないかと少し思っていた。

とりあえず壇上に進むと校長が深夜に卒業証書を渡す。

それを受けとり壇上から降りると深夜のクラスが全員深夜のほうを向いて笑みを浮かべていた。

深夜も苦笑いを浮かべて自分の席に戻るとクラス全員が揃って座った。


「何で俺なんだよ…」

「ご苦労様」


座った深夜の口から零れた言葉を聞いて柚子葉が声をかけた。

深夜が苦笑いを浮かべると前の席に座っている翔が頭を後ろに下げて話しかけた。


「お疲れ、クラス代表」

「うっせぇ。てっきり濱田かと思ってたのに何で俺が代表なんだよ」

「投票の結果なんだから仕方無いだろ。それだけお前はクラスの奴らから認められてるんじゃないか?」

「どうかな。達志や大崎、金田は嫌味で入れそうだけど」

「でも他の奴も入れたからお前が代表になったんだろ?ま、光栄に思ってろ」


翔はそれだけ言うと頭の位置を元に戻した。

深夜がもう一度ため息をつくと柚子葉は笑みを浮かべた。

全クラスへの卒業証書授与が終了し、来賓祝辞が行われた。

来賓が前に出るたび卒業生達は起立・礼・着席を繰り返した。

来賓が話をしている間、深夜は欠伸をしたり翔に後ろからちょっかいをかけ翔も深夜に応戦したりしていた。

来賓祝辞も終了し、在校生代表送辞が行われた。

現生徒会長の生徒が前に立ち文章を読み始める。

卒業生の席から泣いているような音が少しずつ聞こえてくる。

前のほうの席は分からないが深夜の周りではまだ泣いているような生徒はいない。

送辞を終えると今度は深夜達の代の生徒会長、倉田が壇上に上がり答辞を読み始めた。

答辞を読み始めると先ほどよりも泣き始めた生徒が多いようだ。

卒業生の席から、そして在校生の席からも涙ぐむ声が多く聞こえるようになった。

深夜の隣に座っている柚子葉の目にもこの三年間のことを思い出して涙が溜まり始めた。

特に二年・三年のことをよく思いだしてしまう。

行事の時には周りにはいつも真希や圭、翔が…そして深夜がいた。

楽しいときは皆で笑って、誰かが悲しんでいるときは皆で慰めた。

もちろん喧嘩も何度かあった。けれど、その度に仲直りをした。

もうこうして皆で何か行事に参加することはない…

そう思うと目から涙が出てきたのだ。

柚子葉が手で涙を拭うと反対の手を深夜がそっと包んだ。

驚いて柚子葉は深夜の顔を見て柚子葉も深夜の手を包み返した。

二人は席に座っている間ずっと手を繋いでいた。

答辞を終えると卒業式で最後の項目を松田が告げた。


「校歌斉唱。一同、起立!」


松田の言葉を聞いて体育館にいる全員が席を立った。

そして、音楽教師が校歌の伴奏を始めた。

この制服を着て校歌を歌う機会は最後となる。

やはり涙を流しながら校歌を歌う生徒が出ている。

校歌を歌い終えると松田が口を開く。


「以上で卒業式を終わります。一同、礼!卒業生、退場!」


全員で礼を終えると卒業生が退場しはじめた。

拍手が起こる体育館の中をA組から順に退場していく。

B組も退場し終わると真希を先頭にC組も出入り口に向け歩き出す。

深夜は片手に卒業証書を持って体育館の外に出た。

出入り口には卒業生が固まっていて女子生徒のほとんどが泣いていた。

泣いていた男子生徒もいたのだろう、同じクラスの生徒にからかわれている生徒もいる。

外に立っていた大竹が固まっている生徒達に指示を出す。


「ほら、ここで固まってないで自分達の教室に戻れ!」


大竹の指示を受け生徒達は各自の教室に戻り始めた。

深夜達も教室に戻り自分達の席についた。

朝、勇一の言ったとおりHRまで少し時間があるので生徒達は写真を撮ったり話をしたりしている。

深夜が座っていると濱田、大崎、金田が近寄ってきた。


「よぉ、クラス代表」

「うるさい。っていうか何で俺なんだよ」

「いや、どう考えてもお前だろ。なぁ?」

「そうそう。俺達は全員お前に入れてるし」

「はぁ?何で俺に入れたんだよ」

「だって、この一年お前はクラスの中心だったろ?うちのクラスはお前を頼りにしてたし」

「多分うちのクラスのほとんどはお前じゃないのか」

「マジかよ…。まぁ、済んだ事だし別にいいけどさ。それよりも確か今から少し時間があるんだよな?」


深夜は濱田に確認をこめて話しかけながら立って歩き出した。

濱田は頷いて深夜が歩けるように横にずれた。


「あぁ。少しならあるけどどこ行くんだ?」

「ちょっと抜けるわ」

「は?お、おい」

「先生には上手く言ってくれ」

「あ、山上!」


後ろで濱田が声をかけるが深夜は何も答えずに歩き出す。

真希や圭、他の女子生徒と話してた柚子葉は深夜が近寄ってくるのが分かって顔を向けた。


「どうかしたの?」

「柚子、ちょっといいか」

「え?」

「悪い。柚子連れて行くな」

「山上?」


深夜は柚子葉の手を取って歩き出す。

柚子葉は何が何だか分からないがとりあえず深夜の後を追う。

二人が教室から消えるとクラスがざわめきだした。

すると、前のドアから勇一が、後ろのドアから卒業式に出ていた保護者が教室に入ってきた。


「こらこら、静かにしろ!ほら、親御さんもいるんだからさっさと席に着く!」


勇一の言葉に生徒達はざわめきながらも席に座る。

全員座ってもまだ椅子が空いてるのを見て勇一は濱田に話しかけた。


「あれ。おい、濱田。山下と山上はどうした?」

「あ、二人なら…愛の逃避行に行きました」

「はぁ!?どういうことだ?」

「いや、どういうことって言われても、なぁ?」


濱田は他の生徒に話しかけた。

生徒達も頷きながら話し出した。


「山上が立ち上がって山下の手を取って教室を出て行きました」

「そうそう。愛の逃避行だね」

「あぁ、まったくだ。もしくは…駆け落ち?」

「勝手なこと言うな。ったく、あいつらは…」

「先生、うちの息子のことなら気にせずに進めてください。ねぇ、山下さん?」

「ええ。山上さん。娘はまた戻ってきますから。他の皆さんもいますんで進めてください」


勇一が困っていると保護者から声が聞こえてきた。

聞こえてきたほうに勇一が顔を向けると深夜の両親の浩史と敬子、それに柚子葉の母親の恭子が笑みを浮かべて立っていた。


「…分かりました。なら、先に進めます」

「先生、あの二人に何かペナルティつけましょうよ」

「そうだな…。最後だし何かペナルティさせるかぁ」


生徒の声を聞いて勇一は意地悪な笑みを浮かべ、生徒達と何のペナルティをするか相談し始めた。

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