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STORY25-END 『…反則だろ、あれ』

マンションに着いた深夜は夕食の準備を始めた。

柚子葉は秀太の相手をリビングでしている。

リビングから聞こえてくる笑い声を聞きながら深夜は料理の手を休めることなく準備をしている。

少ししてリビングから笑い声が止まった。

そして、台所に柚子葉が近づいてきた。


「手伝うよ」

「秀太は?」

「寝ちゃった」

「今から寝たら今日の夜眠れなくならないか?」

「そうだけど。起こすのもあれだし…」

「ま、寝たものはしょうがない。じゃあ、これ炒めてくれ」

「分かった」


深夜は今自分が炒めていたフライパンを柚子葉に渡し、違う料理の準備を始めた。

柚子葉は材料を炒めながら呟いた。


「いつからだろ…」

「ん?」


柚子葉の呟きが聞こえた深夜は柚子葉に顔を向けた。


「何が?」

「え?」

「いや、今『いつから』とか言わなかったか?」

「聞こえたの?」

「あぁ。で、何がいつからなんだ?」

「この台所…」

「台所がどうかしたのか?」

「家のより使いやすい気がする。時々だけど家の台所を使うときに器具がどこにあるか分からなくなったりするし」

「…悪い。ちょっとトイレに行ってくる」

「あ、うん。これ炒めた後どうするの?」

「それシチューの材料だから」

「分かった」


深夜は台所を離れトイレに入ってズボンを下ろさずに便座に座った。

そして、頭を抱えた。


「…反則だろ、あれ」


まさか柚子葉の口からあんな言葉が出てくるとは深夜は思っていなかった。

不意打ちを食らった深夜は一人になれるトイレに逃げ込んだのだ。

柚子葉は深夜の台所のほうが使いやすいと言った。

確かに考えてみればおかしくはない。

恭子が仕事の際は必ず柚子葉は深夜の部屋に上がる。

深夜が料理を作ることもあるが柚子葉だけで料理を作るときもあるし二人で料理も作る。

恭子が家にいる場合は恭子が料理を作るということを聞いているので柚子葉が家の台所を使用する機会というのは少ないのだろう。

三年になってからは受験ということもあって土日でも柚子葉は勉強をしに深夜の部屋に来ていた。

デートをしても最後は深夜の部屋で話をしていた。

あまり気に止めてなかったが深夜の部屋に柚子葉がいることが当たり前になりつつある…

深夜の思い違いかもしれないが、柚子葉の言葉を聞くとそう思える。

嬉しい反面恥ずかしいのも事実だ。自分の部屋に彼女がいて当たり前という事実が。

深呼吸をして少し落ち着いた深夜はトイレから出た。

トイレから出るとリビングで寝ている秀太の姿が見えた。

その姿に笑みを浮かべ深夜は台所に向け足を動き出した。

が、すぐに立ち止まった。

深夜の視線の先には台所で夕食の準備をしている柚子葉の姿がある。

コンロの前にたって恐らくシチューを温めているのだろう、鍋をかき混ぜている。

よく見ている風景だが今日だけは何故かいつもと違う感じを受けた。

さっきトイレの中で考えたことを思い出して深夜は自分の顔が赤くなっていくのを感じた。

顔を逸らそうとしたときに柚子葉が深夜のほうを振り返った。


「あ、深夜。シチューのルーってどこにあるの?…深夜?どうかしたの?」

「な、なんでもない。ルーなら確かそこの棚にあるはずだけど」


深夜は柚子葉の言葉に慌ててルーを置いてある棚に近寄った。

柚子葉は深夜の行動に少し疑問を抱いたが気にせずに鍋のアクを取り除きだした。

深夜は棚からルーを取り出してまた一つ深呼吸した。

そして柚子葉のほうに近づいた。


「はい。ルー」

「ありがとう。こっちは何にするの?」

「パスタの具にしようかなと。玉ねぎとか後はウィンナーとか入れて」

「ソースは?」

「買い置きがあったからミートソース」


深夜と柚子葉は話しながら夕食の準備を続けた。

なんとか深夜も平常心を取り戻して夕食の準備をしている。

夕食の準備を終えてもまだ秀太は起きなかった。

起こそうとも思ったがとりあえず7時までは寝かせることにした。

とりあえず深夜と柚子葉はリビングで時間を潰すことにした。

深夜は読みかけの小説の続きを、柚子葉は雑誌を読み始めた。

二人に会話はなく、ページをめくる音が聞こえる。

だが、特に居心地が悪いということはない。

その静けさは秀太が起きるまで続いた。

秀太が起きてから深夜達は夕食をとった。

夕食をとってまたリビングに座り話をしていると勇一が帰ってきた。


「ただいま」

「おかえり。今温めなおすからちょっと待って」

「悪いな」


深夜が料理を温めなおしている間、勇一は食卓の椅子に座って待っている。

深夜は温めなおした料理を食卓に運び終えるとリビングに向かおうとしたが足を止めて勇一に話しかけた。


「勇兄」

「ん?何だ?」


勇一は料理を口に運びながら深夜のほうに顔を向けた。

深夜は食卓の椅子に座って言葉を続けた。


「卒業式なんだけど」

「おぉ。それがどうした?」

「卒業証書取りいくの投票なんだって?」

「あぁ。最初は俺が指名しようともおもったんだがクラスの代表だから皆で決めたほうがいいかと思ってな」

「ふぅ〜ん。松田とか何も言わないの?こんな決め方で」

「クラスでの決め方は自由だからな。むしろ『面白いですね』だってさ」

「…そんなんでいいのかよ」

「いいのいいの」


二人で話してると柚子葉が立ち上がって近づいてきた。

深夜は話を止めて柚子葉のほうに顔を向けた。


「柚子?どうした?」

「ちょっと家に戻ってくるね。秀太見ててくれる?」

「あぁ。鍵は開けとくから」

「分かった」


柚子葉は頷いてドアのほうに歩いていった。

ドアが閉まる音を聞いて勇一は深夜に話しかけた。


「山下どうしたんだ?」

「さぁ?そういえば結局チョコ何個もらった?」

「あ〜と、5個ぐらいかな。忍のは入れてないけど。お前は?結構もらったっていう話を聞いたぞ」

「ちゃんと数えて無いから分からんけど二桁はあった。とりあえず部屋に暖房入れるから溶けないように冷蔵庫に詰め込んだけど。いるなら食べていいよ」

「いらねぇよ。ごっそさん、これ下げとくな」


勇一は食べ終えた皿を持って流しのほうに歩いていった。

深夜も立ち上がってリビングのほうに向かった。

リビングではテレビの前を秀太が陣取っていた。

テレビでは秀太が好きなアニメが放送されている。

深夜がリビングに近づいたのも気づかないほど秀太はアニメに釘付けになっている。

深夜は苦笑いを浮かべて椅子に座った。

そこにコーヒーを片手に勇一も近づいてきて深夜の近くに座った。

勇一が座ったと同時にインターホンが鳴った。


「柚子か姉貴かどっちだろ」

「山下だろ」


深夜と勇一がドアのほうを向いていると柚子葉、それに忍が入ってきた。

柚子葉と忍はそれぞれ紙袋を持っていた。


「あれ?一緒だったの?」

「エレベータで一緒になったの」

「ふぅ〜ん。で、二人とも何持ってんの?」

「何って…。チョコだけど」

「サンキュ。なかなかくれないから内心焦ってたんだ」

「植田先生にもあります」

「俺にも?悪いな」


柚子葉は紙袋から深夜用のチョコと勇一用のチョコの二つを取り出してそれぞれに渡した。

深夜に渡されたチョコと勇一のチョコの大きさは違う。

それを見て深夜はホッとしたような顔を見せた。

柚子葉が勇一にもチョコがあると言ったときに内心もしかしたら一緒ではないかという不安が出ていた。

サイズの問題ではないと思ってはいるがやはり彼女からのチョコが誰かと一緒というのは気にいらない。

勇一はそんな深夜の心情に気づいたのか笑みを浮かべて話しかけてきた。


「深夜、ちょっと安心しただろ?」

「そんなことねぇよ」

「嘘付け。もしかしたら山下からのチョコが一緒じゃないかって心配だったんじゃないか?」

「だから、そんなことないって。それよりも姉貴からチョコもらわないの?」

「もうもらったよ。お前が何か考えてる間にな。さて、忍。俺らはちょっと席を外すか」

「そうね。たまには二人きりにさせてあげましょうか。秀太君、おいで」


勇一と忍は秀太を連れて部屋で出て行った。

残された深夜と柚子葉はとりあえず隣に座った。


「チョコありがとな。食べていいか?」

「うん。去年と同じレシピで作ったはずだから大丈夫だと思うけど」

「…うまいよ。柚子も食べたら?」

「じゃあ、もらおうかな」


深夜は柚子葉からもらったチョコを作った本人に差し出した。

柚子葉も口に含んで味わった後笑みを浮かべた。

思ったよりも上手に出来たので安心したようだ。

深夜も笑みを浮かべて背伸びをした。


「にしてもやっと肩の荷が降りたっていう感じだな」

「大学のこと?」

「ちょっとは心配してたんだよ。落ちてたらどうしようって。でも第一志望の大学合格が決まって一安心だ」

「春からも一緒の大学ってことだよね」

「あぁ。科が違うからなかなか会う機会もないだろうけどな」


深夜は柚子葉の肩を抱き寄せた。

突然のことだったので柚子葉は驚いたがすぐに深夜の肩に頭を乗せた。

そのまま二人は寄り添ったまま何も話さなかった。

結局勇一達が戻ってくるまで何も話さずに寄り添うだけだった。

勇一達が戻ってきてからはいつものように世間話をして過ごし、秀太が寝たので柚子葉達は部屋に戻ることにした。

深夜は秀太をおんぶして三人で柚子葉の部屋に向かった。

柚子葉の部屋に着くと深夜は部屋に上がり秀太を布団に寝かせた。


「よし。じゃあ、俺戻るな」

「いつもありがとう」

「気にすんなって。別に嫌々やってるわけじゃねぇんだから」


深夜は玄関で靴を履きながら笑顔で柚子葉に顔を向けた。

柚子葉も深夜の顔を見て笑みを浮かべた。

深夜は柚子葉を抱き寄せて唇を寄せた。

柚子葉も目を閉じた。

数秒、唇を合わせた後深夜は口を開いた。


「もうすぐ俺車校行くって話したよな?」

「うん。どうかしたの?」

「毎日ってわけじゃないから柚子の時間が空いたときに電話かメールして。車校の実技がその日入ってなかったらその時にデートしよう。今まで外で遊ぶってことはなかなかできなかったからどこか行こうぜ」

「うん。でも、私ほとんど暇だよ?たまに真希たちと遊びに行くのと後は秀太の面倒見るぐらいだから」

「じゃあ、俺からメールしたほうがいいかな。まぁ、そのときによって変えるか」

「そうだね」

「んじゃ、俺そろそろ戻るわ。おやすみ」

「おやすみ」


深夜と柚子葉はもう一度唇を合わせてそれぞれの部屋に入り、眠りに就いた。

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