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STORY24-2 『気遣い?』

深夜は一日目を終えて電車に乗っていた。

電車に揺られながら深夜は今日の試験の出来を思い出していた。

自分としてはまぁまぁの出来だったと思う。

明日の試験を終えれば少し気持ちにも時間にも余裕も出るだろう。

最近柚子葉とゆっくりと過ごす機会も減っていた。

正確には一緒にはいるのだが柚子葉が気をつかってか、あまり深夜と話しかけない。

深夜から話すと柚子葉も話し返してくるのだが…。

それに秀太とも最近遊んでいない。恐らく柚子葉か恭子が邪魔をしないように言っているのだろう、寂しそうに勉強をしている深夜をちらちら見てくる。結局は気になって深夜から声をかけて遊ぶのだが。

今度の土日にどこか遊びに誘おうと深夜は決めた。

そんなことを考えていると最寄の駅に着いた。

電車の中には深夜と同じく高校生の姿も多かった。

が、その駅で降りたのは深夜だけだった。

駅から出ると柚子葉が壁に寄りかかっているのが見えた。

深夜はため息をついてそちらに向かうと足音に気づいた柚子葉が顔を上げた。


「あ、おかえりなさい」

「ただいま。…いつから?」

「え?この電車に乗るかなと思ってたから5分ぐらい前かな」

「来るんだったらメールすれば良かったな。んじゃ、帰るか」

「うん」


二人は歩いてマンションに帰った。

深夜の部屋に入ると恭子が台所に立っていた。

何故台所に恭子が立っているのか分からない深夜は声をかけた。


「…おばさん?」

「おかえりなさい。台所使わせてもらってるから」

「それはいいですけど何してるんですか?」

「見て分からない?」


深夜は改めて恭子の姿を見た。

恐らく家から持ってきたのだろう、エプロンを身に着け手には包丁がある。

深夜は頬を掻いた。


「どう見ても料理ですよね…」

「ええ」


恭子は笑みを浮かべてまた料理に戻った。

深夜は慌てて声をかける。


「いや、そうじゃなくてですね。どうしてここで料理をしてるのかって聞きたいんですけど」

「忍さん達と相談してね」

「姉貴達と?」

「ええ。本当は昨日も作る予定だったんだけど仕事が入っちゃって」

「そもそもどうして作ることになったんですか?」

「それは後で話すことにして先に着替えてきたら?柚子葉は手伝ってくれる」

「あ、はい」


深夜は恭子の言葉に頷いてとりあえず自分の部屋に入った。

着替え終わって先ほどの部屋に戻ると台所に恭子と柚子葉、リビングの椅子に勇一と忍が座っていた。

とりあえず深夜は勇一達のほうに向かった。


「勇兄」

「おぉ、お疲れ」

「お疲れじゃねぇって。どういうこと?」


深夜はとりあえず椅子に座って勇一に話しかけた。

勇一も一つ頷いて口を開いた。


「三人で話してたんだ。『もうすぐセンター試験ですね』って。恭子さんが深夜に勉強に集中して欲しいって言ってくれて今日は夕食を作ってくれることになったんだ」

「それはありがたいけど俺今日勉強する気はないよ?」

「私達もそう言ったんだけどね」


二人の会話に忍が口を挟む。


「でも、恭子さんの気持ちを無駄にするわけにもいかないでしょ?」

「まぁ…」

「ご飯できましたよ」


三人で会話してると柚子葉が呼びに来た。

テーブルに近づくと料理が並んでいた。

深夜は恭子に頭を下げた。


「すいません」

「私が好きでやってることだから気にしないで」

「ところで深夜、今日の出来はどうだった?」


勇一が食卓に座りながら深夜に聞いてきた。

深夜も食卓に着き柚子葉から礼を言って茶碗を受け取りながら勇一に質問に答えた。


「まぁまぁ」

「じゃ、大丈夫だな」


二人の会話を聞いていた柚子葉と恭子は首をかしげた。

忍が二人の疑問に答えるように説明しだした。


「深夜はあまり『出来た』とか言わないからこういう言葉を聞くと『大丈夫』ってことだと思うようになったの」

「そういえば学校でもあまり聞かないかも…。いつも『まぁまぁ』とか『ぼちぼち』とか」


柚子葉はそういいながら深夜のほうに視線を向けた。

深夜は柚子葉の視線を受けながら口を開いた。


「根拠がないからな」

「え?」

「『出来た』って言ってもそれは俺が勝手に言ってることであって本当は出来て無いことだってある。だからそんな簡単に『出来た』って言いたくないんだ。もちろん物に残ることは言うけど」

「物に残る?」

「例えば、パズルとかプラモデルとか。出来たってことがちゃんと分かるものに関しては言うけどテストとかって自分は正解と思って書いてるからあまり言いたくないんだ」


深夜の言うことに関して柚子葉はちゃんと理解できなかった。

深夜は苦笑いを浮かべた。


「ま、根拠が無いってことだけ覚えてて。お前だって出来たって思ったテストで失敗したことあるだろ?」

「う、うん」

「だから、言いたくないっていうだけ」


深夜はそれだけ言って食事を再開した。

柚子葉も自分に覚えがある事例で説明してもらったので今度こそ理解できた。

二人を見てて勇一達は笑みを浮かべた。

食後、深夜達はリビングに場を移して話をしていた。

試験のことに関係しない世間話などをしていると深夜の口から欠伸が零れた。

それを見て勇一は深夜に話しかけた。


「深夜、今日はもう寝たらどうだ?」

「ん〜…どうしようかな。…早いけど寝るわ」


深夜はそういって立ち上がった。

恭子に挨拶をして寝室に入ろうとしたが寝室に入る前に足を止めて勇一達を振り返った。


「今日も同じ時間に出るから」


深夜はそれだけ言って寝室に入っていった。

勇一と忍は深夜が何故それだけ言いたかったのか分からなかった。


「深夜どうしたんだろうな」

「ねぇ。普段一人でするからあんなこと言わないのに」


勇一と忍はまだ理由が分かっていないようだ。

柚子葉もよく分かっていないようだが恭子だけは笑みを浮かべていた。


「お母さん?」

「多分あんたに言ったのよ」

「え?私に?」

「柚子葉、朝深夜君を待ってたでしょ?」

「そうなのか?」


柚子葉と恭子の会話を聞いていた勇一が柚子葉に話しかけた。

柚子葉は頷いて口を開いた。


「はい。でもそれが?」


柚子葉は勇一に答えた後、恭子に話しかけた。

恭子は柚子葉を諭すように答えた。


「また柚子葉が待たなくていいようにああやって言ったんでしょう。柚子葉に直接言わなかったのは深夜君の気遣いだと思うわ」

「気遣い?」

「無理に待たなくていいってことだと思うわ。待つんだったら同じ時間に出るからそれに合わせれるでしょ?」


恭子の言葉に柚子葉は頷いた。

今日の朝は深夜を20分ぐらい待っていて、深夜は来るとすぐに柚子葉の手を握ってきた。

柚子葉の手の冷たさに深夜は驚いていた。

恭子の言うとおり柚子葉に気を遣ってさっきの言葉を言ったのだろう。

試験前日まで気を遣わせてしまったことに対して柚子葉は少し反省した。

それが分かったのか勇一は柚子葉に話しかけた。


「山下?どうかしたか?」

「いえ…、ただ明日試験なのに私のほうが深夜に気を遣わせてしまって…」

「あぁ、それは気にしないでいいと思うぞ」

「え?」

「というよりもお前昨日家に来なかっただろ?あれ逆効果だったぞ」

「どういうことですか?」


勇一は何かを思い出したのか笑みを浮かべて柚子葉の疑問に答えた。


「あいつリビングで呟いたんだよ。多分俺が聞いてるとは思わなかったんだろうな」

「何て言ったんですか、深夜は?」

「『何で柚子来ねぇんだろう』ってさ。お前が気を遣ってくれてるってのが分かってるからメールも送らなかったみたいだけどな」

「…逆効果だったんだ」


柚子葉は勇一の言葉を聞いて落ち込んでしまった。

勇一は笑みを浮かべてさらに柚子葉に話しかける。


「山下」

「…なんですか?」

「今から深夜のところ行って来い」

「え?でも、深夜もう寝てるんじゃ…」

「見てきてくれるか?」


勇一はそれから何も言わずに柚子葉をじっと見つめている。

柚子葉は少し戸惑ったが立ち上がって深夜の寝室に向かった。

柚子葉が立ち上がった後、深夜の寝室に入る柚子葉の姿を見た勇一達は顔を見合わせて笑みを零した。

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