STORY24-1 『センター試験。自信は?』
「じゃあ、行ってくる」
「おぉ、頑張ってこいよ」
「しっかりね」
「あぁ」
深夜は勇一と忍に声をかけて部屋を出た。
今日は一月の第三土曜日、つまりセンター試験当日。
深夜はふぅ〜とため息をついた。
深夜の口から出た息がすぐに白くなった。
首にまいたマフラーに手をかけて深夜はマンションのエレベータに乗った。
8階を通り過ぎたときに深夜はまたひとつため息をついた。
昨日柚子葉は深夜に遠慮したのか家には来なかった。
深夜が『大丈夫』と言っても柚子葉は首を縦に振ることはなかった。
深夜としては柚子葉といたほうが気が楽になるのだがそれに柚子葉は気づいていないのだろうか。
『仕方無いか』と思って深夜が一階に着いたエレベータから降りるとエントランスに柚子葉が立っていた。
深夜を待っているのだろうか、手に息を吹きかけている。
深夜は早足で柚子葉に近寄った。
「柚子」
「あ、深夜。おはよう」
「おはようじゃない。こんなに手が冷たくなって。いつから待ってた?」
深夜が柚子葉の手を握ると柚子葉の手は冷たかった。
恐らく30分は待っていたのではないだろうか。
柚子葉は時間を言うことはなく苦笑いを浮かべた。
「そんなに待ってないよ」
「ったく。電話すればいいだろうが」
「だって深夜を急がしたらいけないかなと思って」
「お前を待たせて風邪を引かれたらそっちのほうが集中できないって」
深夜は柚子葉のおでこを軽く突いた。
柚子葉は笑って深夜の手を握った。
「駅まで一緒に行っていい?」
「あぁ。けど、寒くないか?」
「ううん、大丈夫」
柚子葉が頷くので深夜もそれ以上は言わなかった。
そして、二人で手を繋いで駅まで歩き出した。
「どう?」
「何が?」
「センター試験。自信は?」
「ん〜…無い」
「え?」
「そんなもんだろ。絶対に受かるっていう自信は、な。どんな問題が出るかわからないし」
「でも模試だって」
「模試と本番は違うだろ?模試でどれだけいい点数を取っててもセンターで間違えたら意味ないし」
深夜の言葉を聞いて柚子葉が黙ると深夜は苦笑いを浮かべた。
「ま、一生懸命やってくる」
「…うん、頑張ってね」
柚子葉が笑みを浮かべて深夜に笑いかけると深夜も笑みを浮かべた。
駅に着くと深夜はカバンを背負いなおした。
「よし、行ってくる」
「あ、深夜これ…」
「ん?」
柚子葉はジャンバーのポケットからあるものを取り出して深夜に差し出した。
深夜はゆっくりと柚子葉からそれを受け取った。
「これ…もしかして手作り?」
「…うん」
「もしかして…これを作るために昨日来なかったのか?」
「ごめんね。間に合いそうになかったから。でも、なんとか出来たから」
それは小さなクローバーをモチーフにした御守りだった。
深夜は手のひらに御守りを乗せて少しそれを眺めた後に握った。
「サンキュ。俺なんで来ないのかって思ったけど納得した」
「それとね…」
「まだあんの?」
柚子葉は取り出す前に深夜に尋ねた。
「そういえば深夜今日のお昼どうするの?」
「ん〜、途中でコンビニで買おうかなって思ってるけど」
「これ…」
柚子葉は持っていたカバンから一つ弁当箱を取り出した。
深夜はそれを受け取った。
「これ柚子が作ったの?」
「うん。この前作ってくれたし」
「この前?…あぁ、あのときか。でも、あれは作ろうと思ったわけじゃないけど」
「いいの。私あんまり作ってないし」
「いや、嬉しいよ」
深夜は笑みを浮かべて弁当をカバンに入れた。
カバンに弁当を入れている深夜を見て柚子葉は声をかけた。
「ちょっと少ないかもしれないけど」
「え?」
「多すぎると午後の試験が眠たくなるかなって思って」
「あ、全然考えてなかったわ。普通に腹いっぱい食うところだった」
深夜は苦笑いを浮かべた。
柚子葉も笑みを浮かべて深夜に手を差し出した。
深夜は首を傾げたが柚子葉の意図が分かったのか手を差し出して柚子葉の手をギュッと握った。
そして、数秒して手を離した後深夜は口を開いた。
「行ってくるな」
「うん、行ってらっしゃい」
深夜はそういうと駅のほうへ歩き出した。
深夜が駅構内に消えるまで柚子葉は深夜を見送った。
柚子葉がマンションに戻ると恭子が朝食の支度をしていた。
「ただいま」
「あら、おかえり。深夜君は行ったの?」
「うん」
「そう…。さ、ご飯にしましょうか」
柚子葉はご飯を食べている間、そして午前中とどこか落ち着かないようだ。
午後になっても落ち着かない柚子葉を見て恭子が声をかけた。
「柚子葉。少しは落ち着きなさい」
「だって…」
「深夜君なら大丈夫よ。深夜君なら落ち着いて問題を解いてきっと合格できるわ」
「でも…」
「はぁ…。いい?今あなたにできることは何?ここでそわそわしているだけ?私だったら一番に柚子葉に出迎えて欲しいと思うんだけど。一番の笑みで、ね」
恭子はウィンクをしながら柚子葉に諭すように話しかけた。
柚子葉は頷いてジャンバーを手に取った。
「駅まで行ってくる!」
音を立てて出て行く娘を見て恭子は笑みを浮かべた。
そこに秀太がやってきた。
「おねえちゃんどこかいったの?」
「そうよ。さて、忍さんのところにでも遊びに行こうか?」
「うん!」
そういって恭子と秀太は二人で上にいる忍と勇一のところに向かった。