STORY23-7 『世界平和』
四人は話しながら夜の道を歩いている。
聖慈は歩きながら深夜に話しかけた。
「どこの神社に行くんだ?」
「近所の神社。一応露店も出るんですよ」
「人多いのはちょっとなぁ」
「あ~、去年は確か朝行ったんだよな?」
深夜は最後のほうは柚子葉に聞くような形で答えた。
柚子葉も頷いて聖慈に答える。
「朝はそんなに人は多くなかったですよ。ただ、この時間帯はどうか分からないんですけど」
「ま、行くしかないか」
そういって聖慈は雫と話し出した。
柚子葉はさっきから深夜のほうをちらちら見ていた。
それに気づいていた深夜は柚子葉だけに聞こえるように話しかけた。
「さっきから見てるのはこれか?」
「う、うん」
深夜が指差したのは今つけているマフラーだ。
このマフラーはクリスマスに柚子葉がプレゼントした手編みのマフラーである。
「外に出るときはこれ毎回つけてるんだよ。色も落ち着いてるから使いやすいんだ」
「使ってくれて嬉しいけどやっぱり恥ずかしいな…」
「恥ずかしがられても困るんだけど。でも、サンキュな」
深夜はそういって嬉しそうに微笑んだ。
柚子葉も深夜の顔を見て恥ずかしそうに、でも幸せそうな笑顔を見せた。
そして、四人は近所の神社に着いた。
が、深夜と聖慈はすぐに呟いた。
「…なんだよこれ」
「…俺だって驚きですよ」
二人が呟いたのは理由がある。
小さめな神社なのに初詣客であふれかえっているのだ。
とりあえず四人は鳥居をくぐり境内に向かった。
が、かなりの人の多さで四人は少し道から外れた。
「人多いな…」
「ですね。これだとはぐれそうで怖いな」
「でも、ここまで来て何もしないで帰るのもなぁ」
「仕方無い。とりあえず参り終わったらここでまた集まりましょう」
「だな。それじゃ行くか」
四人は集合場所を決めてまた先ほどの行列に入った。
深夜は人ごみにはいってすぐ三人とはぐれてしまった。
とりあえずお参りだけ済ませようと境内に賽銭箱の近くまで人の流れにそって歩き出した。
もう少しで賽銭箱というところで雫の姿を見つけた深夜はそちらに近寄り声をかけた。
「伊集院」
「あ、山上君。聖慈さんと柚子葉ちゃんは?」
「俺すぐにはぐれたから知らないけど伊集院もはぐれたのか?」
「うん。とりあえずお参りしてからさっきの場所に行けばいいかなと思って」
「そうか。とりあえず参るだけ参ろうか」
深夜の言葉に雫は頷いた。
二人ははぐれないように気をつけながらお参りをして人ごみから出た。
「すっげぇ人だったな」
「う、うん」
「とりあえずさっきの場所に戻るか。もしかしたら聖慈さん達戻ってきてるかもしれないし」
深夜と雫は先ほど決めた集合場所に向かって歩き出した。
先ほど決めた場所にすでに柚子葉と聖慈がいるのが見えた。
そして、その周りを数人の男が囲っていた。
深夜はすぐにそこに向かって走り出した。
雫も深夜の後を追って走り出した。
深夜は男達に近づくと足を止めた。
その音に気づいたのか男達は深夜に振り返り声をかけた。
「何だテメェ」
「俺達はそっちの兄ちゃんに用事があるんだよ。…お、そっちの娘もかわいいな」
男達は深夜に遅れてここにやってきた雫に目を向けた。
雫は男達の目から逃げるように深夜の後ろに隠れた。
深夜はため息をついて声を出した。
「はぁ…。新年早々ついてねぇなぁ。こんな馬鹿共の相手しないといけないとか」
「あ!?」
「テメェ…俺達とやる気か?」
「まさか。俺弱い奴と喧嘩する気とかないから」
「言ってくれるじゃねぇか」
男達はそういって柚子葉達を囲うのを止めて深夜にゆっくりと近寄ってくる。
深夜は雫に離れているように声をかけ男達に近づく。
一人の男が深夜に殴りかかってきた。
が、深夜は軽く交わして殴りかかってきた男の腕を捻り上げた。
「俺もさ暇人じゃ無いからこんなことで時間潰したくないんだよねぇ…。まだやりたい?」
深夜は周りにいる男達を睨みながら男の腕を捻っている力を強くした。
他の男は深夜の睨みに立ち尽くしている。
捻りあげられている男の腕を深夜は離した。
「早く行けば?それともまだ俺とやる気?」
男達は舌打ちをしてその場から離れていった。
深夜は『フゥー』と息を吐いて柚子葉達に近づく。
雫も走りよってきた。
「二人とも大丈夫?」
「うん。すぐに深夜が来てくれたから」
「そっか。お参りもしたし帰るか」
深夜と柚子葉は二人で歩き出した。
が、後ろから聖慈と雫がついてこないのに気づいた深夜が振り返り声をかけた。
「どうかしたんですか?」
「あ、いや…。お前喧嘩強いんだな」
「あ~、言ってなかったっけ?俺一時期荒れてて喧嘩ばっかしてたんですよ」
「へぇ~、それでか」
「まぁ、あんな奴らの相手は慣れたもんですよ。寒いんで帰りましょうか」
深夜が歩き出したのを見て聖慈達も歩き出した。
歩きながら柚子葉は深夜に話しかけた。
「深夜は何をお願いしたの?」
「世界平和」
「…嘘でしょ。深夜がそんなことお願いするはずないもん」
「まぁな。とりあえずは大学合格。神様に祈っても変わらないけどな」
「そんなこと言ったら駄目じゃない」
「へいへい。そういうお前は何を祈ったんだ?」
「え?私は深夜が大学合格できますようにって。後は健康にすごせますようにって」
「聖慈さんは?」
「俺?俺はまぁ適当にお願いした。雫は?」
「私はやっぱり健康に過ごせるように。健康が一番でしょ?」
「だな」
四人が話しながら歩いていると深夜が立ち止まった。
柚子葉達も立ち止まると深夜はどこかを睨んでいた。
そちらを向くと先ほどの男達ともう一人、恐らくそのグループのリーダ格の男が立っていた。
三人が深夜を向くとさっきまで睨んでいた深夜が笑みを浮かべていた。
柚子葉は深夜に話しかけた。
「し、深夜?」
「え?どうかした?」
「何で笑ってるの?」
「あぁ。あの中に知り合いを見つけたんだよ」
そういっているとリーダー格の男が一人でこちらに近づいてきた。
その顔には深夜と同じような笑みが浮かんでいる。
深夜も少し前に出て男を待ち構えている。
「よぉ」
「久しぶりだな。噂には聞いてるけど本当に変わったみたいだな」
「噂?」
「『あの山上が丸くなった~』ってこの辺で噂になってるんだよ。あ、そういえばこの間偶然加藤に会って山上と仲直りしたって嬉しそうに言ってたぞ」
「へぇ~、知らなかったな。で、今丸山があいつらのリーダーなわけ?」
深夜は先ほどの男達を指差した。
深夜に丸山と呼ばれた男は頷いた。
「まぁな。あいつら何かした?」
「俺の彼女をナンパした。まぁ、弱い奴をいじめる気はなかったからすぐに解放してやったけど」
「彼女?あぁ、お前が変わったきっかけの?」
「は?…まぁ、きっかけといえばきっかけかな」
深夜はチラッと柚子葉の顔を見ながら呟いた。
丸山も柚子葉の顔を覗き見た。
柚子葉は二人の会話が聞こえてないので首をかしげた。
深夜と丸山は柚子葉達のほうに近づいた。
「これ俺の中学の時の同級生の丸山」
「どうも~、丸山です」
「で、俺の彼女の山下柚子葉」
「はじめまして」
「はじめまして。山上を変えたきっかけでしょ?」
「ううん。私が深夜に会ったときはもう深夜は今の深夜だったよ」
「…違う」
「え?」
「山上がこうなったのは絶対君のおかげだって。今の山上の顔を見たら分かる」
丸山は深夜が柚子葉を見る顔で分かったようだ。
深夜は今まで丸山が見たこと無い顔をしていた。
最後に見たとき深夜は誰も信じれなくなっていた。
でも、今の深夜は大切な人を見つけたのだろう、とてもいい表情をしていた。
その顔をさせている柚子葉は自覚がないのか首を傾げている。
「とりあえずゴメンね」
「え?」
「俺の知り合いが迷惑をかけたようで。後ろの方もすいません」
丸山は聖慈と雫にも謝罪の言葉をかけた。
柚子葉は首を横に振った。
「ううん。丸山君のせいじゃないよ」
「え?」
「丸山君はその場にいなかったんだし。それに怪我もなかったから大丈夫」
「…なるほど。加藤の言うとおりだ」
「衛が?」
「あぁ。深夜の彼女は自分よりも他人を思うって。今だって俺は文句を言われても仕方無いと思うけど本当に気にしてないようだし」
「そうなのかな?」
柚子葉は深夜のほうを見た。
深夜は苦笑いを浮かべて丸山に声をかけた。
「柚子は自覚無いんだよ。…じゃ、俺もう行くわ」
「え?あぁ、そうだな。連れの人もいるし。今度遊ぼうぜ」
「あぁ。それとちゃんと下っ端の指導もしとけよ。やる奴と力の差を判別できない奴は怪我するって」
「分かってるよ」
丸山が頷いたのを見て深夜は歩き出した。
それに続いて柚子葉や聖慈達も深夜の後を追って歩き出した。
歩きながら柚子葉と話している深夜を見て丸山は笑みを浮かべて呟いた。
「…良かったな」
そしてまだ向こうのほうで呆然としている男達にするお仕置きを考えてその場を去った。