STORY23-5 『そっか。…一口飲む?』
※この話には未成年の飲酒シーンが入ってます。お酒は20から!
数時間後。
すでに日は暮れかけている。
深夜は勇一、聖慈と、柚子葉は忍、雫と話をしている。
話をしながら勇一は親がいるほうを見て聖慈に話しかけた。
「聖慈は酒飲める?」
「え?まぁ、ある程度は飲めるけど今日車で来てるから運転しないと」
「あっち見ろよ」
勇一は親が座っているテーブルを指差した。
深夜と聖慈がそっちのほうを向くと一升瓶が開けられていて浩史と章吾が飲み始めていた。
視線に気づいたのか章吾が聖慈に話しかけた。
「おぉ、聖慈。お前も飲むか?」
「馬鹿いうなよ。運転しないといけないだろ?」
「構わん構わん」
「構うって!飲酒運転になるだろうが!」
「今日ここに泊まるから」
「「はぁ!?」」
章吾の言葉に深夜と聖慈が口をそろえた。
章吾はコップに酒を注ぎながら言葉を続けた。
「浩史と話してたらもう泊まっちまうかってことになったんだよ。な?」
「そうそう。部屋ならあるし。せっかくだから聖慈君も飲んで飲んで」
二人の父親の言葉に聖慈は深夜に話しかけた。
「ああ言ってるけどどうなんだ?大丈夫なのか?」
「あ~と、この部屋は後一つ余ってるけどそこは一応親父達の部屋になってるんです。そこに勇兄と姉貴が寝て、勇兄達の部屋に親父達と章吾さん達に泊まってもらって。で、申し訳ないけど柚子の部屋に伊集院が泊まってもらったらなんとか。聖慈さんは悪いけど俺の部屋で。これなら泊まれないこともないんで俺としてはどっちでもいいっすよ」
深夜の言葉を聞いて聖慈は少し考えた。
そして、頭を上げて笑みを浮かべ勇一に話しかけた。
「じゃあ、飲んじゃいますか」
「お!そうこなくっちゃ!」
勇一はそういって酒とコップを取りに立ち上がった。
その間に事情を話そうと聖慈は雫に話しかけた。
「雫」
「聖慈さん今日泊まるの?」
「聞こえてた?」
「うん。あれだけ大きい声で話してたら聞こえるよ」
「それでせっかくだし泊めてもらおうかと思うんだ。お前予定とかないよな?」
「大丈夫。何もないから」
雫がそういうと聖慈は笑みを浮かべて元座っていた場所に戻っていった。
それを見送った柚子葉と雫は顔を見合わせると笑みを浮かべた。
「聖慈さん嬉しそうだね」
「うん。聖慈さんって本当はあまり付き合いよくないの」
「え?そうなの?」
「さっきも言ってたでしょ?聖慈さん芸能界で働いてたって。私達の年代はあまり知らないけど聖慈さんと同年代の人達って聖慈さんのドラマを見てた人達なの。だから…」
「ただの聖慈さんとして見られないってことね」
雫と柚子葉の会話に忍が口を挟んだ。
雫は忍の顔を見ると頷いた。
「はい。だから、聖慈さんってあまり同年代の人とあまり話したりしないの。仲の良い人達もいるんだけどね。だから、勇一さんと飲めるのが嬉しいんじゃないかな」
「そうなんだ」
三人が勇一達のほうを見ると勇一が聖慈に酒を注いでいた。
聖慈も勇一から瓶を受け取り勇一のコップに酒を注ぐ。
勇一は忍のほうに声をかける。
「忍も飲むか?」
「…たまには飲もうかしら。二人も行きましょうよ」
忍の言葉に柚子葉と雫は首を振った。
忍は笑みを浮かべて二人に話しかける。
「お酒じゃなくてジュースでいいのよ。ね、行きましょ」
柚子葉と雫は顔を見合わせて頷いた。
忍達が歩いてくるのを見て深夜は立ち上がって冷蔵庫からペットボトルのジュースを取ってきた。
深夜はジュースとコップを雫達の近くにおいて自分は元の場所に戻った。
深夜が座ると勇一は深夜に話しかけた。
「深夜はどうする?」
「う~ん…」
「あっちに焼酎あったぞ」
「あ、マジで?…取ってこよ」
深夜は笑顔で立ち上がった。
勇一と忍以外は呆然とその姿を見送った。
深夜が焼酎と水を取ってくると柚子葉、聖慈、雫の姿を見て首を傾げた。
「三人ともどうした?そんな顔をして」
「深夜ってお酒飲むの?」
「え?飲むけど」
「深夜が今までお酒飲んだところみたことないけど」
「あ~、そういえば柚子の前でまだ飲んだことなかったっけ?俺こういうときには飲むんだ。まぁ、軽くだけど。さすがに居酒屋で飲むことはないよ」
深夜はそういいながら慣れた様子で自分の水割りを作り出した。
聖慈は酒を一口飲んで口を開いた。
「俺も高校から飲んでた。男はそういうもんだろ。ねぇ、勇一さん?」
「あぁ。俺と忍もたま~に二人でチューハイ飲んでた」
「…誰かさんは居酒屋で飲んでたけどな」
聖慈は視線を雫に投げた。
雫はいきなりだったのでむせてしまった。
咳き込む雫を見ながら深夜は『へぇ~』と感嘆の声を出した。
「いや~、さすがの俺もそこまで悪くはなかったけどな~」
「ほぉ~、伊集院がそんな奴だとは意外だなぁ」
「俺も最初見たときは目を疑ったよ。ビールを持ってたんだから」
「だから!あれは断りきれなくて!」
「けど飲んでたのは事実だろ?」
聖慈の問い詰めに雫は詰まった。
二人のやりとりに深夜は笑みを浮かべてふと聞きたいことが出てきたので柚子葉に話しかけた。
「柚子は今まで酒飲んだことは?」
「ないない!だって、まだ未成年だよ」
「好奇心とかで飲んだりとかあるだろ?」
「ないってば!」
「そっか。…一口飲む?」
「深夜君、それはやめてくれる?」
いつのまにか恭子が深夜の近くに立っていた。
深夜は恭子を見上げながら口を開く。
「すみません。でも、少しぐらいなら」
「駄目です。秀太が真似したら困るでしょ」
深夜はその言葉を聞いて納得した。
もし秀太が『ぼくものみたい』と言い出したら確かに困る。
いつも深夜が飲み、柚子葉に薦めたものは秀太は『のみたい』とねだる。
「そうですね。すみません、考えが浅くて」
「ううん。そういうの見ると深夜君も高校生なんだって思えるから」
「え?」
「深夜君って大人びてるっていうかなんていうか。普通の高校生とは考え方が違うでしょ?」
「…そうですかね」
深夜は自覚がないのだろう、首を傾げた。
恭子は笑みを浮かべてその場から離れていった。
その後も、深夜達は酒を、柚子葉達はジュースを飲みながら楽しい時間を過ごした。
ふと深夜が周りを見渡すと聖慈の姿がなかった。
深夜が立ち上がるとベランダに立っていた聖慈の姿を見つけた。
ベランダに近づき深夜はドアを開けた。
その音に気づいた聖慈は深夜のほうを振り返った。
「よぉ」
「寒くないですか?」
「そりゃ寒みぃよ」
「じゃ、なんでそんなところにいるんすか?」
「ちょっと考え事をな…」
「そうですか。…隣いいですか?」
深夜がたずねると聖慈は頷いた。
深夜もベランダに出て聖慈の隣に並んだ。
「うわ…さっみぃ!」
「だから、寒いって言ったじゃないか」
「いや、まぁそうですけど。で、考え事って言うのは?」
「気にするな。ただ、俺だけじゃなかったんだなって思って」
「は?…あぁ、出生のことですか?」
「そ。そりゃ他にもいるだろうと思ってたけどこんな身近にいるとは思ってなかったからな」
「それは俺も同じですよ」
深夜と聖慈はベランダで話し始めた。
部屋の中で雫と話していた柚子葉は先ほどまでいた深夜の姿がないことに気づいた。
周りを見渡してベランダで話している深夜と聖慈の姿を見つけそちらに向かうために立ち上がろうとした。
が、勇一に引き止められた。
「山下、今は二人だけにしておいてやれ」
「え?」
「あいつらにしか分からない話もあるだろうし」
勇一もすでに聖慈の出生については聞いている。
だから、同じような出生をしている二人だけで話をさせてやりたかった。
柚子葉は勇一のほうを見て首をかしげた。
「どうしてですか?」
「俺達がどんなに分かるといってもそれは俺らだけの考えの中だけだ。どれだけ分かろうとしても所詮他人だからどうやってもあいつらが受けたショックなんて分かるわけが無い」
「え…」
「それはどうしようもない事実だろ?同じような立場になったことないんだから。俺達は俺達で深夜や聖慈じゃないんだし」
勇一の言葉に柚子葉と雫は何も言い返せなかった。
黙り込んだ二人を見ながら勇一はゆっくりを口を開いた。
「どうした?二人とも黙り込んで」
「いえ…」
「何も俺は二人を黙り込ませるつもりで言ったんじゃない。俺は分からないって言っただけだ。なら、俺は二人を支えていきたい。深夜だけでなく、聖慈もな」
「「支える…」」
「そうだ。分かることはできないけど支えていくっていうことは俺達でも出来るだろ?特にあいつらの傍にいることになる山下と伊集院が一番支えていかないといけない。ま、すでに十分支えていると思うけどな」
「そうなのかな…」
「どうなんだろ…」
「「その通りだよ」」
柚子葉と雫の後ろから深夜と聖慈の声が聞こえた。
二人が驚いて振り返るといつのまにかすぐ後ろに深夜達が立っていた。
「よくは分からんけど俺は柚子に十分助けてもらってるよ」
「そんなことないよ!私のほうが…」
「お前がいてくれるだけでいいんだよ。お前が俺の隣にいてくれて笑ってくれる。それだけで十分。…お前だから俺はこんな風に変われたんだよ」
深夜の言葉を聞いた柚子葉は何故か涙が出てきた。
それを見て深夜はゆっくり柚子葉を抱きしめた。
そんな二人を見ながらも聖慈は雫の頭に手を乗せた。
「俺も深夜と同意見だ。雫がいるから俺は頑張れる。…すでにお前がいないと俺は駄目だっていう前科があるし」
雫も涙を流して聖慈に抱きついた。
聖慈は穏やかな笑みを浮かべて雫を抱きしめ頭を撫でている。
二つのカップルを見ながら勇一と忍は笑みを浮かべた。