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STORY23-4 『…この家庭ってすごいな』

章吾は笑みを浮かべて聖慈に話しかけた。


「聖慈、お前から答えてやれ」

「…何で?」

「いいから」


聖慈が渋っていると浩史が深夜に話しかけた。


「深夜」

「何?」

「お前と同じようなことだよ」


その言葉を聞いて今度は聖慈が浩史に聞いた。


「え?それってどういうことですか?」

「ん?あ、その前に恭子さんは聞いてますか?」

「あ、はい。昨日聞きました。最初は驚きました。でも、深夜君には変わりませんので」

「そういってもらえると嬉しいです」


聖慈の質問には答えずに浩史は恭子に頭を下げた。

章吾はまた聖慈に声をかけた。


「聖慈」


聖慈は観念したのか息をフゥーと吐いて喋りだした。


「…俺は親父達に引き取られたんだ」

「引き取られた?」

「あぁ。孤児院にいたところを引き取られたんだ」

「…親父、もしかして共通点ってこれ?」


深夜が浩史に聞くと浩史は頷いた。

それを見ていた柚子葉が深夜に聞いた。


「共通点って?」

「親父に言われたんだ。俺とこの人に共通点があるって」

「は?じゃあ、お前も?」


深夜と柚子葉の会話を聞いていた聖慈が聞いてきたので深夜はゆっくりを口を開いた。


「俺は拾われたんです。親父達に」

「拾われた…?」


深夜の言葉を聞いて聖慈が繰り返すように呟いた。

深夜は頷いて話を続けた。


「ええ。親父の話ですと夜に家の前に捨てられてたんです。それを親父が見つけてくれて、息子として育ててくれました。この名前も深夜に拾われたからってことで親父がつけてくれたんです。えっと、伊集院のお兄さんの…」

「聖慈でいい」

「聖慈さんの名前って言うのは本当の名前なんですか?」

「どうなんだ、親父?」


聖慈にたずねられた章吾は頷いた。


「それは本当の名前だ。お前が孤児院に引き取られる際に聖慈という名札がついていたそうだ」

「…まだ俺のほうがマシって事か」

「そうでもないですよ」

「え?」


聖慈が呟いた言葉に深夜が答えた。

聖慈が深夜の顔を見ると深夜は笑みを浮かべていた。


「っていうか聖慈さんもそうでしょ?今別に不幸だってことを感じないんじゃないですか?」

「…だな」

「そりゃ、本当の両親と一緒に暮らしたほうがいいこともあるかもしれない。けど、俺は今の生き方に満足してる。親父達は息子として育ててくれてるし、いい友達にも恵まれている。それに、俺にはもったいない彼女もいるし」


深夜は柚子葉のほうを見る。

柚子葉は照れながらも深夜の顔を見返す。

聖慈も口を開いた。


「俺もだ。確かに他の人とは違う出生だけどそれでも俺は今幸せだし」


深夜と聖慈の言葉を聞いた浩史と章吾は顔を見合わせて笑みを浮かべた。


「やっぱり二人を合わせてよかったな」

「あぁ」

「最初は俺めちゃくちゃ睨まれてたけどね」


二人の会話に深夜が口を挟む。

それを聖慈が笑って否定する。


「そりゃあ自分の彼女がナンパされてると思ったら睨むだろう」

「伊集院が同級生って訂正した後も睨んでた気がするんですけど?」

「警戒は大事だろ?雫が同級生と思っていてもお前がそうとは限らないだろ?」

「今は?」

「今は信用してる。お前が彼女を見る目でわかる」

「それはどうも」


深夜と聖慈は笑みを浮かべた。

それを見て柚子葉達も笑みを浮かべた。

それから数分してふと雫が思い出したかのように深夜に話しかけた。


「ねぇ、山上君」

「あ?」

「部屋に入るときに意外な人がいるかもって言ってたけど」

「あ…。そういえばいないな。どこ行ったんだろ」


深夜が呟くと同時にインターホンが鳴った。


「あ、帰ってきた」

「誰?」

「姉貴と旦那さん」


深夜が雫の質問に答えるとドアが開く音がして忍と勇一の声が聞こえた。


「ただい…ま」

「靴の数凄いな」

「ねぇ?とりあえず上がろうか」


勇一と忍は玄関に置かれている靴の数に驚いているようだ。

普段は多くても深夜と柚子葉、秀太に忍と勇一の合わせて5人分だが今日はさらに7人増えて12人分の靴が玄関に置かれている。

二人の会話と共に廊下を歩く音がする。

リビングに顔を出すと浩史が忍と勇一に声をかけた。


「忍、勇一君。おかえり」

「ただいま…って私がおかえりっていうほうが正しいとおもうけど」

「おじさん、おかえりなさい」


二人が浩史の近くに来ると浩史が章吾と真美のほうを向く。


「こっちが娘の忍で夫の勇一。で、こっちが俺の友達の章吾と真美」


忍と勇一は章吾と真美に向かって頭を下げる。

章吾と真美も笑みを浮かべて頭を下げた。

勇一達が頭を上げたタイミングで深夜が声をかけた。


「姉貴、勇兄。コーヒー飲む?」

「もらうわ」

「じゃあ、柚子とかいるからあっちに座って」

「分かった」


勇一と忍は深夜の言葉に頷いて深夜が指差したほうに向かった。

勇一は柚子葉達が集まっているほうに近づくと見知った顔、そして知らない顔がいることに気づいた。


「あれ?伊集院、ここで何やってるんだ?」

「え!?どうして植田先生がここにいるんですか?」

「雫、知り合い?」


雫が驚きの声をあげたので聖慈が雫に声をかけた。

雫は驚いたまま答えないので代わりに柚子葉が聖慈の質問に答えた。


「私達の高校の先生なんです」

「へぇ~。でも、なんでここにいるんだ?」

「姉貴の旦那なんですよ」


深夜が勇一と忍のコーヒーを入れて戻ってきた。

深夜は勇一達に座るように促した。

そして、勇一達の前にコーヒーを置いて聖慈と雫に顔を向けた。


「この二人が姉貴とその旦那さん」

「初めまして。深夜の姉の忍です」

「夫の勇一です。伊集院とは学校で顔を合わせたことがあるけどそちらの方とは初めてですよね」


忍と勇一が自己紹介をした後今度は聖慈が姿勢を正した。


「伊集院聖慈です。雫がいつもお世話になってます。章吾と真美の息子です」

「あら?じゃあ、この間報道されたのは?」

「…恥ずかしながら私です」

「そうですか。あ、雫ちゃんでいい?」

「はい」

「雫ちゃんのことは深夜から聞いてるから」

「…どんなことを聞いたんですか?」

「いろんな話をね」


忍と雫が話し出し、こちらでは勇一と聖慈が話し出している。


「伊集院さんは年いくつなんですか?」

「今年で27になります。植田さんは?」

「今年で30の大台です。…せっかくだし敬語は無しにしない?」

「植田さんのほうが年上なんで植田さんがいいなら…」

「なら敬語は無しだ。それと伊集院って呼ぶと紛らわしいから聖慈って呼ばせてもらうな。俺は勇一でいいから」


勇一の言葉に聖慈は頷いた。

聖慈が一息ついてコーヒーを飲むと勇一がじっと聖慈の顔を見つめている。

聖慈が少したじろいでいると勇一が呟いた。


「っていうか俺聖慈の顔どこかで見た気がするんだけど」

「え?」

「…なぁ、忍」


勇一は雫と話している忍に話しかけた。

忍は雫との会話を止めて勇一に顔を向ける。


「何?」

「聖慈の顔どこかで見たこと無いか?」

「え~、そんなことないでしょ~」

「いや、絶対に見た気がする」

「…なんか私もそんな気がしてきた」


勇一に言われて忍も聖慈の顔を凝視しだした。

二人の熱い視線を受けて聖慈は少したじろいだ。

そのとき勇一が思い出したのかゆっくりと口を開いた。


「…まさかとは思うけどあの伊集院聖慈じゃないよな?」

「勇兄、『あの』って何?」


勇一の言葉を聞いた深夜は勇一に聞いた。

勇一は腕を組んでから答えた。


「いや、俺が学生の頃だったかな、確か芸能人に『伊集院聖慈』っていうやつがいたんだ。忍も覚えてるだろ?」

「…それは覚えてるけど、でもまさかねぇ」


勇一と忍は揃って聖慈に視線を向けた。

聖慈は頬を掻きながら答えた。


「そのまさか。一応高校生までは芸能界で働いてたんだ。大学受験をきっかけに止めたけど」

「それでか。いや~、俺の記憶力もまだまだいけるな」

「…この家庭ってすごいな」

「は?」


聖慈の言葉に近くにいた深夜は声を出してしまった。

聖慈は雫と顔を見合わせて口を開いた。


「いや、普通芸能界で働いてたって言ったら最初はなにかしらのリアクションをするんだけどなぁ」

「山上君と柚子葉ちゃんも私に普通に接してくれたし」

「だって、二人とも今は違うだろ?」

「俺はそうだけど雫は今も働いてるぞ」

「そうじゃなくて今はただの聖慈さんと伊集院だって言ってるんです。たとえば、今道端で伊集院が何か仕事をしてたとしたら芸能人として見ますけどここにいるのは違うでしょ?だったら同級生とその彼氏として話すだけですよ」


深夜の答えを聞いて聖慈と雫は少し驚いた顔をした。

そして、深夜の隣にいる柚子葉に視線を向けると柚子葉も笑みを浮かべて頷いた。

聖慈と雫も顔を見合わせて笑みを浮かべた。

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