STORY23-3 『これ暖かくていいよ』
マンションに着くと深夜と浩史、敬子に加え何故か章吾と真美も車を降りた。
運転席から聖慈が章吾に話しかけた。
「親父?何で乗らないんだ?」
「あぁ、今から浩史の家にお邪魔するから。お前たちもな」
「はぁ!?何でそうなるんだよ!」
「いいから」
「深夜、お前は聖慈君に駐車場を案内してやれ」
「いや、それはいいけど二人に予定を聞かなくていいのか?」
「大丈夫。聖慈達に予定なんか無いから。いいな、聖慈」
「…分かったよ。悪いけど駐車場所を教えてくれ」
「はい」
深夜はそういって車に乗り込んだ。
窓を開けて浩史に話しかけた。
「鍵持ってる?」
「あぁ、大丈夫。お前のほうにいるから」
「了解」
会話が終わり深夜が窓を閉めると聖慈は車をマンションの駐車場に向けて発進させた。
雫は助手席から深夜に話しかけた。
「ねぇ、山上君」
「あ?」
「『お前のほう』ってどういうこと?」
「あぁ、このマンションに二部屋借りてるんだよ。俺が住んでる部屋と姉貴夫婦が住んでる部屋とな。だから、俺のほうっていうことは俺が住んでる部屋ってこと」
「へぇ~」
「あ、そこです」
聖慈は深夜の案内どおりに指定された駐車場所に車を止めた。
先に深夜と雫を降ろし聖慈だけが車に乗っている状態で駐車した。
その間深夜は運転席に乗っている聖慈に視線を向けている。
それに気づいた雫が深夜に話しかけた。
「聖慈さんがどうかしたの?」
「いや、親父に言われたんだけど俺とあの人に共通点があるって」
「共通点?」
「あぁ。…なさそうだよな?」
「う~ん、なさそうだよね」
二人で話してると聖慈が車から降りて二人に近づいてきた。
二人が自分のほうに視線を集中している事に気づいた聖慈は雫だけに話しかけた。
「雫?俺がどうかしたのか?」
「えっとね、山上君のお父さんが言ったんだって。聖慈さんと山上君に共通点があるって」
「共通点?俺とこいつにぃ?」
聖慈は雫から深夜に視線を移した。
深夜も聖慈を見ながら聖慈に話しかけた。
「…ないですよね」
「ないだろ」
「ですよね。あ、部屋に行きましょう」
深夜はそういってエレベーターのほうに歩き出した。
その後ろを聖慈と雫も歩く。
エレベータに乗っている間深夜はあることをまだ雫に伝えてないことに気づき雫に話しかけた。
「伊集院、今から俺の部屋に行くけどもしかしたら意外な人がいるかもしれない」
「意外な人?」
「そ。まぁ、伊集院なら大丈夫だと思うけど」
そうこう言っていると深夜達を乗せたエレベータは9階に止まった。
深夜の案内で部屋まで辿り着いた三人は部屋の中に入った。
すでに浩史たち四人は椅子に座って話をしていた。
「おぉ、深夜悪いけどコーヒーを四つ入れてくれ」
「ったく。そのぐらい自分でしろよ。…二人もコーヒーでいい?」
深夜はキッチンに歩きながら聖慈と雫に話しかけた。
二人とも頷いたので深夜はリビングにある椅子に二人を促してコーヒーを入れた。
七つコーヒーを入れて四つは浩史たちが座っている食事をするテーブルに、残り三つをリビングにおいてある机に置いて深夜も椅子に座った。
座った深夜に敬子が話しかけた。
「ねぇ、深夜」
「何?」
「今日柚子葉ちゃんたち家にいる?」
「『たち』って誰のこと言ってる?」
「柚子葉ちゃんの家族よ。どうなの?」
「この時間帯ならおばさんも仕事から帰ってるからいると思うけど」
「だったら今からここに呼ばない。せっかくだし皆で話しましょうよ」
「…聞いてみる」
深夜は携帯を取り出して柚子葉に電話をかけた。
数コールしてから柚子葉が電話に出た。
『もしもし』
「あ、俺」
『うん、どうしたの?』
「今家?」
『うん』
「おばさんも家にいる?」
『いるよ。どうかしたの?』
「今さ、俺の両親がいるんだけどお袋が柚子達も呼べって言うんだよ。そっちの予定とかある?」
『ちょっとまって。…お母さんも大丈夫だって』
「じゃあ、来る?」
『お邪魔していいなら』
「あ、ちなみに他にも人がいるから。俺も初めて会う人とそうじゃない人。とりあえず来て」
『うん。じゃあ、今から行くね』
深夜は携帯を切って敬子に声をかけた。
「今から来るって」
敬子は頷いてまた真美と話し出した。
深夜が携帯を置くと雫が話しかけてきた。
「柚子葉ちゃんってどこに住んでるの?」
「ん?この下」
深夜は下を指差して答えた。
柚子葉はまだよく理解できていないようだ。
「下?」
「そ。この真下の部屋」
「え!?そうなの?」
「そうなの。俺も最初は驚いたけど」
「うわぁ~、凄いね」
「そっちは同棲してるんだろうが」
「…そうですね」
深夜の返しに雫は一言答えコップを手にした。
それから数分してインターホンが鳴った。
深夜は立ち上がり玄関に向かった。
ドアを開けると柚子葉と恭子、それに秀太が立っていた。
秀太はすぐに深夜に突進してきた。
深夜は秀太を抱き上げて柚子葉に話しかけた。
「急で悪いな」
「ううん。大丈夫」
「おばさんもすみません」
「まだ深夜君のご両親には挨拶して無いしね。それにしても凄い靴の数ね…」
恭子が言うように玄関には普段ではありえないほど多くの靴が置かれている。
深夜は靴を片付けながら口を開いた。
「親父の友達夫婦とその子供が上がってるんで。どりあえずどうぞ」
深夜に促され柚子葉と恭子も部屋に上がった。
部屋に入ると柚子葉は浩史と敬子に声をかけられた。
「柚子葉ちゃん、久しぶりだね」
「元気にしてた?」
「はい」
「どう?深夜に優しくしてもらってる?」
「はい!」
柚子葉が答えると恭子が浩史と敬子に話しかけた。
「山下柚子葉の母の恭子です。深夜君には娘と息子がお世話になっています」
「深夜の父の浩史です」
「母の敬子です。深夜も好きでやってるので気にしないでください。さ、座ってください」
恭子が敬子に促され椅子に座ると深夜は入れたコーヒーを置いた。
そして、柚子葉に話しかけた。
「俺らはあっち。お前の知り合いもいるから」
「え?誰?」
深夜は何も答えずにリビングのほうに向かった。
柚子葉も後を追い、リビングに行くと声を出した。
「え?雫ちゃん?」
「柚子葉ちゃん、久しぶり」
「え?何で?」
「あそこに座ってるの私の両親なの」
「俺の親父達と友達なんだとさ。で、今ここで話してるって訳」
柚子葉はとりあえず椅子に座った。
そして、もう一人男性がいるので声をかけた。
「あ、初めまして」
「初めまして。雫の彼氏の伊集院聖慈です」
「あ、話には聞いてます」
「へぇ~、雫から?」
「雫ちゃんからと後、深夜からも」
「こいつから?」
「俺は大竹から。知り合いって聞いてますけど」
「大竹?…あぁ、先生か。そうだよ」
聖慈はやっと深夜への警戒心を緩めたようだ。
深夜の柚子葉への接し方を見て大丈夫だと思ってくれたようだ。
それから雫と柚子葉が話し始め、聖慈は知り合いに電話をかけている。
深夜は椅子にもたれかかって秀太の相手をしている。
すると、親同士の会話が聞こえてきた。
「それにしても浩史たちは相変わらず仲がいいよな」
「章吾に言われたくないんだが」
「お二人とも仲がいいんですね」
「高校からの付き合いなんですよ。真美と敬子の二人も高校の同級生で。私が敬子と、章吾が真美と付き合いだしたのは大学からなんです」
深夜はその言葉を聞いて顔を浩史達がいるほうに向けた。
気になる言葉が聞こえたからだ。
「そうなんですか。いつ結婚されたんですか?」
「二組とも就職してすぐです」
「え?」
深夜は親の会話を聞いていて声を出してしまった。
深夜は全員の視線を一斉に浴びてしまった。
聖慈も電話が終わったのかまたリビングの椅子に座り深夜に視線を向ける。
柚子葉が深夜に声をかけた。
「深夜?どうしたの?」
「いや、なんでもない」
深夜はなんでもないといってコップを持った。
が、章吾が深夜に話しかけた。
「深夜君、聞きたいことがあるんだろ?」
「え?」
「いいよ。聞いても。大体質問の内容も分かるし」
深夜は章吾がそういったので気まずそうに口を開いた。
「おじさんとおばさんって社会人になってすぐに結婚されたんですか?」
「そうだよ」
「じゃあ、再婚とかはされてないんですよね?」
「もちろん」
「それがどうかしたの?」
「…てっきり再婚だと思ってたので気にしてなかったんですけどじゃあどうして二人は血の繋がりがないんですか?」
深夜の言葉にその場から会話が消えた。