STORY22-END 『これ、クリスマスプレゼント』
途中で柚子葉は起きたが秀太は眠ったままなので深夜がおんぶをしている。
帰りは迎えに来てもらうことにしているので駅前で勇一の車を待っている。
待つこと数分勇一の車が見えた。
三人が乗り込むと勇一は車を発進させた。
「悪い。車が多くて遅くなった」
「あまり待ってないからいいよ。なぁ?」
「うん」
「それにしても秀太はよく眠ってるなぁ」
勇一はルームミラーで後ろの席で眠っている秀太を見ながら口を開いた。
深夜も助手席から後ろを振り返った。
「秀太、今日始めて遊園地に行ったらしい」
「え?山下、そうなのか?」
「家族では行ったことないです。保育園の遠足でも行ってないと思うんで…」
「そうか。じゃあ、楽しんでたんじゃないか?」
「あぁ。結構回ったけどどこも楽しんでた」
「何乗ったんだ?」
「え〜と、コーヒーカップだろ。後は…メリーゴーラウンドとか秀太が乗れるようなもの。最後は観覧車」
「あぁ〜、秀太はまだ小さいからジェットコースターとかは乗れないからなぁ」
「あ、でも子供用のジェットコースターには乗った。しかも、三回も」
「よっぽど気に入ったんだな」
そんな話をしていると車はマンションに着いた。
マンションのエントランスで深夜と柚子葉、車の中で起こされた秀太が降りた。
三人はそこで駐車場に車を置きに行った勇一を待った。
勇一が来てから四人で深夜の家に向かった。
深夜の家には飾りが付けられていて、さらに昨日まで置かれてなかったクリスマスツリーが置かれていた。
ツリーを見た秀太は走りよって嬉しそうにツリーを眺めている。
そこであることに気づいた秀太が深夜に話しかけた。
「これほしがないね」
その言葉を聞いた忍が深夜にあるものを渡した。
深夜はそれを受け取り秀太に近づいた。
そして、忍から受け取ったものを秀太に渡した。
「ほら。これは秀太が付けろ」
そういって深夜は秀太を抱えた。
秀太は星をゆっくりとつけた。
完成したツリーを眺めて秀太は嬉しそうに深夜に話しかけた。
「うわぁ〜、すごいね!」
「だろ?」
深夜はそういって秀太を降ろした。
当初の予定では深夜が秀太と共にツリーを準備するはずだった。
だが、遊園地に行くことになり準備ができなかった。
そこで深夜は忍たちに『星だけはつけないでくれ』と、『秀太につけさせてやりたい』とお願いをしていた。
秀太が星をつけて嬉しそうに笑ったのを見て深夜は安心した。
秀太を降ろした深夜は柚子葉達に話しかけた。
「さて、そろそろ始めるか」
「そうだね」
それからクリスマスパーティが始まった。
パーティとは言っても特にいつもと変わらず店で予約していたオードブルを皆で話をしながら食べている。
秀太は勇一と忍に遊園地のことを嬉しそうに話している。
勇一と忍も笑みを浮かべながら秀太の話に耳を傾けている。
深夜と柚子葉もジュースが入っているコップを片手に笑みを浮かべている。
時間もいい頃に差し掛かった頃深夜は立ち上がって冷蔵庫に向かった。
そして、冷蔵庫からあるものを取り出してまたリビングに向かった。
テーブルに置くと秀太がまた嬉しそうに声を出した。
「うわぁ〜、けーきだ!」
秀太が言うとおり深夜が取り出したものはクリスマスケーキだ。
早速深夜がケーキを切り分け取り皿に分けた。
秀太は嬉しそうにケーキを食べている。
柚子葉も甘いものが好きなので笑顔で食べている。
ケーキを食べ終え、それから話をしていると秀太が眠たそうに欠伸をした。
柚子葉は秀太に話しかけた。
「今日は遊園地で疲れたでしょ?もう寝よう?」
「やだ!」
まさか断られるとは思っていなかった柚子葉は秀太の言葉に眉をひそめた。
「何で?」
「さんたさんがみたい!」
その答えに柚子葉は困惑した。
確かに自分が小さいときも同じようなことを思ったがさすがに秀太に教えるのはまだ早い。
柚子葉が困っていると深夜が秀太に近づいた。
「秀太、サンタクロースが見たいのか?」
「うん!」
「でもな、サンタクロースは秀太の前には姿は見せれないんだ」
「どうして?」
「サンタクロースは人前に姿を見せちゃ駄目なんだ。サンタクロースは姿を見られるともうプレゼントを子供にあげれないんだ」
「そうなの?」
「あぁ。それに早く寝ないと秀太は悪い子だからサンタクロースはプレゼントを持ってこないかもしれないなぁ」
深夜の言葉に秀太はすっと立ち上がって深夜の部屋に向かった。
元々柚子葉と秀太は深夜の家に泊まるつもりだったのですでに深夜の部屋に秀太が眠る布団が敷かれている。
深夜の部屋に入る前に秀太は振り返った。
「しんやおにいちゃんたちもさんたさんをみないでね」
「あぁ。おやすみ」
「おやすみなさい」
秀太が深夜の部屋に入りドアを閉めたのを見て深夜はフゥ〜と息をついた。
深夜の肩に勇一が手を置いて話しかけた。
「お疲れ。上手く誤魔化せたんじゃないか?」
「そうだといいんだけど…。俺は早くサンタがいないって教えられたし」
「え?そうなの?」
「あぁ。兄貴に教えられて。あの時は泣いたなぁ」
「あの時はさすがに俺も慎には呆れたよ。普通小さい弟に言うか?」
深夜と勇一はそのときを思い出すかのように言葉を開いた。
まさかそんなことがあったとは思わなかった柚子葉は苦笑いを浮かべるしかなかった。
そして、秀太に本当のことを言わなくてよかったとも思った。
それからまた話をしていると勇一が急に立ち上がった。
そして忍に声をかけた。
「忍、ちょっといいか」
「何?どうしたの?」
「いいから」
勇一は忍の手を引っ張りリビングから出て行った。
柚子葉は首を傾げて深夜に話しかけた。
「どうしたんだろ?」
「多分気を使ってくれたんだろ」
「え?」
柚子葉が聞き返すが深夜は答えずに立ち上がり自分の部屋に向かった。
そして、手に何かを持って戻ってきた。
それを柚子葉に差し出した。
「これ、クリスマスプレゼント」
柚子葉はそれを受け取りゆっくりと包みをはがす。
プレゼントの中身は小さな天使の置物だった。
柚子葉はそれを見て笑みを浮かべた。
「かわいい。ありがとう」
柚子葉はお礼を言った後カバンから包装紙でくるんであるものを取り出して深夜に差し出した。
「これ私から」
深夜も受け取りその場で包みをはがした。
包みの中はマフラーだった。
柚子葉は照れくさそうに深夜に話しかけた。
「ちょっとおかしいところあるかも…」
「え?これもしかして手編み?」
「う、うん」
深夜はマフラーを眺めた。
てっきり店のものだとばっかり思っていた。
それほどマフラーの出来は良かった。
深夜が何も言わないので柚子葉は心配になって声をかけた。
「嫌だった?」
「まさか!ただ、これ手編みとは思わなかっただけだから驚いただけ。なぁ、巻いてみていいか?」
柚子葉が答える前に深夜はマフラーを巻きだした。
「サンキュウ。これ使わせてもらう」
色が茶色でとても落ち着いた色をしている。
なにより柚子葉の手編みということで深夜はとても気に入った。
このまま着けていたい気もしたが忍と勇一にからかわれるのが分かっている深夜はマフラーを外し傍に置いた。
それから数分後、忍と勇一が戻ってきた。
忍には気づかれないように勇一に深夜は話しかけた。
「勇兄、ありがとう」
「あぁ、気にするな。どうせお前のことだから秀太がいる前ではプレゼントを渡してないだろうと思ったし、このままだと日が変わるまで渡す機会がないだろうから」
「よくご存知で」
勇一の指摘に深夜は苦笑いを浮かべるしかなかった。
小さいときから面倒を見てもらってるので行動パターンが知られている。
『さっきのは助かるけどこういうときは困りものだ』と深夜は心の中で思った。
それを察したのか勇一は深夜のほうに目を向けた。
「お前今何か変なことを考えてないか?」
「いや、別に」
「二人とも何してるの?こっちいらっしゃいよ」
忍に声をかけられて深夜と勇一はそちらに目を向けた。
柚子葉が人数分コーヒーを入れて二人を待っていた。
深夜と勇一は立ち上がってそちらのほうに向かった。
その日は、四人で話をしたりトランプをして過ごした。
秀太の枕元にプレゼントが置かれており秀太が嬉しそうに四人に報告したのは翌朝のことだ。