STORY21-3 『お前が握ってくれって言ったからな』
屋上に行く中で柚子葉は深夜に説明してもらおうと思ったが深夜が『屋上についてから説明する』と言ったので今は雫についての話はせずに秀太の話や世間話をして屋上に向かっている。
屋上のドアまでもう少しというところでドアの前に誰かが立っているのに深夜は気づいた。
「誰かいるな。屋上に出れないからどっか別の場所に行くか」
「そうしようか」
二人の会話に気づいたのかドアの前にいた生徒が振り返った。
「あれ?山上君?」
ドアの前にいたのは雫だった。
深夜は雫に近づいて声をかけた。
「こんなところでどうした?」
「落ち着ける場所を探してて…。でも、屋上って出れないんだね。今日始めて知ったよ」
深夜は雫の言葉を聞いて納得した。
朝の会見の内容で恐らく雫の周りは今日騒がしいのだろう。
深夜のクラスからも何人かが雫のクラスに行った奴がいるのでそれと同じだろうと思った。
深夜は柚子葉と顔を見合わせた。
柚子葉も深夜が言いたいことが分かったのか深夜に頷いた。
柚子葉が頷いたのを確認した深夜がポケットの中から鍵を取り出した。
「伊集院、ちょっとどいて」
「え?」
雫は深夜の言うとおりドアから離れた。
深夜がドアを開けると柚子葉がまずは屋上に出て雫を誘った。
「伊集院さん、行こう?」
雫は最初驚いていたが柚子葉に誘われて屋上に出た。
最後に深夜も屋上に出てドアの鍵を閉めた。
暦は秋に近いが屋上は寒いというわけではなかった。
雫は景色を見ようと手すりのほうに近づこうとしたが深夜が引き止めた。
「伊集院、そっちのほうに近づくな」
「え?どうして?」
「屋上って開放してないんだよ。だから、そっちのほうに行くと下から見えるからここにいることがばれる」
「じゃあ、どうして山上君は屋上の鍵を持ってるの?」
「あ、それまだ私も聞いてない」
「あれ?まだ柚子に言ってなかったっけ?」
雫の質問に柚子葉も参加して深夜に詰め寄った。
深夜は屋上に座って話し出した。
「俺って一年のときって荒れてただろ?伊集院も知ってる?」
「うん。みんな騒いでたから」
「それで一年の…入ってすぐのときだったかな、三年に絡まれたんだよ」
「え?大丈夫だったの?」
「あぁ。それでさ、その三年っていうのが当時のこの学校で一番強い奴だったんだよ。そいつから屋上の鍵を譲り受けたって訳。なんでも校内で一番強い奴がこの鍵を持つっていうのがあるらしい」
「へぇ~、そうだったんだ。…じゃあ、深夜が卒業したらこの鍵もまた違う人に渡されるの?」
「いや、先生に返す。一年のときは一人になれる場所としてここ使ってたんだよ。けど、今は使うことないから返そうとも思ったんだけどこういうときにはあったほうがいいなと思ってまだ持ってるだけだから。さ、飯食おうぜ」
深夜はそういって弁当箱を開けた。
柚子葉も深夜の近くに座り弁当箱を開けた。
雫は二人の弁当を見て声を出した。
「え?…一緒?」
雫の声を聞いて深夜と柚子葉は苦笑いを浮かべた。
「これ俺が作った」
「え!?」
「だから、俺料理するって言ったじゃねぇか」
「…嘘だと思ってた」
「そういえばさっきから思ってたんだけど柚子と伊集院って初対面なんだろ?」
「あ、そうだね。私、山下柚子葉」
「私伊集院雫です。話には聞いてるの」
「話?」
「うん。『あの山上の彼女』って私のクラスで」
「『あの』っていうのが気になるなぁ。私も深夜から聞いたよ。料理するんでしょ?」
「うん。してるけどそれがどうかしたの?」
「私もしてるの。だから、深夜が私と伊集院さんは話があうんじゃないかって」
「え?そうなの?あ、私のこと雫でいいよ」
「じゃあ、私も柚子葉でいいよ」
深夜は食事をしながら二人の会話を聞いて思った。
『なんで女子って初対面なのに仲良くなるのって早いんだろ…』
深夜は雫が何も持っていないので声をかけた。
「伊集院、お前飯は?」
「えっと、食堂で食べようと思ったんだけど…」
「食べてないんだな?」
「う、うん」
「じゃあ、雫ちゃん。私と一緒に食べよ?深夜、いい?」
「そりゃ別にいいけど。柚子は大丈夫なのか?足りる?」
「うん、大丈夫」
「柚子葉ちゃん、ありがとう~」
「そういえば昨日の会見見た」
深夜の言葉にさっきまで笑みを浮かべてた雫から笑みが消えた。
柚子葉も笑みを消して深夜と雫の会話を聞いた。
「…そう」
「あぁ。まぁ、大変だろうけど頑張れ」
「え?山上君はなんとも思わないの?私達血のつながりはないけど兄妹なんだけど」
「いや、まぁ最初は驚いた。でも、血のつながりが無い時点でただの男と女だろ?さすがに血のつながりがあったらちょっとは考えるけど。それにもし俺が反対したらお前はその人と付き合うの止めるのか?」
「…止めない」
「だろ?だったら俺は何も言わない。…あ、そうだ。柚子、さっきの話だけど」
柚子葉は二人の会話を聞いていたが急に自分の振られて何の話題か分からなかった。
「さっき?」
「あぁ。ほら大竹との会話」
「あ、うん」
「何でも伊集院の兄貴はこの学校の卒業生らしい。で、今でも大竹と飲んだりするらしいんだ」
「あ、それで大竹先生は雫ちゃんを心配してたんだ」
「そういうこと。でだ、お前はどうする?」
「もちろん雫ちゃんを応援するよ。だって、私達友達だもん」
柚子葉は迷うことなく決断した。
深夜は柚子葉の答えを聞いて頷き雫に話しかけた。
「そういうこと。俺らはお前を応援するから」
「…二人ともありがとう」
「いいって。…ちなみに聞いていいか?」
「何?」
「いつから兄貴のことを好きになったんだ?」
「小学校のとき。私もう一人お兄ちゃんがいるんだけどそのお兄ちゃんに説明してるのを聞いたの」
「へぇ~、じゃあそれからは兄貴を男として見てたって事か?」
「多分そうだと思う。二人はいつから付き合ってるの?」
雫に逆に聞かれて深夜は柚子葉に視線を向けた。
柚子葉は恥ずかしそうに答えた。
「二年のころから」
「柚子葉ちゃんはいつから山上君のことが好きになったの?」
「え!?」
雫は柚子葉に詰め寄った。
柚子葉は戸惑いながらゆっくりを話し出した。
「えっと…、付き合う前に私風邪をひいたの。そのとき見舞いに来てくれた深夜が私の手を握ってくれたの」
「お前が握ってくれって言ったからな」
「あの時深夜の手が大きくて暖かくて…。そのときに『あ、好きなんだな』って自覚したの」
「へぇ~、じゃあ山上君は?」
「あ?俺?」
「私も聞きたい。まだ聞いてないもん」
深夜はまさか自分に聞かれるとは思っていなかった。
深夜は頬を掻いて思い出すように話し出した。
「俺は…多分保育園で会ったときと思う」
「え?保育園」
「あ、私には秀太っていう弟がいるの」
「秀太が行ってる保育園が俺の姉貴が園長を務めてる保育園で俺手伝ってるんだよ」
「へぇ~、それで?」
雫が先を促したので深夜はさらに言葉を続けた。
「あの時にいろいろあって柚子を部屋に上げただろ?そのときにいろんな話したよな」
「うん」
「それから柚子と話すようになってデパートでナンパされたり男子に呼び出されたりとかされて目が離せなくなった」
「う…あのときは迷惑をかけました」
「いや、別にいいけど。…それからさ、気がついたら柚子の姿を目で追うようになった。クラスメイトと話すときや秀太に話しかけるときの顔を見て、…まぁ好きなんだなと自覚したんだ」
「え?でもそれって保育園であったときじゃないんじゃない?」
「いやさ…詳しくは言えないんだけど俺もいろいろあるんだよ。でも、柚子には結構早く伝えてるんだ。多分気がついてないうちに柚子に心を開いてたんだろうなと思う」
深夜の言葉を聞いて雫は『へぇ~』と呟いた。
それから三人で話をしながら弁当を食べた。
食べ終えても話をしていたが、深夜は携帯を取り出して時間を確認して二人に話しかけた。
「もうそろそろ昼休み終わるな。戻るぞ」
「あ、うん」
深夜は二人を促して屋上を後にした。
雫の教室と深夜達の教室は別方向にあるので別れる際に深夜は雫に話しかけた。
「伊集院、何かあったら話してくれ。俺らでいいなら力になるから」
「そうだよ。私達友達でしょ?」
「ありがとう、二人とも」
「あ、ちなみに俺らと一緒にいたとか言わないほうがいい」
「え?どうして?」
「俺のこと不良って思ってる人がいるから。また騒ぎの原因になる可能性があるから」
「分かった。それじゃあまたね」
雫はそういって自分の教室に戻っていった。
残った深夜と柚子葉は雫の後姿を見送りながら話しかけた。
「な?お前と合うって言っただろ」
「うん」
「さて、俺らも戻ろうか」
深夜と柚子葉も自分達の教室に戻っていった。