悪魔って実在するらしい
俺が通うのは、虹の元高校。山の近くに建っているため、緑は豊か。けれど田舎というわけでもなく、1学年350人くらいはいる。
「ちーす」
俺はそれだけ言って自分の席、窓際の一番後ろに座って外を眺める。
……なんだか、ここが何処だかは分かるんだが、なんか慣れないな……なんでだろう。
なんて考えてたら、ガラガラと教室のドアが開いて先生が入ってきた。
立って喋っていた生徒が自分の席に戻っていく。いつものスーツににメガネスタイルのOLみたいな格好の仲田静香先生はみんなが静まると開きっぱなしにしていたドアに向かって手招きした。またざわつき始めたクラスに一人の少女が入ってくる。見た目はかわいいというか綺麗な感じで外人なのか紅の目を持ち、透き通るような銀髪はポニテにしている。
彼女は教壇に登ると黒板に名前を書いていく。
〈エレン・サタナキア〉
やっぱり外人か……クラスの男子は彼女をジロジロ見つめているがエレン・サタナキアさんはそんなのはシカト。先生に軽く話しかけると、先生は頷いて、
「えー、エレン・サタナキアさんは伏町くんの隣ね」
クラスの男子らは俺に視線をバッと向ける。ジリジリと肌に視線が突き刺さるので、俺は外を眺めるのを再開した。俺が外を眺めているとトコトコとエレン・サタナキアさんは歩いてきて、
「私はエレン・サタナキア。貴方は?」
俺は視線のせいで額に汗の浮いた顔を彼女に向け、
「お、おう。俺は伏町刀士。よ、よろしく」
俺はそれだけ言うとまた外を眺め始める。隣の存在感が大きくて俺が押しつぶされそうだ。もう、全く落ち着かないなぁっ!
「ねぇ、トウジ。私、まだ教科書をまだ貰ってないからちょっと見せて」
俺がソワソワしてるとエレン・サタナキアさんはそんなことを言ってきた。
「おびゅぅっ、。ま、まあいいけど。えーと……」
「トウジ、エルって呼んで」
「わかった……エル?」
「なんで疑問系なの?」
エレン・サタナキア改めエルはフフフッと可憐に笑う。俺はいきなりトウジなんて呼ばれたもんだから酷く狼狽したが、なんとか打ち明けられそうだ。
朝のショートホームルームも終わり、授業が始まるのだが……
ーーガタガタガタッ
エルが机をくっつけてきたよ?
「エ、エル? どうかしたのか?」
俺がそう言うと、エルはキョトン。
「教科書を見せてくれるんじゃ無いの?」
そうだった。エルは教科書を持ってないから見せてあげるんだった。ついさっき言われたのにもうわすれてたよ。俺、もう脳の老化が進んでるのか? いや、さっきは緊張し過ぎていたからということにしておこう。
「ああっ! そうだったなっ!」
俺は一応笑顔でボケたふりをする。忘れてたなんて言ったらなんか申し訳ない気がして。
「そう」
未だに突き刺さり続けている視線によって一つ一つの言動が落ち着かない俺の苦労など気付きもしない御様子でエルはただそう言った。
いっそのこと席替えすればよかったのに…そうすればこの事態は避けられたかもしれないのに……と俺は思うのだった。
《放課後、屋上、来い。》
などと書かれたメモ書きを手に放課後、俺は屋上に向かっていた。このメモ書きを俺が持っている理由は少し前に遡る。
俺はエルに教科書を見せる関係で机をくっつけていた、が、俺はそのおかげで一層強くなった視線や威圧感から逃れようと俺は教科書を見ないで外を眺めることにした。
すー、すー。
「⁉︎」
俺が寝息の様な音に気付いて、横をちらっと見ると…案の定、エルさんが寝ちゃってますっ! たが、それにしても綺麗な顔をしているだけあって寝顔はかわいい。
なーんて思ってると選択肢。
1.ゆびでつついて起こしてやる。
2.寝ている隙を狙って胸を揉んじゃう♡
3.ポニテを引っ張って起こす。
うーん……どうしようか。まず、1。つついて起こすのは一番普通だが、なんだかこの状況においでそんな馴れ馴れしいことはできんな。残る2つ……
悩む。
2はやりたい。超やりたい、身体で唯一チョット残念なあの胸をっ! 3は乱暴に見えるかもだが、確実に起こせるだろう。欲望を取るか起こすというミッションを確実にこなすか、どっちを取るべきか……
……はっ! 欲望を取ってしまうと女子もいるこのクラスで精神的に死んでしまうのでは?
そう考えた俺は3を選択。恐る恐る手をポニテに持っていく。柔らかいっ! 毛ってこんなに柔らかいの?まるでシルクでございますぅっ! ……イカンイカンっ! 早く起こさなければ。俺はそのシルクのような手触りのポニテを掴むとぐいっと引っ張った。
「んっ……!」
ちょっと痛かったのかエルは小さく声を出した。その瞬間、
ズバァッ!
クラスのみんなが一斉に振り向いた。俺はポニテからサッと手を離し、窓の外を眺める。横目でエルを見ると寝てたのがバレて恥ずかしいのか顔を赤く染めており、女の子にとって髪は敏感なのか分からないが、ハァハァと熱い息も吐いている。それをみなさん、勘違いした御様子で。
「トウジぃっ! なんかやったんかぁ?」
だの
「このスケベ女ったらしぃっ!」
とか言ってる。女子なんかは身体を手で隠してキャーなんて言ってたりする。俺は一切、破廉恥行為をしていないのに何か罵られてるんですけどっ、そんなみなさんのおかげで授業はまるまる潰れてしまったのだった。
その時に何故かエルから渡されたのがこの紙だった。俺が屋上へと上がるとエルがクラスメートの女子生徒と一緒に立っていた。
「エル。どうかしたのか?」
俺がそう声をかけるとエルは
「トウジ。私は悪魔よ」
……は?
「え? 今なんて?」
「私は悪魔よ」
当たり前のことだが、俺はエルの言うことが全く理解できていない。……もしやこれが噂に聞く『中二病』ってヤツ?
「えっと。その、そういう設定なの……かな? 」
俺はしどろもどろにそう聞くがエルは表情を変えない。
「設定というか、私は悪魔なの」
俺がどう答えればいいのか分からずに硬直していると、
「信じてないでしょう?」
エルは急にネットリとした声を出してニヤリと口元を歪めた。俺はその不気味さに後ずさる。
「なら、見せてあげる。《サタナキアの力》を」
「は? ……え?」
ヤバい……これはヤバいタイプの中二病だっ! 悪魔なんて存在するわけがないっ!
「あなた……」
エルは隣にいたクラスメートの女子に声をかける、その女子生徒は「はい」と返事をするとエルの方を向いた。
「おすわり……」
……ぺたん。 エルがそういうと女子生徒はその場に座った。女子生徒は顔の表情を一切変えていない。
「お手……おかわり……ふせ」
エルが次々と命令すると女子生徒は犬のようにそれに従う。
「お前、なにやってんだ?」
どうなってるのか全く把握出来ていない俺が、そう聞くとエルは俺を見て、
「トウジ、この子になにをさせたいか言ってみなさい。私の力があれば容易いことよ」
ここでまた選択肢さんが登場。
1.ちんちん〈犬の芸、別名ちょうだい〉。
2.ちん○んを触ってもらう。
3.ちんすこうを作ってもらう。
なっ……一番健全なのは1その次は3だが、この2つ、やろうと思えば恥ずかしがることなくできてしまう。エルの中二病を暴くためにはやっぱり2が妥当だ。
だが……俺が恥ずかしい……
いきなり『俺のチ○コを触りなさーい』なんて言ったらただの変態でしかない。ううう、どうする俺……あっ、そうだ。
「2で」
「は?」
しまったぁぁぁぁあ! この選択肢は俺にしか分からない。2とか言ってもわからんではないかぁ! いいこと思いついたと思った俺がバカだった……覚悟を決めよう。俺は深呼吸すると。
「……俺のチン○を触れるもんなら触ってみやがれぇぃ!」
と一気に叫んだ。するとエルは
「分かったわ」
と言って女子生徒に命令する。
「トウジのチ○コを触りなさい」
え? 分かちゃったの? それに、今、チン○って言ったぞ。あのエレン・サタナキアさんが。いや、驚くべきは女子生徒が恥ずかしがることなく寄って来ていることだ。
俺は思わず後ずさるがすぐ後ろは壁なのでそれ以上下がれなくなってしまう。すぐ目の前まで来た女子生徒は手を俺の下半身に手を伸ばしてくる。その顔は無表情で恥じらいも何も考えていないようだ。
「ちょっ、まっ!」
俺がそう言うが彼女は動くのをやめない。俺の股間と指との距離は7センチ、5センチと詰められていき、あと1センチと言うところで俺はもう我慢できなくなって
「エル。わかったから。わかったから、もうやめてくれぇ!」
俺が懇願するように叫ぶとエルはフフフと笑って
「トウジ、面白いわね。……あなた、もういいわよ」
そう言うと女子生徒はピタリと動くのをやめてエルの元へと歩いて行ってしまう。
「あらゆる女性を意のままに従わせる力、それがサタナキアの力。私は悪魔プート・サタナキアの娘、エレン・サタナキアよ」
そう言ってフフッと可憐に笑ってきた。
「お前、催眠術かなんだか知らないが、まぁ。超能力みたいのは持ってるみたいだな。でもなんでそんな奴が俺に用があるんだ?」
悪魔ってのは信じきれないが、とにかくすごい力を持ってるらしい。でも俺は一般人だ。そんなのに関わるのには何か意味があるのだろう。
「私は悪魔。だからこの世界には住む所がない。だからトウジの家に住まわせて貰おうと思ったのよ」
エルはそんなこと言ってるが一番知りたいのは
「だからなんで俺なんだよ……」
「トウジは妹と二人暮らし。だから1人くらい増えても変わらないでしょ。それにトウジには何かある……」
「なんでそれを知ってんだ? それに何かってなんだよ」
俺はちょっと不気味に思って更に質問する。
「何度も言うけど私は悪魔よ。トウジの中に眠っている何かは私にも分からない。でもそれは神に匹敵する力を持っている」
ムムム。よく分からない。でもさっきのを見てしまっては信じざるを得ない。
「エル、お前ホントに家ないのか?」
俺は改めてそう聞くとエルは
「うん」
とだけ答えた。本当に家がないなら、泊めてあげたいし、仮に家があったとしても、エルに直接連絡があったら帰らせればいいや、という事で、俺は携帯を取り出してもう家に帰っているであろうスズに電話をかける。
「……もしもしスズか?」
『お兄ちゃん、どうかしたの?』
「同居人が増えるかもしれんが、どう思う?」
俺がいきなりその話題を切り出すと、とスズは驚いて携帯を落としたのか携帯の向こうからゴトゴトと音がする。
『え? 同居人?』
ちょっとしてからスズが聞き返してくる。
「ああ、ちょっとめんどくさい奴だが……」
スズは押し黙ってしまった。俺との二人暮らしを結構気に入ってたスズにとっては嫌なのかもしれない。
「別に嫌なら嫌でいいんだぞ」
俺がそう言うとスズは
『ううん、逆に嬉しいよ! 人が増えると楽しいからね。ちょっと嬉しすぎて思考が停止しちゃった』
なんだ、そういうことか、スズ。ホントにできのいい妹だ。
「じゃあ今日から来ると思うから仲良くするんだぞ〜」
『うん! お兄ちゃんっ!』
そう言って通話は終了し俺はエルに向き合う。
「なんか、よくお前の事は分かんないけど、よろしくな」
俺が右手を差し伸べながらそう言うとエルはその手を掴んで、
「ああ、ところでトウジはシスコンなのか?」
「……い、いや。ちがうんだからねっ!」
俺は顔を全力で赤らめて否定するのであった。