いもうと⁉︎
「おきて! おきて!」
暗闇で可愛らしい声が響く・・・眠いからやめてよ……あら? 俺、独り暮らしだよね? 眠かった感覚も吹き飛び、俺はすごいスピードで体を直角に起こす。
「・・!」
俺の横に立って揺すっていたのであろう栗毛のツインテールの少女が驚いて目をパチクリしていた。
「お、おう。おはよう。スズ」
……何故今、俺の口から『スズ』の名前が出てきたのだろう。初対面のハズ……では無いような、そうでも無いような……
でもこの少女が妹の鈴であることは分かる。一体なんなんだ? この感じは……俺はたしか、部屋で……? 分からない。一瞬何かが頭をよぎったが、何であったかは分からない。
「お兄ちゃん? どしたの?」
スズが、顔を覗きながら聞いてくる。
「いや、何も無い」と答えようとした時、頭の中に選択肢が浮かび上がった。
1.お前が可愛いくて見惚れてたよ。
2.うるせーこの豚女!
3.はっ! プリギュア見なきゃ!
なんだ? この選択肢は…さっきまで言おうとしていた言葉が何故か口から出ない。何故だかこの三つ以外のことは言えなそうだ。ならここは無難に、
「うるせーこの豚女!」
……こんな感じだよな、妹に対する兄の態度って。たがスズはウルウル。目に涙をためて、
「このバカお兄ちゃん!」
と言って部屋から出て行ってしまう。…俺、何か間違えたか⁇
俺はパジャマから制服に着替えると食堂に向かう。
「……おい、スズ?」
スズがソファーの上で体育座りをして泣いている。俺が何か声をかけようと近寄ると、また選択肢。
1.泣くなって、あんなの嘘だよ。俺の愛すべき妹よ。
2.哀れだな、この豚女!
3.どうした? 転んだのか? 舐めようか?
……っ! こんなのえらべるかよ! 全部キチガイじゃねえか。でも他の事も言えないし、ここは1だな。
「泣くなって、あんなの嘘だよ。俺の愛すべき妹よ」
「おに……ちゃん?」
俺の愛すべき妹、スズは潤んだ目でこっちを見てくる。
「ど、どした?」
「おに、おにおに、お兄ちゃ〜ん!」
スズはそのまま抱きついてきた。
「え? え?」
俺は何故抱きつかれたのか分からず、混乱してしまう。
「大好きだよ、お兄ちゃん! 大好き、大好き、大好きぃぃ」
なんなんだこの妹は、感情の起伏、やばくね? それになんか柔らかいものが当たってるよ? 俺は16才、妹は14だが、14歳ってこんなにおっきくなるのか? すげぇ!
「わかったから、もう離れろ」
俺がそう言うとバッ! スズはすぐに離れて鼻歌を歌いながら台所へと向かう。
「今日のー、朝ごはんは! じゃーん!妹愛情山盛りハムエッグだよっ!」
元気に叫びながら、何故かケチャップで〈LOVE〉とかかれたハムエッグを見せてきた。
「お、おう。ありがとうな」
俺はそれだけ言うと椅子に座って食事を開始した。スズはニコニコと俺を眺めてくるが、何が楽しいのか俺には分からない。
「スズ、どうかしたのか?さっきからゴキゲンらしいが」
するとスズはニコニコしたまま
「ううん」
と答えるだけ。わけがわからん俺は首を傾げながら食事を続ける。
そんな感じでいつもと特に変わらない朝を過ごしてると、こんな時間。
「おっともうこんな時間。スズ、一緒にいくか?」
俺がサブバックを肩にかけて玄関に向かいながらそう言うと
「うん、チョットまってね」
と言ってスズはドタドタと階段を登って行く。
ー数分後ー
「お兄ちゃんっ! 遅れてごめんね」
スズはそう言うと、頭の中にまた選択肢が……
1.「いいのさ」と言って頭を撫でる
2.「ダメだろ」と言って頭を撫でる
3.「悪い子にはオシオキだっ」と言って胸を揉み砕く
これは……迷うな。1は優しいお兄ちゃん。2はしっかりしたお兄ちゃん。3は自分がやってみたい……っ! どうするっ! 俺っ! でも……ここは自分の欲望は殺して
2だっ!
俺は謝るスズの元まで行くと
「ダメだろ」
俺はそう言ってスズの頭を撫でる。スズは顔を赤くして申し訳なさそうな、それでいて嬉しそうな顔をする。俺は意味がわからない為、首を傾げてしまう。
「じゃあ行こっ! 遅刻しちゃうよぉ!」
スズが少し先に進むと振り返って笑顔で催促してくるが…遅れそうなの、スズのせいだから。
俺はため息を吐きつつスズに着いて行く。こうして兄妹の「ように」過ごしているが、スズは実妹でない。俺が10歳の時に当時8歳のスズがやって来た、すなわち義妹だ。
俺は高2、スズは中3なので途中で別れて学校へと向かった。