A面-6.交感
(´・ω・`)七夕!!
寝て過ごす日々を四日もすると飽きてきた。
朝日で明るくなった寝屋を眺めてベットから身体を起こす。
「そろそろ仕事を探すか…。」
身体を伸ばして決意する。
森の奥地を探索をして訳の分からない生き物を連れて帰った。
その、アラギのお陰で儲かった。
暫く仕事はしなくても良い。
だが、何となく身体が鈍る様な気分なので仕事がしたくなる。
何でもよい、身体を動かせれば良いのだ。
貧乏性なので派手に遊ぶ様な気分にも成れない。
ベットを出て肌着を着替えて、手ぬぐいと桶を持ち。
洗顔と洗濯に井戸に向かう。
共同井戸では先客が居た。
「おはようさん、タキトゥス今日は随分と早いな。」
パン屋のおっさんだ。
この時間はパン焼きも終わり、使った道具を洗っている。
釣瓶竿に付いた桶を井戸に放りながら投げ槍に答える。
「おはよう、おっさん何時も早いな。もう仕事仕舞か?」
嫌味と言うか冗談だろう、パン屋のおっさんは日の出前から働いているので道具を片付けてたら寝る時間だからだ。
つまりは何時もの挨拶だ。
「おう、パンが欲しけりゃ嫁さんに言いな。」
竿を引き上げ、桶に水を張る。
「ああ、いい加減寝る仕事にも飽きた。そろそろ仕事を探すよ。」
顔を洗い始める。
俺の洗濯物を見てあきれるパン屋。
「そりゃ、いいこった。早く嫁さん貰えよ。仕事に張り合いが出るぜ。」
「冒険者に嫁なんて来るかよ。」
「はははは、なんならもっと楽な仕事を紹介するぜ、パン屋と木こりだ。」
両方共に早起きの力仕事だ。
「歩けなくなったら考えるよ。」
この一連の会話も毎回同じだ。
「ああ、そういや、薬師さんが店に顔を出せって言ってたぞ。」
桶を洗う手を止めないパン屋。
「え?ああ、そうかい。」
肌着の洗濯に移る。
竈の灰が入った水差しを借りる。
上澄みの水だけを桶に足す。
「何か在るのかい?」
店を持っている店主は大体は噂好きだ、買う客とのおしゃべりを人生の糧にしているのでは?と思うくらいだ。
「さあなあ。新しい仕事かもな…。」
おそらく、冒険者ギルドへの呼び出しで割符の件だろう。
前の仕事で店を出しているのがエカトだけなので。
ギルドから見て何時も連絡が付くのがエカトだ。
最も、俺がもっと頻繁に冒険者ギルドに顔を出せば良いだけの話だ。
「冒険者ってのは儲かるのかい?」
コレも何時もの会話だ。
「いや…。儲かんねぇな。一個の依頼だけでは大赤字だ、俺は色々な依頼を集めて纏めて受けるから何とか喰っていけるだけだ。」
俺は薬草採取や、肉や革が欲しい人を探して纏めてギルドで指名依頼を出して貰っている。
チームメンバーも内容に合わせて集めている。
そうでもしないと儲けが出ない。
顔の広さで飯を喰っている。
「不景気な話しだな…。そういや、最近。おまえさんが連れて来た魔物だが…。」
何故か頭痛を覚える…。
「俺が連れて来たわけじゃないぞ?」
「そうか?皆面白がっているぞ。礼儀が良いそうだ。」
「アラギは確かにそうかもしれん。だが、オーガくらいなら簡単に倒せる魔物だ。怒らすなよ。」
ココまで噂が広がってるなら。
アイツが何か問題を起こすと俺のせいにされそうだ。
「魔物ねえ…、随分と人間臭い魔物だな。」
俺達より頭が良いからな。
「まあ、良くわからんのには係るな。特にアラギはそうだ。」
「いや…。それがガキ共に大人気だ。」
「は?」
肌着を洗う手を止める。
「いや…。最近その、お前さんが連れて来た魔物が辻で笛を吹きながら飴を売っている。」
「あ?飴。」
「そうだ…、何処から手に入れて居るのか解らんが飴だ。で、子供達が小銭欲しさに家の手伝いをしてくれる。」
「飴ねえ…。」
アラギなら…。
いや、無理だろ。
汎人が食べる物は食べられないとエカトが言っていた。
「ああ、俺も食べてみた。しっかり甘い。味も付いている、鍛冶屋で作っているらしい。」
「鍛冶屋…。」
たしか、ラケルタの親戚だ。
ラケルタは嫌っているがアラギとは仲が良さそうだった。
「とうちゃん!終わったよ~。」「おわった~。」
「おう、ボウズ共竈の掃除が終わったか。じゃあ手と顔を洗いな。今日の駄賃を渡そう。」
「わーい。」「水~!」
おっさんの子供達が井戸で水を汲んで。
顔と手を洗っている。
「はい、駄賃だ。」
銅貨を渡している。
「じゃあいってきまーす!」「いてきます。」
走り去る子供。
桶を洗い終わったおっさんが最後の桶を壁に逆さに掛ける。
「おっし、仕事終わりと…。」
眠そうにあくびをするパン屋のおっさん。
「で、そのアラギが飴を売って…。子供達が菓子欲しさに家の仕事手伝ってるのか?」
「ああ、そうだ。まあ。今の所は問題は無いな。」
「今の所?」
「魔物が作って居る飴なんて妖しいだろ。まあ、味は悪くない。しかも安い、ナニで出来ているのか不思議だ。」
「鍛冶屋にきけば?」
「聞いた、解らんとさ。朝に成ったら出来てたそうだ…。」
「あー。」
アラギの事だから…。
一瞬で出てきても可笑しくないだろう。
「で、お前さんに頼み事だ。あの魔物がどうやって作って居るのか聞いてくれ、無理でも。せめて何で出来ているかは教えてほしい。」
「いや…。無理だろ。」
「別に作って売ろうと言う訳ではない。麦で飴を作るのは今の時期は不可能だ。」
パン屋の心配事は理解できた。
子供達が食べているのに、せめて食い物が原材料で人が食べれる物で有ると知らないと安心できないのだ。
「あー、無駄かもしれんが聞いてみる。」
「そりゃ、助かる。知ったら教えてくれ。」
「まあ、アラギに出会えばな。」
最後のシャツが洗い終わる。
後は水に付けて絞ったら干すだけだ。
「何時も、大通りに居るぜ。笛吹いてる。直ぐに見つかるさ。」
「ああ!?」
しまった、乗せられた。
「じゃあな…。おやすみ。頼んだぜ。」
「ああ、おやすみ。」
パン屋の親父が店の中に消えると井戸から桶に水を張って…。
洗い物を濯ぐ。
まあ、洗濯は終わった絞った物を持って部屋に戻り窓から干す。
身支度をして出かける準備をする。
特にやる事は無い時は、町をぶらついて仕事を探すのだ。
そうすりゃ用が有れば向こうから話をしてくる。
寝屋を出て…、大通りに出ると直ぐにアラギが見えた。
見たくなかったが目立つので仕方がない。
相変わらず、銀色で…。不定形だ。
底の浅い大きな丸鍋を被った不定形が笛を演奏しながら通りを練り歩いている。
何故かお面を付けている。
胸から下げる木の看板には”飴:銅貨1枚。笛:銅貨6枚。着火器:銀貨2枚”だ。
微妙に変化しているのに何故か頭痛を覚える…。
パン屋の親父が言う様に、かなり目立っている。
それは数人の子供達が面白そうにアラギの後ろから付いて歩いている…。
向こうも気が付いたのか…。
あの単調な踊りを始めた。
確か何時かの挨拶の踊りだ…。
可笑しそうに後ろの子供達が真似る。
おい…。コイツはオーガも大蛇も倒す魔物なんだぞ…。
無論、殺されたくないので俺も挨拶する。
アラギは更に謎の踊りをするが…。良く解らない。
とりあえず、銅貨一枚を見せて看板の飴を指さす。
背中に背負った布から棒に刺さった飴を取り出すアラギ…。
子供達が物欲しそうな顔だ。
背中には笛と棒に刺さった飴が未だ見えている。
銅貨を渡すと…。
コレは食い物だと信じて口の中に入れる。
謎の透明な膜は口の中で溶けたが…味は無い。
その内、謎の甘味が舌の上で広がる…。
う、うん、確かに甘い…。
しかし、麦から作った飴ではない…。
謎の甘味だ。
多分何かの香草も入っている…。
何の味か?は思い出せない。
「おい、アラギ。この飴は何で出来ている?」
訪ねたアラギは腕を組み、お面の下に添えて頭を傾けた。
”解らない”と言うのは理解した。
だが、俺の質問が解らないのか、理解した上で”何で出来ているのか解らない”と言っているのか不明だ。
しかし、動作がいちいち人間臭い。
我々の動作を観察して覚えたなら可成りの者だ。
それより、コイツは本当に魔物なのだろうか?
とりあえず…。
通訳は必要な様子だ。
”付いて来い。”
と木片を示すと素直に理解するアラギ。
どうせ、エカトに会う予定だ。
ギルド関係の呼び出しならアラギも関係が有るハズだ。
笛を吹くのを止め…。
子供達に別れ挨拶をするアラギ…。
コイツ本当に…。汎人を理解しているのか?
何故か素直に子供達は解散した。
通りを歩く俺の後ろに続く、|不定形≪アラギ≫…。
「おい!近いぞ!」
何故か背中に張り付く勢いのアラギ…。
抗議すると…。何時もの踊りを行う。
「コイツ本当に。知能が高いのか?」
不安になる。
知能が高いという意味が曖昧だ。
アラギは誰とも意思疎通が出来ないが。
何故か結果を知っているのだ。
魔法の様な物なのかもしれない。
魔法なら仕方がない。
俺の様な学の無い者では理解できない。
感知出来る者でしか理解できないのだろう。
しかしソレでは、正誤の判断が出来ない。
結果が出てから解っては遅いのだ。
周囲の物に触手が伸びたり縮んだりするアラギを連れて…。
エカトの店に向かう。
口の中の飴が無くなる頃。
薬師の店に到着した。
エカトの店は古いが良く手入れが行き届いている。
何せ俺が物心付いた時にはもう古かった。
昔から変わっていない様にも見える。
扉が開いている様子なのでエカトは店に居るのだろう。
「おじゃまする。」
「いらっしゃ…。あら、タキトゥス。と…アラギも。」
「ああ、ソコで会った。聴きたいことが有ったが通じないので連れて来た。」
相変わらずの踊りを始めるアラギ…。
「そうなの?でも良かったわ。割符に値段が付いたのよ。」
なるほど…。やはりソレか。
しかし、呼び出すほどの物なのだろうか?
「幾らだ?」
「一人、金貨220枚。」
「ぶっ。一人?全部じゃなくて?」
「そう、一人。但し、ギルドでお金が用意できないの。」
話が怪しくなりそうだ。
そんな大金を出すヤツはこの村に居ない…。
しかも、値段が出るのが速い。
買ったヤツはギルドに口座を持っている奴か…。
領主だろう。
そうなると金は帳面上の遣り取りだ。
普通の冒険者はギルドの預金卸しは月に金貨10枚までと決まっている。
店をやっているエカトは別だ。
店なら…わざわざ現金にする必要も無い、仕入れを帳面でギルド払いにすれば良い。
「困ったな…。」
「ふふふふ、タキトゥス。ギルドで帳面を貰ってきなさい。」
微笑む、エカト…。母親より年上だ。
割符で現金と交換では無く。帳面だ。
商人か、やり手冒険者の証の様な物だ。
「俺はそんなに偉く成りたいワケではないのだが…。」
俺も店でギルド払いが出来る。
腰に帳面を下げた冒険者はソレなりの信用が有る、と言う証だ。
「判った、今の話をアラギにも言ってくれ。」
アラギは店の商品に興味をしめしている。
「そうね…。アラギ…。実は…。」
伸びたり縮んだりで、身振り触手の銀色…。
「判ったって。」
本当かよ。
何故か会話が成り立つらしい。
「エカト。アラギが町で飴を作って売っているらしいのだが。何でどうやって作って居るのか聞いてくれ。」
溶けて無くなった飴の棒を見せる。
「え?あらそうなの。飴?」
アラギが、胸の木の板を示している。
何故か威張っている様に見える。
「ふーん。麦芽と一緒なの?アミラー?」
アラギが木の板に水を濡らして文字を書いている…。
簡単な絵も書いて居る。
「芋と蕪から作ってるって。」
「飴を?」
麦芽から飴が出来るのは常識だが蕪から出来るとは知らない。
「うん…。芋から糯を作って摺り下ろした蕪の汁と混ぜ、一晩置いて加熱しながら水気を飛ばす…。」
「何故出来るのだ?」
「理由も作り方も知っているみたい。アミ…?何とかが蕪に含まれているから…。」
誇らしげに棒に付いた飴を取り出すアラギ…。
同時に”飴:銅貨1枚”を示すアラギ…。
売りつける気だ、何かイラッとする。
「はい、銅貨1枚。」
エカトが買う。
「え?この包装は食べられるの…?ああ、糊なの。あら…。本当に甘い。」
口から棒で微笑むエカトに…。
謎の踊りをするアラギ。
「そう、そうね…。」
飴は、芋と蕪から出来ている。
コレでパン屋の親父も納得するだろう。
「じゃあ、タキトゥス。アラギと一緒にギルドに行って。」
「あ?今直ぐか?」
「何か用事でもあるの?」
不思議そうに首をひねるエカト。
年頃の娘の様なしぐさだ。
「いや…。別にないが…。」
無いが…。アラギと共にギルドに入るのは…仲間だと思われる。
「いってらっしゃい。」
手を振るエカトに触手で答えるアラギ…。
特に用事も無いが行く所も無いので仕方がなくギルドへ向かった…。
アラギを連れて…。
(´・ω・`)なお…。高確率で雨。




