A面-5.着火
出来上がった冒険者カードを全身鎧は喜んでいた。
喜んでエカトに見せるアラギ。
「よかったわね。」
「ああ、良かったなアラギ…。近い近い。」
俺の顔の前にカードが近い。
種族が不明に成って”自称:NENGIN”と書いてある。
コイツは自分達をNENGINと呼んでいるのだろう。
とりあえず終わったので仲間が待っているテーブルに移動する。
テーブルではゲズウがもう既に酒を呑んでいた。
「おう、タキトゥス。遅いぞい、もう始めておるぞい。」
ラケルタは呆れ顔だ、酒は来ているが未だ口を付けて無い様子だ。
「やれやれ、リーダー首尾はどうだった?」
椅子に座る。
全身鎧も椅子に座るが軋む。
「ああ、任務完了だ。魔石は定額で売れた。コイツは任務完了の報酬だ。こっちは競売の割符。」
テーブルの上に報酬支払いの割符と競売の割符を並べる。
各員が名前と金額を確認している。
喜ぶラケルタ。
「よっしゃ!!タキトゥス呑もうぜ。エカトも呑むよな?」
手を挙げ酒を頼む。
「ああ、貰おう。」
「わたしも。」
杯を持つ女の返答が在ると、始めて酒に口を付けるラケルタ。
そういえばラケルタは仕事中、酒を呑まないと言っていたな。
「おう。今回は黒字じゃ。思った通りじゃい。」
「大蛇の魔石は高く売れたのよ。」
「そうじゃろい、皮も高く売れるぞい。楽しみにしておれ。」
笑うゲズウに同じく笑う仕種の全身鎧。
「そういえばコイツは登録できたのか?」
「ああ、出来たぞ?自分で用紙に記入した。名前はアラギだそうだ。」
「あ?」
「なんじゃい。名前が在るのか?」
「ああそうだ、種族はNENGINだそうだ。」
「そんな種族あるのか?」
ラケルタの顔に首を振るエカト。
「見たことも聞いたこと無いわ。」
「ワシも聞いたコトがないぞい。おう、ワシの分も置いてゆけ。」
急いで杯を空にするガズウ。
小人族は大酒呑みだ。
呼んだ給仕がテーブルの上に杯を並べる。
アラギが冒険者カードを皆に見せて自慢している。
一応、理解している様子だ。
「本当に登録でき…。近い!近い!顔に近い。」
ラケルタの目の前までカードを見せるアラギ。
皆に最終確認をする。
「一応、コイツの取り分も渡すが良いのだな?」
「ああ。良いぜ。仕方ないだろ。トラブルに成ったら俺達が何か言われ…。近い!解ったから!」
「はい、これ、お金に替えられるの。交換?わかる?獲った…。そう。石が売れたの。引換券なのよ?後であそこでお金に替えられるから。」
エカトと鎧が話をしている。
「エカトはソイツと話ができるんだな。」
酒を煽り、思わず尋ねる。
「ええ、森の妖精族の能力かしら?何となく解るの。森の生き物と話をする能力、相手が聞く気が無いと出来ないけど。」
「へー。コイツは聞く気が在るんだ。」
「うーん。かなり頭は良いと思うわ。」
頬にひとさし指を当て首を捻るエカト。
俺はコイツが何を言いたいのか解らない。
「何故そう思う?」
「ふつう、喜怒哀楽しか解らないから、こっちから尋ねるの。聞けば”ハイ””イイエ”とかで答えるわ、相手が沈黙すると大概コチラの質問が理解出来ていないの。」
「良く解らんな。」
酒を呑む。
「この子は沈黙せずに聞き返してくるの…。割符が何なのか?何故お金なのか?何処でお金と交換できるか?」
「ふむー、昔、会ったオークの傭兵団の連中はもっと粗雑だったぞい。喰う寝るヤルしか頭に無く、金の計算も出来なかったぞい。」
「そうね…。そう考えるとオークより頭が良いのかも…。」
「コイツが頭が良いと言ってもなあ。」
ラケルタの酒が空に成る。
割符を舐めるように観察したアラギは頭が四つに割れて割符を喰った。
思わず酔いが覚める。
「コイツ本当に理解しているのか?」
思わず尋ねる。
ラケルタは肩を竦め首を振る。
「お、お金の概念は理解してるみたいだから!!」
焦るエカト。
俺の母より年上のハズだが、時々、外見相応の娘の様な行動をとる。
「でも今回、こんなに報酬が貰えるとは思っても見なかったぜ…。おい、俺の酒返せ!」
アラギが空に成ったラケルタの杯を手に取って弄んでいる。
「ワシも、今回は収穫が多かったぞい。神に感謝を!」
笑うゲズウ。酒で陽気に成っている。
「わたしは、別に薬草採取さえ上手く行けば良いから。赤字になると思ったけど。大成功。」
一応今回の依頼の発起人でもあるエカトが喜ぶ。
酒が廻り始めて白い肌が紅い。
「正直、この皮ダケでも一生自慢できるぞい。」
個人の分け前の皮の束を指すゲズウ。
「ゲズウ、高く売れるのか?」
「いんや、樵仲間なら話の種じゃ、みんな驚くぞい。」
フハハハと笑うゲズウ。
「なんだよ…金にならないのかよ…。期待してたのに…。げ!水になってる!」
杯を取り返したラケルタ。
どうやらいつの間にか、杯に水を入れたらしい。
「いやいや、高く売れるぞい…。但し、一寸今回は数が多すぎるから、かなり安く叩かれるハズじゃい。売らずに自慢したほうが得じゃ、樵にしか自慢できんぞい。フハハハハハ。」
なるほど、樵の間では有名な大蛇なのだ。
「何か使い道は有るのか?」
「さあ?しらんぞい。始めて見る革じゃい、革職人はさぞ悩むじゃろうな。珍しいから高く売れるだけじゃい。この量なら珍らしさも霞むぞい。」
「なんだよ、今回は数が多すぎるのか…。おう、俺は追加で頼むぞ…。」
水杯を飲み干しゲズウが手を挙げる。
「俺も貰う。」
「あ、あたしも」
「ワシもじゃい。」
「…。」
「おーい。酒くれ!五つだ。」
アラギも手を挙げた、酒呑むのか?
5つの杯が運ばれてきた。
「おい、革の使い道が決まれば高く売れるのか?俺は直ぐに金に替え様と思ったんだが。」
ラケルタは即金が好らしい。
ゲズウが答える。
「ソレは革職人の仕事じゃい。しばらく置いてから売ったほうが高いじゃろう、使い道が解ったら自分の道具を作った方が価値があるかもしれんぞい。」
「一匹全部使ったら全身革鎧が出来るぞ?」
何せあの大蛇だ。
人を丸呑みする大きさだ。
アラギが杯に指を突っ込んで…。呑んでいる。
「コイツ、酒呑めるんだな。」
「まあ、酒ぐらいはのむじゃろい。」
だが飲み干したと思ったら指の先から杯に戻した。
「おい、なんだ。口に合わなかったなのか?」
「ハハハハハ、酒が呑めないのか?」
いきなり形が不定形になり、数本の触手が石とナイフを打ち合わせると触手の先から蝋燭程度の青い炎が上がった。
アラギは自慢げな態度だ。
「…。炎のまほう?」
「いえ…。多分違うと思うわ。」
「コイツいったい何なんだよ。」
「生き物ですら無いのかもしれんぞい。」
解ったのは名前だけだな。
日が出ている間に酒盛りは終わりチームは解散して寝屋に帰った。
皆、今日の割符を現金に換えると。
銭を受け取ったアラギはふらふらと街中に消えた。
まあ、金は在るから何とか成るだろう。
数日は喰えるはずだ。
俺も次の依頼を探すまでボチボチ働こう。
朝起きて、メシを喰うために市場に出たら人だかりが出来ていた。
近所の農家が売りに来る出店で、元締めに何かを収めれば誰でも出店できる。
売りに来るのは、何時もと同じ顔ぶれなので新しいヤツが出店を出せばこうなる。
興味本位で覗くと。
底の浅い大きな丸鍋を被った銀色の不定形が笛を演奏して布を広げ、何かを売っていた。
どうやら簡単に火が付く道具を実戦して売っている。
手のひら程の、鉄で出来た奇妙な形をした器具でロープが火皿にあり。
レバーを上げ卸すと火花が飛んで火皿のロープが煙を立て始めた。
息を吹きかけて先のほぐした小枝に炎が移る。
ロープを引っ張り中に収め、レバーを仕舞うと煙が消えた。
木の看板には”笛:銅貨6枚。着火器:銀貨2枚”
着火器…微妙に高いな…。
話は通じていないが、身振り手振りで操作法を教えている。
買った男が試して簡単に火が付くのを見ると、他の者も買い始めた。
確かに火を付けるのにはコツが居る。
下手なヤツは時間が掛かる。
チームでも自然と上手いヤツが火を付ける係りになるのだ。
珍しさも在って買う者がいる様子だ。
しかし…。
「コイツいったい何なんだよ。」




