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「なあ、本当にコイツ連れて町に入るのか?リーダー。」
ラケルタがぼやく。
明日の昼のには町に戻れる距離、最後の野営で焚き火を囲んでいる。
食事が終わり最後に残った茶葉を処分している所だ。
ラケルタから、もう何度も聞いている言葉なのでため息を付く。
いや、毎日だ。
「コイツが南に進めば何処かで人に遭遇する筈だ。遭遇した人と戦闘になったら目もあてられない。」
「いや…。そうだけどさ…。」
「ここらでは珍しい、友好的な魔物なんじゃい。南の方には多いと聞いたぞい。」
「そうね…。南の方は、そういう神話が多いわ。」
森の妖精族の魔法使い、エカトがお茶を飲みながら話す。
「御伽噺じゃないか。コイツなんの為に南に向かってるのか言わないんだろ?」
「言わない訳じゃないわ。何言ってるかわかんないだけ…。」
全員が、ちらりと振り返る。
謎の人型の生物が。
地面の草や虫を観察している。
おかしな行動ばかり取るので…。正直見ていると疲れる。
いきなり、道で寝そべって幅を計ったりするのだ。
「ゲズウ、コイツと戦って勝てそうな冒険者ってどれ位だ?」
「タキトゥス…。そうじゃな、オーガを一撃で切り裂く剣と鉄の盾を持って10人で掛かれば倒せるのでは?半分は死ぬが。」
そんな名剣、伝説の剣クラスだ。
「ゲズウ…。止めてくれよ、やっぱりヤバイ魔物じゃないか。」
「オーガの一撃でも無傷なんじゃい。しかも目にも止まらぬ速さで木々を飛びぬけるんじゃい。騎士でも倒せんぞい?」
毛布を敷き、寝そべったまま、焚き火に枝を放り込む小人族のゲズウ。
彼は冒険者として長い間、色々な町を見てきたそうだ。
「いや…。そんな事は…、そうだな。町の冒険者でも勝てそうなのは居ないな。」
「ねえ、冒険者に登録させたら?南の方では亜人も登録してるから…。」
「でも、コイツ。人ですらないぜ?」
「種族名がわからんと…。登録させてくれるか解らんぞい?」
トラブルに成りそうなのは見えている。
「冒険者ギルドと話をしよう。そして登録させよう。」
そうすりゃ冒険者だ、トラブルは自己解決の世界だ。
「コイツ、金もってんのか?」
「うーん、通貨の概念は知ってるみたい。薬草を採取してる時に、誰かに売るのか、何に使うのか聞いてきたわ。」
「…。何て答えた?」
「薬に加工して売るって言ったら、何と交換か?物か?札?って聞いてきた。金貨と銀貨、銅貨を直ぐに覚えたわ。」
何故、魔物が通貨を知っているんだ?
「なあ、コイツ本当に頭が良いのかな?」
「さあなあ。少なくとも汎人程度の知能はあるのだろ?」
「そうね…。多分。」
「話して解るのなら…。町の冒険者ギルドに連れて行こう。金は立て替えよう。アレだけ貴重な魔物の革を貰ったんだ。」
「タキトゥス、今回は大儲けじゃい、少々経費が掛かっても文句は言わんぞい?」
今回はエカトの薬草採取の序にギルドで偵察任務を取っておいた。
簡単な地図と、討伐した魔物や見つけた珍しい物を報告すればOKの任務だ。
地図作成の為、斥候役のラケルタを今回雇ったのだ。
ゲズウは元々、樵と猟師の兼業で。
冬に使う自分の拠点の見回りがしたいから急遽参加になり。
エカトとギルドの偵察任務の報酬で経費を精算して取った獲物は山分け。
採取と偵察が目的で積極的に魔物も狩らない。
危険は無いが、ソレほど儲かる仕事でも無いハズだった。
「リーダーに任せる、でも町の中に入れたら大騒ぎだぞ?魔物にしか見えない。第一コイツ喋れないだろ?」
「そうだな…事情を説明しよう。解ってもらえるか解らんが、エカト通訳を頼む。」
「解ったわ。」
この不思議な魔物は理解した様子だ。
本当かどうか解らない。
一晩明かして。
朝に成ったら銀色の人型にエカトが再度、説明する。
「町は人しか入れないし、入るのにお金が要るの、冒険者に登録した人は安いのよ?」
身振り手振りで答える銀色の不定形。
何か考えた仕種をしたかと思うと形が全身鎧の姿に変わった。
銀ピカだ。
「なんじゃい、こりゃ。」
「おい、こんな鎧みたことないぞ?」
御伽噺でも出てこない様な騎士の鎧だ。
「え?人に変身できないから、おかしく無い姿になった?」
「返って目立つだろ!こんな鎧は領主でも持てない。」
「南の方の騎士はこんな感じじゃぞい?」
「そうね…。何とか町の門を通れるんじゃない?」
「そうか。」
とりあえず町に向かった。
「よお、久しぶりだな…。遠征無事に終わったのか?」
町の門番の衛士は酒場で顔なじみの男だった。
町民で自警団を構成されているで、知り合いなら話が早い。
冒険者証を見せるが確認だけだ。
初めての村や町に入るときは特徴の書かれた裏面との照合があり時間が掛かる。
「コイツはだれだ?すげぇ鎧だな。」
「ソイツは、冒険者にコレから登録するヤツだ。北から来たが冒険者にも商人にも登録してないそうだ。」
嘘は言っていない。
「へー。どっから来た?」
「この子、言葉が解らなくて喋れないの。字もこの国の物じゃないのよ。」
「へ?コイツ字書けるの?」
驚く衛士、俺も難しい文字は書けない。
「書けるぞい。しかし、この国の文字は知らん様子じゃい、コイツの書く字も読めんがな。」
笑うガズウ。
同じく笑う仕種をする全身鎧。
「他の国から来たのか?」
「たぶんなぁ。」
ラケルタが何か言いたそうな顔で答える。
俺も頭が痛くなってきた。
「何処から来たのかが、まったくわからん。南?に行くそうだ。ココで登録させたほうが面倒が少ない。入門料は俺達が払う。」
銭を渡す。
「おう、それなら問題ないさ。ようこそ、この町へ。」
衛士が挨拶すると、謎の踊りを始める全身鎧。
「ハハハハハハ。」
笑う衛士に、手を振って門を通過する
「リーダー、なんか疲れた。いや、気分的な話だ。」
ラケルタが溜息混じりだ。
俺も同じ気分だ。
「そうだな、今日は早く仕事を片付けて解散しよう。」
「おいおい、未だ清算がおわっていないぞい?この大蛇の革が幾らで売れるか楽しみじゃい。」
「そりゃそうだが…。って。おい。伸びてるぞ!」
ラケルタが気が付いて指摘する。
振り向くと、銀色の鎧が縦に伸びて馬車の方に頭が傾いている。
一瞬で元に戻った。
「ギルド登録するまで大人しくしろ。」
ラケルタが叱ると頭を下げる全身鎧。
何故か疲れが溜まる足を引きずりギルドに付いた。
空いているテーブルの一つを占領する。
「依頼完了の手続きをしてくる。」
「ああ、椅子は暖めて置いてやるぜ?早く済ませてくれ。」
「おう、たのんだぞい。あまり遅いと祝杯が逃げてしまうぞい。」
笑う男達。
もう祝杯を上げる気だ。
事前の話し合いで、各自が持っている大蛇の皮、1枚は個人の取り分で。
残りの魔物はギルドに売って均等分配する事で話は決まっている。
「付いて来い。」
「さあ、いくわ。」
全身鎧を連れてカウンターに向かう。
「こんにちは。今日は何の御用でしょうか?」
「任務達成の手続きだ。あと、新人の冒険者登録をお願いしたい。」
任務が書かれた木片を出す。
それと調査した結果の簡単な地図だ。
「はい、森の調査の任務ですね。何か珍しい魔物は居ましたか?」
「はい、未知の魔物が出ました。」
「ソレは凄いです、どんな魔物ですか?」
期待の顔のギルド員、身を乗り出している。
「彼です。」
何となく頭痛を覚えるが…。
後ろの全身鎧を示す。
「はあ?」
驚くギルド員にエカトが話す。
「わたしは、賢者の学校に通っていましたが図鑑にも、話にも聞いたことも無い魔物です。」
何時もの踊りを始める全身鎧。
「魔物なのですか?」
続けるエカト。
「魔物かどうかも不明です…。知能は高いらしく未知の文字を何種類か知っています。しかし我々の文字は知らない様子です。」
「う、動く鎧なのでは?」
「いや…。あの、鎧に化けているダケで形は決まっていない様子です。肉食でも無い様子で…。」
思わず答えが、しどろもどろに成る。
「危険な魔物なのでは?」
尋ねるギルド員にエカトが毅然とした声で返す。
「人に対して敵意は無く、言葉も話せないのですが。計算は出来る様子です。」
「はあ?」
「南に向かっている様子なので。ギルド登録させておけばこの先の要らないトラブルの解決も出来ると思って連れて来ました。」
「え?、しかし。」
俺を見るギルド員、困惑した顔だ。
「入門料の割引の話をしたら理解したので問題は無いかと…。」
思わず語尾が掠れる。
「しかし、申請書は本人が書かないと受理できません。登録費用はどうされますか?」
「数日で文字を理解した様子です。と言うか対応表を自分で書いてました。費用は…。」
エカトが俺を見る。
「一応、今回の臨時メンバーと言う事でチームの経費から出す心算です。」
ゲズウもラケルタも了承している。
と言うか、高そうな獲物は全てコイツが単独で獲ってきた。
正直、コイツが居ると頭が痛くなる。
報酬を分割して手切れ金にしたほうが…。
「え?はい、では書いて貰いますが。」
「おねがいします。」
用紙を取り出すギルド員。
「ココに名前と、出身地、種族名を…。」
用紙を示し何時もの説明を始める…。
そういえば俺も昔、書いたな。
もう忘れたが…。
用紙を受け取った全身鎧は、差し出された羽ペンを受け取らず。
インク壷に指を刺し。
ヘルムのバイザースリットに用紙を突っ込んだ。
全身鎧の胴の鎧の合わせ目から用紙が出てくる。
出て来た用紙を眺めた後に、ギルド員に渡した。
記入済みの様子だ。
どうやって書いたんだ?
用紙を読み上げるギルド員。
「…。アラギ?」
頷く全身鎧。
「アラギ…。」
驚いたエカトが呟くと頷き返す。
コイツ、自分の名前が有ったのか…。
「エカト、何か意味のある言葉なのか?」
「いえ…。南のほうの古い言葉で変化とか状態が変わるコトを指す単語よ。」
「確かにコイツは不定形だが…。」
「あの…。特徴はどうすれば?」
ギルドカードの裏に記入する、個人の特徴を書くのはギルド員の仕事だ。
普通は目や髪の色、等の解り易い外観的な特徴を書く。
とりあえず答える。
「色は変わらないが…。どんな姿にも成れる。声は出せない様子だ。」
後は…。特に無いな。
「魔法のような物を使います。」
「いえ…そういう意味でなく…。」
確かに答えに困る。
悩んだ末に何かを書き込む職員。
時間が掛かりそうだ。
「あの、後は魔物の部材と魔石を売りたいのですが。」
「はい、解りました。買取窓口へどうぞ。」
「エカト、すまないが行ってくれ。コイツは俺が見ている。」
魔石の入った巾着を渡す。
窓口に向かうエカト。
買取窓口で獲った獲物の販売を仲介してくれる。
無論手数料は割高だがチームに公平に分配してくれるのでトラブルは少ない。
値段が決まって無く、直ぐに売れるものでない物も仲介してくれる。
何時売れるか解らないが、売れたら割符を発行して、ギルドで受け取れる。
そのまま蓄えても良いが、現金に換えても良い。
その為、ギルドで直ぐに現金に換えられる物は大体、決まっている。
常時売れる物だ、買い取り金額も固定だ。
魔石は大概、買取値段が高く、持ち運びが良い。
皮や肉は嵩張る割りに買い取り金額は安い。
珍しい魔物の皮は革商人やなめし屋工房が買い取ってくれる、ソコに持ち込めば良いが…。
商人には足元を見られるのが常だ。
まあ、ゲズウなら顔が効くと思うが…。ソレもトラブルの元になりそうだ。
ゲズウの見立てでは、大蛇の皮は高く売れる。
恐らくゲズウは皮を馴染みの商人に売るのだろう。
ギルド員が銅版に文字を彫りこんでいる。
「終わったわ、魔石の金額は出たけど。やっぱり皮とカトブレパスの値段が解らないって。」
人数分の割符を受け取る。
名前入りだが金額は書いていない。
「競売か?」
「多分…。」
そうか…。いや、エカトが得意そうな顔だ。
ココは尋ねる方が良いか?
「収納の魔法は成功したのか?」
「もちろん。」
得意そうな笑顔で彼女は答えた。
(´・ω・`)だがしかし母親より年上だ。




