その瞳に映るもの
「私にこの症状が現れたのは小学校の時だったんだ。
いま私の幼稚園の姿を想像したでしょ。
えっ?心の声を聴かなくてもわかるよ、顔がにやけてるもん、山倉君。
教室で給食費がなくなる事件が起きてさ、私が犯人にされそうになったんだよね。
私の家は転勤族でさ、その小学校に来たのも給食費がなくなった日の少し前でね、今までそんなことなかったからこれは最近来たあいつのせいだって、ひどいよね子供って。
うん、大丈夫だったよ。優しいね、本気で心配してくれて嬉しいよ。君みたいな人が近くにいたら、こんな思いしなくて済んだのかな。」
しゃべる暇がない、いやしゃべる必要がないといったほうが正しいだろう。
彼女はさっきから完全に俺の思考を読んでいる。
数分前まで、俺の前にいた天使は今恐怖の対象でしかない。
俺がそう感じていることももはやお見通しなのだろう。彼女にはもはや遠慮などない。
「その時だよ、私みんなの声が聞こえたんだ。もちろん、声帯から出た声じゃないよ。ここから出てる声だよ。」
彼女はそう言って頭を指さした。
「うん、そうだよ。私はそれのおかげで犯人が分かったし、みんなの考えていることがわかるおかげで、教室でどうやって立ち回って行けばいいのかがわかったんだ。そこからずっとその症状は続いてさ、私はこの病気を有効活用して生きてきたんだ。まさに別れるときに言ったことのようなことをね。
そんな馬鹿な、なんて悲しいこと言わないでよ。でもさ、山倉君、君は私のこと品行方正でやさしい女の子だと思っちゃってたわけだからさ、騙されてた馬鹿はそっちだよ。これがほんとの私、わかった?山倉君?」
なぜだろうか?ここまで言われているのに、俺の中に悔しさだと怒りだとかがこみあげてこない。
彼女の言葉には重みが、中身がないように感じてしまう。
これは俺は渡の言ったことのおかげで、そのことに整理がついているからでもあるだろう。
さて、いくか。
「もうやめよう、中井さん、建前を言うのは。」
彼女がひるむ。
こっから先は俺のターンだ。




