中井瞳
人間ではない。
彼女はそう言った。しかし、俺はそのことにそこまで驚くはずがなかった。彼女の心は読めない。それだけで十分俺の中では超上じみているからだ。
だがそれは前の俺だったらの話だ。俺は一度彼女に自身がユーマだと嘘ぶかれている。嘘の嘘は真実だが、それに嘘が続いてもおかしくはない。嘘の嘘の嘘は結局、嘘だ。
「信じてくれないんだ。一度は愛し合った仲なのにね。嘘かどうかなんて最初はどうでもいいっていってたじゃん、あいだみつを風に。」
俺は驚きを隠せなかった。彼女に愛し合ったなどといわれたことにではない(ほんとは超うれしかった)、俺が口にしていない言葉、そう俺が心の中で思っていたことを知っていたのだ。
開いた口が塞がらない俺に対して彼女も口を閉じることはなく、
「山倉君はさ、最初から私のこと気になってたよね。容姿端麗な美少女で、俺が彼女の支えになるんだ、みたいなもてない男が抱くテンプレ青春ストーリー描いてさ。なかなか聞いてて面白かったよ。滑稽といったほうが正しいかったのかな。まあ、そこからは毎日私のことばかり考えてたよね。そのくせ、全然話しかけてはこなかったけど。」
俺はまた驚いた。彼女とても雄弁なことに、さらに初日俺に面白いねといった背景に。
流石の俺もそこまで馬鹿ではない。
彼女に尋ねることは決まっている。いや、尋ねる必要はないのかもしれない。
俺は彼女の言動の確実性を保証する術を持っていない。
だが、今はそれが問題なのではないのだ。彼女の口から聞きたいのだ。
「君は俺と同じ境遇なんだね?聞こえるんだ、人の気持ちが。」
「そうだよ、君と同じ、いやそれ以上の存在だよ。」
ここから先も彼女のターンだ。




