油断は大敵
「山倉、おい、山倉っ!」
「はい!」
しまった、俺としたことが。全く先生の話を聞いていなかった。
「お前いつもボーっとしてるよな、だから成績も下から数えたほうが早いんじゃないのか?」
な、なんて失礼な。
反応が悪かったくらいで、俺の成績の悪さをクラスの皆さんにお教えするなんて。
俺の学校では、テストの結果は貼りださずに個票で分かるようになっている。
現代はプライバシーを守る、個人情報保護が重視される。
その波が、この学校にも押しよせたのだ。
その結果としてこのような措置が取られている。
まったく、面倒くさい時代だ。
まあそのおかげで、成績の悪さが露呈することを避けれているので、一概に悪いともいえないのだ(友達いないから個票見せることもないし、、、)。
にも関わらず、竹刀を持ちジャージを着ている時代に乗り遅れた憐れな教師は、成績というプライバシーを侵しやがった。
許すまじ。
ハリ千本でも生ぬるいわ。
クスッ。
俺の横から聞こえた可愛い笑い声が漏れた。
俺が横を見ると、中井さんがほほえんでいた、というか笑っていた。
「山倉君やっぱり面白いね」
なっ、なっ、なんて可愛い笑顔やねん。
悶え死にそうになるわ。
先生、許します。
いや、むしろありがとうな。
ハリセンボンとか言って悪かったな。
言ってはないけど。
まあ、それは嘘ついた時の罰やしな。
冗談やし、かんにんしてな。
喜びのあまり、なまじ関西弁を使っちゃう愚かな俺は、心の声が聞こえなかった件を忘れていた。
単純な男なのだ。
だが仕方ないと思ってくれると嬉しい。
恋は盲目なのだから。
と、格好いいようなことを思っていると、
「何でにやけてるんだ、山倉。気持ち悪いぞ」
てめー、人が許してやったのに新たな火種を生み出しやがって。
二度と喋れないように舌を引っこ抜いてやろうか。
クスッ。
うん、わかってたよ。
キミなら、包容力抜群のキミならそんな事笑ってくれるって。
ちゃんと自分の発言を撤回する準備もできてるよ。
舌を引っこ抜かれるのは、虚言で人を惑わせたやつだから、俺がキモいのは事実だから仕方ないよな。許すよ、っておいおい。
完璧だ。
でもなぜだろう。
前の方から聞こえた気がするな。
一番前の席の、渡って子から。




