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澄渡空の話を聞いてあげよう

「『蒐集家』とやってみないか?紅糸?」

あの公園での邂逅から数日後……どうやって僕のマンションの部屋を探り当てたか知らないけれど、ベランダから不法侵入してきた澄渡空は紅糸さんを見つけると開口一番にそんなことを言った。

夕飯時であったのにも関わらず、その言葉に食事の手が止まってしまい、開いた口が塞がらなくなってしまった僕。

ひまわりも同じようだ。唖然というか呆然というか、そんな感じ。

ただ一人紅糸さんだけは違った。

一人黙々とご飯を食べていた。

それは神経が図太いとか、そういうわけじゃなく、ただ単に無知なだけであった。

僕とひまわりは知っているのである。

『蒐集家』というのは世界脅威であると。

世界が全ての力を持ってしても対応できない人的災厄。世界脅威。

『蒐集家』がその一つであることを僕とひまわりは知っていたから、その澄渡空の言葉に開いた口が塞がらなくなってしまったのである。

しかし紅糸さんは違う。

紅糸さんは知らないのだ。

世界脅威を。

いや、正確には数日前に僕とひまわりによってそういう存在がいるということは知ったのだけど、その詳細までは口にしていない。

『蒐集家』と聞いても紅糸さんにとっては何が何だかなのである。

故に食事を続ける。黙々と続ける。

ガツガツという効果音が聞こえるような錯覚に陥るぐらい黙々と食べる。

『アキラ』の金田ばりの食べっぷりであった。

気持ちのいい食べっぷりであることは認めるけれど、女の子の食べ方としてはどうだろうか?

「ミナギン。それは『女の子』という生き物に幻想を抱いているだけだぞ」

「あれ?僕、今声に出していた?」

「いや、出していない。心の声を読んだだけだ」

「まさか万能具現化能力は人の心を読むモノも具現化できるとは!」

「うな。勿論冗談だぞ」

「冗談ですか!その割にピンポイントで返答してきたけど!」

「心は読んでいない。表情を読んだ。表情を読んで大体ミナギンはこんなこと考えているんじゃないかと推測し、返答した」

「僕ってそんなに思っていることが顔に出やすいのかな?」

「うな。丸わかりだぞ。ちなみにさっきはきっと『FF5の主人公バッツみたいに、ハーレムなパーティーを作りたい』、と考えていたのだろう?」

「考えてないよ!全く考えてないよ!」

奇跡的に話がかみ合っただけだった。

というか、僕は紅糸さんにどんな奴だと思われているんだ?

「まあ、若干もう到達しつつあるっぽいけどな」

「馬鹿な!そんなことは全くない!」

「現状を把握しろ。私とひまわりが一緒に暮らしているではないか」

「な、なんと!」

「あと一人だ。おそらく足りないのはクルル的なポジションのロリキャラだな。よし!適当にさらってこい、ミナギン」

「僕を犯罪者にする気か!?」

「ちなみに私はか弱いからレナ的な立ち位置だな」

「どこがだ!」

と、ここでひまわりが会話に入り込んだ。

「あ、それじゃあ私はファリスですね」

「どの口がそれを言う!?正反対だろ!ひまわりの性格と正反対だろ!向こう海賊のお頭で滅茶苦茶アグレッシブだよ!」

全く、いつまで僕につっこみをさせる気だ?

永遠か?永遠に僕はつっこみをしなければならない運命なのだろうか?

……この組み合わせだと永遠につっこみをしなければならないような気がした。

「うん?あれ?でもその『FF5の主人公バッツみたいに、ハーレムなパーティーを作りたい』だとその後の紅糸さんの返しはおかしくないかな?」

『FF5の主人公バッツみたいに、ハーレムなパーティーを作りたい』という僕の架空の考えに対して、紅糸さんの返答は「それは『女の子』という生き物に幻想を抱いているだけだぞ」というものであった。

この返答だと、会話がかみ合っていない。いや、実際言葉に出しているわけではないのだから、会話ではないのだけれど。

「あぁ、実はその返しには続きがあってな。『FF5の主人公バッツみたいに、ハーレムなパーティーを作りたい。でも自分の理想の女性はビアンカだからなぁ。あぁ。どこかに優しい年上の幼なじみが落ちていないかなぁ』と続くわけだ。バカめ!そんな奴いるわけがないだろうが!」

「ビアンカに憧れるのはわかりますけどね」

「……本当に、君たちは僕のことをどういう目で見ているんだ?」

僕は紅糸さんやひまわりと違いそこまでいつもFFやドラクエのことを考えている人間ではない。

まあ、ビアンカは好きだけど。

「でも私はビアンカよりもフローラのほうが好きですけどね。あの優しく穏やかな感じがツボです」

この何気ないひまわりの発言がいけなかった。

そう、紅糸さんの心に火をつけてしまったのだ。

紅糸さんはここでようやく箸をテーブルに置き、そして臨戦態勢に入った。

もちろん、臨戦態勢とはドラクエ談義の臨戦態勢である。

「貴様、ビアンカを捨てるというのか!一緒にベビーパンサーの為に夜のお城に行ったというのに、そのビアンカを捨てるというのか!?貴様の血の色は何色だ!」

「お言葉ですが、紅糸さん。主人公はもともとはフローラと結婚するために指輪を集めることにしたんですよ。それなのに、昔の幼なじみの登場でそっちと結婚するだなんて、それこそフローラのことを捨てていることになりませんか?」

「そんなこと言いながら、お前フローラの回復魔法に惹かれた人間だろう!?確かにフローラは攻守バランスがとれていて、しかも父親が道中宝箱を用意してくれているという、滅茶苦茶ゲーマーに優しいキャラだけどな!それでも思い出を選ぶのが人間として正しいだろう!」

いや、ゲームの嫁選びで人間性を問われても……

所詮ゲームでしょ?とは口が裂けてもいえない。その一言はこの場において、一番言ってはならない禁句である。

「私はそんな理由でフローラを選んだわけじゃありません!ただ人見知りの私にはビアンカのようなちょっと強気な人が苦手なだけです!」

「ゲーム内のキャラにも人見知りを!?」

ひまわりの人見知りは僕らの一歩上を行っていた。一歩どころか二、三歩は上を行っているかもしれない。

「うー!うなっ!ミナギン!」

「観凪さん!」

突然、紅糸さんとひまわりがこちらを向いた。

しかも凄い形相で。

こ、怖い!

おかしい。両方ともかなり可愛い女の子だというのに、どうして僕はこんなにも恐怖を感じているのだろうか?

これはきっと、選択を間違えた場合僕の命は無いだろう。

と言うのは流石に言いすぎだろうか?

ともかく、ビアンカとフローラか……

どちらでもいいのだけど、どちらかというと紅糸さんに逆らうと大変な目に遭うだろうから、ここはひまわりには悪いが紅糸さんに賛同することにしよう。

「僕としてはビ……」

『ビ』という音を出した瞬間だった。

ひまわりからあり得ないほどの殺気が僕に向けられた。

それはひわまりが黄虎と名乗っていたとき、僕と対峙した際に感じたもの以上のものであった。

本気だ!

ひまわりは本気だ!

僕が『ビアンカ』と発音したが最後、おそらく『雷華』の能力によって僕を亡きものにする気だ!

えぇ~!ここ、そんなに重要な選択だったの!

仕方がない。

命には代えられない。

僕はあわてて発言を撤回して『フローラ』と言うことにした。

「い、いや。フ……」

『フ』と声を発した正にその時だった。

紅糸さんからあり得ないほどの殺気が僕に向けられた。

それは紅糸さんが僕に『世界征服を手伝ってほしい』と頼んだ日、僕がそのことを識桜に喋ろうとしたときに発した脅迫の気以上のものであった。

本気だ!

紅糸さんはは本気だ!

僕が『フローラ』という言葉を発したが最後、きっと『でっかいパンチ』を使い僕を抹殺する気だ。

まさかこれが命に関わる選択だったなんて……

………………………………………………………………………………って僕どちらを選んでも無事じゃ済まないじゃないか!!

バカな!

たかがゲームのキャラのどちらが好きかという問いに答えるだけだというのに、なぜこのような修羅場に!

「ミナギン!ビアンカだよな!」

「観凪さん!フローラですよね!」

「あうあう……」

そうか。僕は今までドラクエⅤの主人公のことを、二人の

美女から花嫁を選択できるなんて羨ましい奴、都下思っていたが、それは大きな間違いだった。

あれは修羅場だったのだ。

あぁ、わかりたくなかった。

そんな修羅場などわかりたくなかった。

「ミナギン!」

「観凪さん!」

「どっちが!」

「好きなんですか!」

どっち、どっち、どっち?

ビアンカか?フローラか?

どっちを選んでも地獄なのは間違いない。

間違いないのにどちらかを選ばなければならないなんて神様はなんて残酷なんだ。

何かないのだろうか?

この状況を打破できる選択。

ビアンカでもフローラでもない第三の選択……

第三の……ん。

あった!第三の選択!

もう。これしかない!

「で、で、デボラ!」

「……」

「……」

そしてその後のことは、語りたくはない。


「壮絶な無視をありがとう。それじゃあもう一度訊くぜ。『蒐集家』とやってみないか?紅糸?」

長い間無視されていた澄渡空はもう一度それを紅糸さんに訊ねた。

その質問に対して紅糸さんは……

「がつがつがつ」

まだ黙々とご飯を食べていた。

僕への粛正が終わった紅糸さんは再び食事に戻ったのだ。

「なあ?訊いているのかよ、紅糸?『蒐集家』と戦ってみないかと訊いているんだ。答えろよ」

「がつがつ」

「なあってば!」

「うるさい!今食事中だろうが!」

「食事中なのはわかるがよぉ、それでも話を聞いて答えるぐらいはできるだろうよ」

「お前農家の人をなめているのか?私たちがこうして生きていけるのは誰のおかげだ!全く、今の若者は食べ物を敬うということを知らなくいかんな!」

「いや、俺って結構貧困に苦しんでいる国とかも行っているから、食べ物に対しての気持ちはそこら辺の若者とは比べものにならないと思うぜ。……ってそんなことはどうでもいいつーの。イエスか、ノーかぐらいは答えてもいいじゃねえか」

しつこく食い下がる澄渡空。

どのような理由があり、紅糸さんを『蒐集家』と戦わせたいのかはわからないが、必死な様子だけはうかがえた。

その必死な澄渡空に、紅糸さんは箸を置いて言った。

「ノーだ」

惚れ惚れするぐらいの一刀両断で、その申し出を断った。

そして置いた箸を持って、また食事を開始した。

「うぉーい!何でだよ!?紅糸ぉ!?お前世界征服したいんだろ!名前を売りたいんだろ!名を広めるために一番手っとり早い手段は強い奴を倒すことだろうが!」

「何だ?その『コレクター』っていう奴は強い奴だったのか?」

「お前、『蒐集家』を知らないのか!?それでよく世界征服を目指すなんて大それたことを口にできたな!」

「うっさい!知らなくて悪いか!ミナギンやひまわりだってそんなこと知るか!」

僕らに『蒐集家』について知っているか確かめてもいないのに、紅糸さんは勝手にそう断言した。

何で勝手にそう断言してしまうかなぁ。

紅糸さんには悪いが、ここは仲間外れになってもらおう。

「僕は知っているよ。会ったことはないけれど、有名だからね。『蒐集家』は」

「うなっ!?」

「私も知ってますよ。『蒐集家』。これでも元『正義』ですからね」

「うななっ!?」

「なぁ。普通知ってるよなぁ?『蒐集家』。紅糸、本当に知らないんだなぁ」

澄渡空は紅糸さんに憐憫の眼差しを向けた。

若干バカにしているようにも僕には見えた。

「何だ!?そんなに有名なのか?『蒐集家』ってやつは!何なんだ!そいつ何なんだ!ミナギン教えろ!」

「えぇ~。僕がぁ?」

「お前以外にミナギンがいるか!」

「いないけれどさ、僕よりも適任がいるでしょ?元『正義』の二人がさ」

と、僕はひまわりと澄渡空に視線を向けた。

ひまわりと視線があうと、ひまわりはにこりと笑みを浮かべて、

「私は説明するのが苦手です」

と穏やかながらも拒否してきた。

仕方がないので澄渡空と視線を合わせたが、

「めんどい。観凪とかいうやつ、『蒐集家』の説明ができるならしろよ。俺らのこと適任とか何とか言っているがよ、『蒐集家』の名を知っているなら、世界脅威の『蒐集家』の名を知っているなら、そいつの説明はだいたい決まっているだろうが。それなら誰がやっても同じだ。つーわけでやれ」

「何で僕、あなたに命令されているのさ」

「あなたっていうのは他人行儀だな。空でいいよ。こっちもお前のこと観凪って呼ぶから」

「それはどうも。でも質問には答えてくれないんだね。そしてこの流れは有無も言わさず僕が『蒐集家』について説明することが決定している流れなんだね」

結局、この場で一番立場の弱い僕が『蒐集家』について説明することになった。

おかしい。

この場は僕の部屋であり、普通なら立場的に僕が一番偉いように思えるのだけれど、どういうわけかそれが逆だなんて……

何がどうなってこうなってしまったのか……考えようとしたが気分が滅入るようなのでやめた。

さて、『蒐集家』の説明だ。

世界脅威……『蒐集家コレクター』。

四番目に観測された、いや四番目に世界に認証された世界脅威。

男女の二人組で、『世界の敵』と比べると人的災厄と認識されるほどには悪いことはしていない。

むしろたまに要人などの警護もし、害よりも役に立っているんじゃないかという印象を僕は受ける。

それでも世界脅威に認証されたのには二つの理由がある。

一つは彼らが大泥棒であるということ。

まるでルパン三世のように彼らは盗みを働く。盗みを働く前に、そのモノを所有している人物に対して『盗みますよ』って宣言することもあるらしい。まるっきりルパンである。

しかし彼らはお金のために泥棒家業をしているわけではない。

お金を稼ぐならば、彼らは要人警護などボディーガードを行う。

それならば彼らの目的とは何なのか?

紳具、宝具、魔具、妖刀、魔剣、聖剣、宝刀……等々。怪しい力を持つモノを集め、盗むのが彼らの目的である。

どうしてそのようなものを集めているのか?その理由については知られていない。おそらく彼らしか知らないだろう。

たまにとんでもないモノを盗んでしまう彼らだったけれど、しかしこの泥棒の面のみしか持っていない二人組であるのなら、おそらく世界脅威にはならなかった。

そう一つ目の理由なんておまけに過ぎないのだ。

あくまでも悪い面をあげてみたら、そんな面がありました、とその程度の理由であると捉えてもらってもかまわない。

彼らが世界脅威とされた二つ目の理由。本当の理由……。

それはひどく単純な理由であった。

単純に、彼らが強すぎただけなのだ。

世界脅威でも屈指の強者……否、世界脅威の中でも最強と謳われるほどの強者が、『蒐集家』なのである。

世界最強のため、大泥棒として働くときも変装などの下手な小細工など一切せず、正面突破でぶっちぎると言われている。

人的災厄と呼ばれるほど世界に影響は与えていない。しかし誰一人彼らを止めることができない。世界が彼らに対応することが出来ない。故に世界脅威、『蒐集家』なのだ。

「……というのが世界脅威である『蒐集家』の説明だよ」

と一通り紅糸さんに『蒐集家』についての説明を終えた。

「うな。『世界脅威』っていうのは前に説明を受けていたが、その中にまさか世界最強がいるなんて思ってもみなかったぞ。んで、その『蒐集家』っていうのはどれぐらい強いんだ?」

「それは僕にはわからないよ」

実際僕は彼らを見たこともないのだ。

噂程度の認識しかないのだ。

「ひまわりだったら知ってたりしないのか?」

「私も見たことはないですけれど、風雲さんが言うには私じゃ全く太刀打ち出来ないってぐらいの使い手らしいですよ」

「それって化け物レベルじゃないか!」

ひまわりが太刀打ちできないっていうのは僕には全く想像できない。

単身での肉弾戦ならば最強であると言っても過言ではないと、僕はひまわりに対して評価しているのだけれど、そのひまわりが太刀打ちできないなど、どんなドラゴンボールな戦闘が行われるというんだ?

というか、僕にとっては紅糸さんやひまわりが既に『世界脅威』レベルの使い手だと思うのだけど。

……そう考えると今この場にいる人物は、僕以外おそろしいほどの戦闘能力を有している人物ばかりだった。

僕は特殊な能力は持っているけれど、戦闘能力は低いから必然この空間で最弱は僕ということになる。

なるほど。僕の立場が弱いのにはそういう理由があったのか。

「ひまわり以上の使い手か。そいつと戦うなどこっちの身も持たないんじゃないか?」

と、紅糸さんが言う。

確かにその通りだ。

紅糸さんはひまわりに辛くも勝利したことがあるものの、あれは完全に不意打ちに近いものであった。

まともにやり合えば、ひまわりの実力は紅糸さん以上である。

そのひまわりが太刀打ちできないのなら、紅糸さんだって同じであろう。

「大丈夫だ。この間お前に殴られて判断した。お前なら充分やれる!」

「やれる、やれないの問題じゃない。さっきも言っただろ。やるつもりないって。もう誰かを倒して名を上げるという行為はやめたのだ」

「あぁ?『もう』って何だよ?まるで以前やったことがあるような物言いじゃねえか」

「うな。実際やったことがあるのだ。詳しくは語る気はないが、私はそれで必ずしも力を示す方法が力を示す者を倒すことではないと悟ったのだ。よって『蒐集家』が世界最強の力を有していようが、私はそいつを打破して名を上げようとは思わない」

「紅糸さん……」

何故だろう。紅糸さんの言っていることは至極普通のことのはずなのに、僕はその紅糸さんの発言に涙が出るほどの感動を覚えたんであった。

そうか。そうだよなぁ。

紅糸さんだって成長しているんだ。ひまわりとの戦いで紅糸さんは結局何も学ばなかったと、前回はそう思ったのだけれど、そうではなかった。

紅糸さんはちゃんと学んでいたんだ。ひまわり打破後、世界征服の活動がなかったのを紅糸さんはゲームソフトのためだと言っていたがそうではなかった。

……いや、その理由もあっただろうけれど、本音はきっと今言ったことなのだろう。

空には悪いけれど、ひまわりと戦ったときのような展開にはならないようなので僕は安心した。

「そういうわけで悪いな、空。お前がどういう理由で私とその『蒐集家』とを戦わせようとしているかはわからんが、やる気はない。だから帰れ。邪魔だ。目障りだ。今すぐそこのベランダから能力使わずに飛び降りろ」

「ひどいなぁ、紅糸は。まあ俺はサドでもマゾでもどっちでもいける口だから、その程度の罵倒は逆に嬉しかったりもするんだけどな」

「こいつ変態だ!」

僕の周りに集まってくるのは変な奴ばっかだった。

日頃の行いが悪いからこういうことになるのだろうか?

善行はちゃんと積んでいるつもりなのだけれど、まだ足りないのだろうか?本当、そこのところがどうなのか、神様仏様に問いたい気分である。

「んでもなぁ、紅糸。やっぱり名を売るためには、力をあるものを倒すのが一番だろう。しかも相手は一応悪者だ。今倒しておかないと、きっと世界征服した後に厄介な存在になると思うぜ」

「うなっ!悪者……厄介な存在に」

うん?あれ?

今さっきまで断固たる決意を持っていた紅糸さんの意志が揺らいでいるように思える。

ちょ、ちょっと待ってほしい。ここは本当に待ってほしい。

流石に世界最強とは僕は関わり合いを持ちたくはないよ!

紅糸さん!頼む!

鉄のような固い意志で空の要望を断ってくれ。

「う、うな!し、しかしいくら悪者でも、いくら厄介な存在になろうとも、私は誰にでも優しい世界を目指しているんだ!悪者だって例外じゃない!誰かが傷つく世界なんて間違っているんだ!」

「でも『蒐集家』自体も、『世界脅威』という肩書きは鬱陶しく思っているんじゃねえか?世界から目を付けられるなんて、普通厄介なものだろ?だから逆に倒してやった方がいいんじゃねえかと俺は考えるね」

空のその考えは適当にも程があるだろう。

『蒐集家』のことは噂程度でしか僕は知らないのだけど、しかし倒されて喜ぶようなマゾヒストではないと思う。

そんな適当な空の意見に左右される人間がいるわけがない。

「うな。そうか倒してやった方がそいつの身のためか。じゃあぶっ倒すか。『蒐集家』を」

「いとも簡単に左右された!」

ここにいた。

空の適当な意見に左右される人間がここにいた。

「あ、紅糸さん!いくら何でも心変わりが早すぎるよ!さっきの強者を打破しての売名行為をやめる発言はどこに行ったのさ!」

「うな。落ち着けミナギン」

「これが落ち着いていられるか!」

この流れはまずい。

この流れはきっと僕にもかなりのとばっちりが飛んでくるパターンである。

ここは何としても阻止し、僕は今までとは違うということを示さなければならない。

「ミナギン。おそらく、『蒐集家』はバイキンマンのような必要悪と私は考える」

「バイキンマン?必要悪?」

「ミナギン。何故バイキンマンは悪事を働くと思う?」

「え?そりゃ、自分のわがままのためでしょう?だいたいいつもそれで彼は動いているような気がするけれど」

「そう。バイキンマンは一見自分の利の為に動いている、ように見せている。だが、それは実は表面的な面でしかないのだ。実は彼は自分の為ではなく他人のため、世界のために悪事をしていると私は考えるのだ」

「いや、彼が世界のためを思って悪事をしているシーンを僕は知らないのだけれど」

「シーンのことを言っているのではない。本質の話をしているのだ。いいか。あの世界はとても平和な世界だ。争いはほとんど起こらず、みんなが仲良く暮らしている。それは何故か?答えはバイキンマンという共通の悪者がいるからだ。バイキンマンという共通の悪者がいるから、彼らは隣人と喧嘩せず、友人といつまでも仲良くでき、平和な世界が築けているのだ。決してアンパンマンがいるからではない。バイキンマンが自らを不満や憎悪のはけ口になっているからなのだ。むしろアンパンマンなんてカレーパンあたりで代替可能だ。しかし、バイキンマンは何者にも代えられない。バイキンマンとは唯一無二の、平和に必要な悪者なのだ」

「子供向けのアニメについてそこまで深く考えたくなかったよ!」

「私は『蒐集家』とバイキンマンをイコールだと考える。おそらく彼らは世界のために悪者を演じているんだ。しかし!演じているとはいえ、悪者は倒されなければならない!それは平和な世界を維持するために必要なことなんだ!よって私がバイキンマンを退治してやろう!」

「相手はバイキンマンじゃないよ!」

バイキンマンどころか世界最強の強者なのだ。

アンパンマンみたいにアンパンチ一発で倒せると思ったら大きな間違いなのである。

紅糸さんにはその辺の危機感をもう少し持ってもらわないと困る。

「大体何で空は紅糸さんに『蒐集家』と戦うように薦めるのさ?」

「なぁに、紅糸の売名行為に一役かってやろうと考えただけだ」

「それは表面的に用意した回答でしょ?そうじゃないことぐらい、付き合いの浅い僕にだって看破できるよ。本当の理由は何なのさ?」

「ほう。わかるもんか」

「僕は一時期、人心の把握のみをやらされてたことがあるからね。下手な嘘や演技は僕には通用しない。空は他人のために動く人間ではないよ。全て自分の利のために動く人間だ。そしてそのためならば、どんな困難や犠牲も厭わない。違うかな?」

「いや、その通りだ。おそろしいまでに当たってやがる。しかし、そこまで行くと能力の類とも言えるほどのレベルだな。恐れ入ったぜ」

「……」

そう、本当に恐れ入る特技だ。

他人を知ること。必要以上に、不必要なまでに他人を理解すること。

その先に彼らが何を見たのか、知ることを特化した僕でさえそんなことは知りたくなかった。そんな醜悪なことを知りたくはなかったのである。

まあ過去のことはさておこう。

今は目先の問題である。

「それで?それなら空が紅糸さんを『蒐集家』と戦わせようとする本当の理由はなんなのさ?」

「まあ隠すものでもなかったんだがな。しかし、紅糸は俺の利を少しでも見せたら有無も言わさず断りそうだから、ちょっとその辺は伏せさせてもらったんだが……本当の理由ね。それはひどく簡単だぜ。簡単すぎて、拍子抜けで、おまけにお前等には理解できないものだろうよ」

「うーなー!御託はいいから、さっさと言え!遠回しな物言いとか聞くとなんだかムカつくんだ!」

相変わらず短気で暴君な紅糸さんであった。

それに触発されてではないが、ついに空がその理由を語り始めた。

「俺が戦いたいから」

「……」

「……」

「……」

おそらく、空以外のこの場にいる三人の時間が止まった。

時間が止まっているのだから、何も動けず、何も喋ることができなかった。

「紅糸とひまわりは知っているだろう?俺が戦闘狂だってことは。観凪もこの間紅糸あたりにその辺を聞いていなかったか?」

まあ聞いていたには聞いていたけれど、空が自分の利にしか興味ないこともわかっていたけれど、そう認識した上でもやっぱり呆れてしまった。

なんとういうか……そう、本人も自分で言っているのだけど、おそろしく単純な奴であった。

単純すぎて逆に行動が読めない。

読みたくもない。

「ん?でも戦いたいのは空自身なんだよね?」

「あぁ、そうだな」

「だったら何で紅糸さんをわざわざ戦わせようとするのさ」

「『蒐集家』は二人組だからな。俺は腕に自信はあるが、流石に最強と言われる二人を相手に一人で立ち回るのは無理だ。そこで紅糸のほうに『蒐集家』の女の方を相手してもらい、俺は男の方と戦おうと考えたのさ」

「……碌でもないことを」

碌でもない上に傍迷惑な話であった。

しかし、空の本心がわかったのでおそらく紅糸さんは空の申し出を断ってくれるだろう。

はぁ、よかった、よかった。

今回は本当になんにもなく終わることができるようだ。

「私が女のほうを担当だな。あい、わかった」

「…………って、何故に空の申し出を受け入れているのさ!?紅糸さん!」

「何故にって、言っただろ。私はバイキンマンを倒すと」

「だから相手はバイキンマンじゃない!」

「あぁ。私が担当するのは女のほうだからドキンちゃんか?」

「そういう問題じゃなくって!えっと、ほら!空はただ単に紅糸さんを利用して世界最強になりたいだけなんだよ!紅糸さんだって利用されるのは好きじゃないだろ?」

「まあ、そうだが」

「それなら空の申し出を了承しないで断ってよ!僕は戦闘能力が高くないから、というか君たちから見れば紙屑同然なんだから、そう危ない人と戦闘をしようとしないでよね!」

「またまた。ミナギン、ご謙遜を」

「いつも言うけれど僕を不当に過大評価しないでもらいたい」

もう、これも毎回のように発言しているようだけどもう一度言わせてもらう。

君たちの過大評価で僕はあと何回命の危険を感じなければならないんだよ!

「確かに空の言うとおりに事が運ぶのは腹立つが、しかし、ミナギン。空の目的は『蒐集家』との戦い自体だが、私は違う」

「え?紅糸さんにも『蒐集家』と戦う理由があるの?」

それは初耳である。

いったい紅糸さんと『蒐集家』との間にどんな因縁があるのだろうか?

せめて、ひまわりと空の時の因縁はやめてもらいたいものだ。

あの時の脱力感はもう味わいたくない。

人生をどうでもよくさせるほどの脱力感であった。

「当然理由はある。私が理由もなく戦う愚者と思っているのか、ミナギン?」

「うん。割と」

「うな!今のは割と傷ついたな!」

「それでその理由っていうのは?」

「うな。というかさっきから私は言っているじゃないか。口が酸っぱくなるほど言っているじゃないか。バイキンマンは倒さなければならない、と」

「だからバイキンマンじゃないって言ってるだろ!口が酸っぱくなるほど言っているだろ!」

紅糸さんはまだ空に騙されたままだった!

いや、バイキンマンの件は紅糸さんのオリジナルだから正確には空に騙されているわけではないのだけど……しかし元はといえば空が「『蒐集家』自体も、『世界脅威』という肩書きは鬱陶しく思っている」とか手適当な発言がその紅糸さんオリジナルの考えに至っているのだから、空が悪いというのもあながち間違いではない。

「紅糸さん……空が言っていた、『蒐集家』自体も、『世界脅威』という肩書きは鬱陶しく思っている、という発言はたぶん嘘だよ」

「うな!嘘なのか!?」

『くわっ』という擬音がついてきそうな勢いで紅糸さんは空のほうを向いた。

「嘘じゃねえよ。ただ本当かどうかも俺にはわからんね」

「うなぁ!?どういうことだ!?お前が何を言いたいか私にはさっぱりわからんぞ!」

「だから、俺は自分の推測しか話してないぜ。”おそらく”『蒐集家』は『世界脅威』という肩書きは鬱陶しく思っている、と俺がそう考えているだけだ。真実はわからん」

「真実はわからんって、それぐらい調べてこい!」

「『蒐集家』は、有名な情報は割と誰でも知っているが、それ以外の情報となるとあまり知られていないんだよ。接触も難しいしな。しかし現世界脅威のこの俺、『天断』の澄渡空から言わせてもらえば『世界脅威』の肩書きは鬱陶しい以外の何者でもない。おそらく『蒐集家』も同じ事を考えているんじゃないかと、同じ『世界脅威』だからこそ推測できるんだ」

嘘だ。

澄渡空は今嘘を吐いた。

それは真実を誤魔化したというレベルではなく、確実な嘘であることを僕は空の表情から読みとった。

嘘というのは空が『世界脅威』という肩書きを鬱陶しく思っているという部分だ。空はそれを鬱陶しくなど思っていない。

逆に『世界脅威』という肩書きに感謝しているぐらいだろう。

空は戦闘狂だ。

おそらく『世界脅威』という肩書きは良い撒き餌になっているのだろう。

純粋に正義のために、または『世界脅威』の肩書き欲しさに空を挑む輩は少なくなかったはずである。

『蒐集家』が空と同じかどうか、僕に判断をする術はない。

しかし空が嘘を吐いたことは確かだ。

これを紅糸さんに報告して、『蒐集家』との戦いをやめてもらおう。

とか考えていたら、紅糸さんが僕よりも先に動いた。

「うな。そうか。じゃあやっぱり退治しよう」

「うわぁ!紅糸さんちょっと待ってよ!」

人の言うことを疑いもなく信じてしまう紅糸さんだった。

もしかしたら紅糸さんはオレオレ詐欺にひっかかってしまうかもしれないと思うほど、簡単に信じてしまっている。

「うな?何だ、ミナギン?」

「空は嘘を吐いているよ!今度は本当に嘘を吐いているよ。空は『世界脅威』の肩書きを窮屈だなんて思っていないよ!」

「おいおい。お前が俺の何を知っているっていうんだ?会ったのは二回だけなんだぜ?二回で俺の何がわかったっていうんだ?」

「もう粗方わかったよ!わかりたくなかったけどね!空は戦闘狂で、目的のために手段を選ばなくて、そして嘘つきだ!」

「ははは。的を得ているな」

開き直りやがった。

「しかしそれは俺の考えに嘘があっただけであり、『蒐集家』のことについて嘘があったわけじゃない」

「え?ま、まあそうだけど」

空が言うとおり、『蒐集家』のことについて嘘はない。

何故なら本当かどうかわからないから。

『蒐集家』の考えについては不確定事項だから。

だから判断はつかないけれど……

「紅糸さん。『蒐集家』は相当やばいと思うよ。ひまわりの時のようにうまくいかないと僕は思う」

「何だ?ミナギンは私を信用していないのか?」

「あのね、信用している、いないの問題じゃなくて……あぁ!ひまわりのほうからも何か言ってくれないかな?」

ひまわりは紅糸さんと違って『蒐集家』の脅威をわかっているはずだ。

何故だか知らないが、現在の状況としては『蒐集家』との戦いに賛成派が二人(紅糸、空)、反対派が一人(僕)となっている。

ここでひまわりを味方につけて二対二にしなければ分が悪いだろう。

「澄渡さん……ひとつ忠告させてもらいますよ」

ひまわりは、今まで見たこともないような剣呑な雰囲気を醸しだしながら、言った。

「澄渡さんが何をしようが私は文句を言いません。既に『正義』を辞めた身です。今更あなたを追う気もない。ただ」

人見知りの身であるひまわりには珍しく、否僕は初めて見たのではないだろうか?

ひまわりは明らかに空に敵意の眼差しを向けていた。

「私の大切な人たちを傷つけるつもりならば、容赦はしません」

「はっ!お前に容赦しないなんて言われるなんてな。まあそれはそれで面白そうではあるが」

「『蒐集家』であろうが『世界の敵』であろうが、戦いたければ一人で戦えばいい。それに私たちを巻き込まないでください」

ひまわりが……ひまわりが真面目なことを言っている!

凄い!これは凄い!

一秒たりとも真面目な空気を作れたことのないひまわりが、あのひまわりが!

やはり人類というのは日々進歩しているという事なのだろう。

あぁ。良いものを見たなぁ。

僕はもう満足だ。

「うーむ、ひまわりがそこまで言うのであれば、こちらも引かなければならないか」

意外なことにあっけなく空が身を引いた。

ということは……今回はバトルなし!

やった!やったぞ!

いつも流されて事が思い通りに運ばない僕だけど、今回ばかりはやってやったぞ!

この物語を観測している人達には悪いが、危機は回避されたのだ。

いやぁ、グダグダの話ばっかりで本当に申し訳ない。

しかし、ひまわりはよく働いた。

それに成長もした。今回の事でひまわりには何かご褒美をあげた方がいいのかもしれない。

何がいいだろうか?

ひまわりというと、ゲームぐらいしか思い浮かばないのだが。

「しかし、『蒐集家』とやりたかったなぁ。あいつらレアなものばかり盗んでいるから、もしかするとレアなゲームとかを所有していたかもしれないのになぁ」

ぴくり、とひまわりが反応したのを僕は見逃さなかった。

ん?まさか……いや、そんなはずが……

いくらひまわりでもそんな手に……

「澄渡さん!私は勘違いをしていました!どんなに強大な敵とは言え、私も『正義』の端くれ!『世界脅威』を見過ごすことは出来ません!」

「やっぱり引っかかっちゃった!」

「観凪さん!引っかかったという言い方は心外です!私は私の正義のために動くだけです!」

「あぁ!ダメだ!もうダメだ!これパターン入った!流れを止められないパターンに入った!もう好きにしてください!」

状況は三対一となってしまった。

しかも少数派がこの中で一番立場の弱いこの僕なのだから、もう『蒐集家』との戦闘を回避するのは不可能と判断した。

うぅ、見た目によらず、空はよく口が回った。

紅糸さんやひまわりの性格を正確に把握していた。事前に二人が釣れそうなネタを考えていたのだろう。

空は細かく策を練るキャラのようだ。正直、その面もちからは想像が出来ない。

「それじゃあ、俺が『蒐集家』の男を担当。紅糸と橙灘で女のほうを担当、でいいか?やる日は明日の夕方。問題ないか?」

「それで問題ありませんが、やはり『蒐集家』と戦うには力が不足しているように思います。そこで、紅糸さん。私と修行しませんか?」

ひまわりが変な提案をした。

修行って……そんな前時代的な発想をする人がまだいるなんて。

だけど紅糸さんも修行とかいう言葉が大好きそうだからなぁ。

僕の記憶が正しければ、最初に紅糸さんと会ったときも紅糸さんは鍛錬してちょう強くなったとか言っていた気がする。

「うな!いいなぁ、修行!ひさしぶりにうんと体動かしたいし、やるか!」

あぁ、やっぱり乗った。

「修行の定番といえば山ですよね。時間もありませんし、早速行きましょう」

「そうだな!よし!行くぞ、ミナギン」

「いや、僕明日学校あるし」

「何だ。ノリが悪いなぁ、ミナギンは。まあミナギンは戦闘要員じゃないから、修行を強要はしないがな。行きたくないなら仕方がない。それじゃあ、私たちは修行してくるから、明日の放課後合流することにしよう」

……紅糸さんも学校があるだろう、とつっこむのはもう無駄だろう。

紅糸さんとひまわりはドタバタと僕の部屋を出ていった。ついでに紅糸さんについていくようにニャータも出ていった。こういうときは飼い主と一緒に行動するらしい。

部屋の中が一気に静かになった。

そして、空も紅糸さん達に続き部屋を出ていこうとしたので、僕は彼を呼び止めた。

「空、最後に一つだけいいかな?」

「あ?何だよ?」

「空は本当は何を考えているの?どうして『蒐集家』と戦おうなんてするの?」

「はっ、何度も言っているだろうが」

鼻で笑って、空は言った。

「俺は戦闘狂だ。強い奴がいるならば戦いたい。より強い奴がいるのなら戦いたい。最強がいるのならば何としても戦いたい。別に難しくないだろう?ひどくシンプル。それがこの俺、澄渡空だ」

戦闘狂……だから空は戦いたい。

強い奴と戦いたい。昨今のマンガとゲームのブームにより、その思考は理解できないわけではない。

理解できないわけではないが、しかし腑には落ちない。

強い奴と戦って、果たしてその先に待つものとはいったい何なのだろうか?

僕はそれがわからなかったし、そして空はそれがわかっているのだろうか?

「聞きたいことはそれだけか?なら、俺は行くぜ」

聞きたいことはあったかもしれない。

けれど、うまく言葉に出来ず、結局空も僕の部屋から出ていった。

静かになった部屋で、僕は久しぶりに今日は熟睡できそうだと思ったのであった。

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