第五話 チカラ
「ちょ、ちょちょっと!大丈夫なのそれ?!」
蓮子先輩が俺の腕を心配する。
「大丈夫です、こんなのただの刺し傷ですよ、すぐ治ります」
「いや、思いっきり刺さってたよねぇ!?」
「大丈夫に決まっていますよ……こんなの日常ですよ」
「あんたの日常なにしてんの!?ちょっと見せなさい!!」
腕を捲ろうと近寄ってくる、女性に耐性の無い俺は近寄られると何もできなくなってしまう。
結局、前と同じパターンで、腕を見られてしまった。
「あれ、もう包帯が巻かれてる……剥がすわよ」
どんどん先に進む、これはひどい。
「傷口が、ない……?それになに、このびっしり書かれた文字みたいなものは………?全部洗いざらい話してもらうわよ」
苦労しそうだ……
もう一回部屋に戻り、椅子に座ってから話し始める。ただ、今度は右腕を机の上に出し、袖も包帯もまくってから。
「能力者、僕は能力者、スペックホルダーです、
多分知らないと思うので簡単に説明しますと、五年前に墜落した隕石の近くに住んでいた者達の事で、殆どの者は能力なんてなかったんですが、一部の者は人間を超える能力を手にしました。
私はその能力者の一人、自分の血で治癒する能力です」
「血で?」
「はい、この包帯には事前に水で薄めて漬けた物になるんです、
この私の血が触れたり、浴びたり、飲んだり、注射することでとてつもない自然治癒力を発揮するんです、
例えば…」
そこまで言って、わざとカッターで手のひらを切る、切った箇所から血がゆっくりと出てくる。
「こいつに事前に血を薄めた水を漬けたガーゼを当てると……」
「傷が消えた?!」
「そうです、傷が回復したんです、これが血で回復するということです、
ちなみに、他の人でも私の血を体内に入れれば治癒力は増加します、
これが私のランクS、日常生活に極端な影響を及ぼす、
血を摂取することで自然治癒力を上げる程度の能力です」
これで俺は嫌われて秘封倶楽部は退会だな、必然的に護衛任務は失敗になって大学は退学、そのまま浪人生活を歩むことになるのか……短かったなぁ、俺のキャンパスライフ。
「なんだ、あなたも能力者なのね?」
……え?
「私もよ、私はランクB、『星を見ただけで今の時間が分かり、月を見ただけで今居る場所が分かる程度の能力』の持ち主よ」
蓮子先輩が胸を張りながら言う、少し足りないけど、どこがとは言わない。
「蓮子……またすぐ言っちゃうんだから……私はランクA『境界を見る程度の能力』のホルダーよ」
マエリベリー先輩も同じように言う。
「あなたもしかして嫌われて退会させられると思ったでしょ、そんな訳ないじゃない!私は同じ志を持った人が欲しかったのよ!そんなチンケな能力でこのサークルを退会させるもんですか!」
チンケな能力って……
「正直私にはあまり決定権はないけど、私はあなたの能力に興味が出てきたわ、一緒に頑張りましょう?」
マエリベリー先輩が微笑みながら語りかける。
「…………はい!これからよろしくお願いします!蓮子先輩!マエリベリー先輩!」
「せ、先輩?あんまり慣れないわね……でも蓮子先輩……フフ、いい響きね」
「マエリベリー先輩……久々に本名で呼ばれた気がするわ、でも慣れないからメリーで呼んでくれる?」
こうして、俺は秘封倶楽部に正式に入会したのだった。
次の日………
……ピピピピピピピピピピ!
目覚ましが鳴っている、起きないと、
瞼を開け、周囲の状況を確認する、
窓の向こうが赤い気がするが、朝焼けだろう。布団から這いずり出て、パジャマから普通の迷彩柄パーカーを着る。
朝飯を作り始める、いつもパン食だから、食パンにバターを塗り、トースターに入れて焼く、焼き上がりを待つ間、スクランブルエッグとソーセージ、少しのサラダを準備して待つ。
パンの焼けるいい匂いがして来た。
パンが焼き上がり、トースターから出して皿に乗せる、スクランブルエッグ、ソーセージをそばに置いてサラダを別皿に盛り付ける。
机に運んで、ニュースを見る為にテレビをつける。
…………砂嵐しか出ない、他のチャンネルも同じだ。
左耳のARを起動して、ニュースを仕入れることにする。
《おはようございます、ARシステム、通常モード起動します、本日のニュースです……
京都府に謎の赤い霧が発生し、公共交通機関に悪影響が出ています、
警察はこれに対し、異例である一般市民の外出禁止令を発表しています》
パンを咥えたまま網膜投影された映像を見て呆然とする、とりあえず窓の外を見よう。
真っ赤な霧が日の光を遮ってしまっている、視界はほぼ無に等しく、数メートル先も見えない。
「……一体何が起きてやがる……」
気がついたらこう呟いていた。