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型破りな探偵達   作者: 黒猫レオ
2 突っ走れ。
9/26

search 8.

柴原が留守であることは確認済みだった。


かち。

ミイがカギを開けるのに、30秒もかからなかった。まだ薄暗い午前5時3分。時間は計画通りである。

「……潜入完了ー」

小声で言い、ガッツポーズするニカ。仕事になると本当に楽しそうである。

「はしゃぐな。まだこれからだ」

「はーい」

エヌは前を行くニカを注意する。ミイも、辺りをきょろきょろ見回しながら入ってきた。

『上手くいったみたいだな』

全員のイヤホンに、キルの声が聞こえた。

「あぁ。今んとこは順調だ」

「オッケーだよ、キル」

『よし。……チシャが寝たから、代わりに私が指示出すぞ』

「オッケー」

「りょーかーい」

「……またか」

呆れたようにエヌが声を出すと、苦笑するキルの声がイヤホンに響く。

『こいつもいろいろ疲れんだろ。……じゃ、指示いくぞ』

「まかせてー」

『突き当りに部屋があるはずだ。そこは柴原の勉強部屋になってると思う』

言われた通りに廊下を進む。慎重に、辺りに耳をそばだてて足を出す。

「……あった」

『中へ』

ミイがドアノブをゆっくりと回すと、きぃ、という音がして開いた。

『なにがある?』

「おぉー。ラッキーだー」

声を上げたのは、ニカだった。

「どうしたの?」

がさごそやっているニカに、ミイが尋ねた。

「分かりやすい。ここ、ケースがある」

ニカのしゃがみこんだ方へ行き、ミイはスカートを膝の裏に折りたたみながら座った。フリルが、ちくり、と太ももに刺さる。

「……本当だ。キル、聞こえた?」

『おう。それの中身は?』

「……分からない。でも明らかに怪しいケースだよ。頑丈な感じ」

「ただのプラスチックじゃなさそうだねー」

『開くか?』

ニカがフタに手をかけて、引っ張る。

「んー……!」

『……無理か』

「無理ー。鍵かかってる」

『ミイ』

「了解」

ミイはウェストバッグからピンを取り出し、鍵穴に差し込んだ。かちゃ、かちゃ、と音が鳴る。

しばらくしてもう一本のピンを差し込んだ。

かちん。

「……解錠成功」

『オッケー。ニカ開けろ』

「りょうかーい」

ニカがフタをつかみ、引っ張った。

がこん。

「開いたー」

『中身は?』

「お目当てのものよ、キル」

ミイは思わず笑った。扉の近くで待機しているエヌもニヤリと笑う。

「カプセルがざっと10個くらい。透明の袋に入ってる」

『よし、それだ』

小さくミイはガッツポーズをする。

「で?持ちかえればいいの?」

『あぁ。持ってこい。油断はするなよ』

「了解」

「キル、車はどこだ」

『今は裏だ。28秒後に表に回す。ちょっと人が増えてきたから、堂々と出てこい。怪しまれるな』

「よし」

「りょーかい」

ニカがポケットにカプセルを突っ込んだのを確認したミイは、もう一度ピンをケースの鍵穴に差し込む。できるだけ怪しまれないよう、ルーペでホコリの切れ目まで確認してケースを戻す。

「……ミイ、あと16秒」

「オッケー。完璧。余裕ね」

エヌが先頭を行き、小さな車の音も聞き逃さないように耳に神経を集中させる。

「……5秒前」

「……2、1」

ミイのカウントダウンが終わる少し前に靴を履き、なるべくきょろきょろしないように家を出る。幸いなことに、通行人はいなかった。

すぐに車が家の前に止まり、自動でドアが開く。3人は全く無駄のない動きで、車の中に体を滑り込ませた。

車が、動き出す。

「……っしゃー!任務完了!」

「意外と簡単だったな」

「そんなにヤバいこともなかったし」

「よかった。私たち無事には帰れないのかと思ったよ」

口ぐちに安堵の声が漏れた。

「エヌの出番はナシだったけど」

「……まぁみんな無事ならいいんじゃないか」

「わー、エヌ優しー」

「ニカ、心がこもってないぞ」

「あ、ごっめーん」

みんなが笑う中、キルは内心首を傾げていた。


本当にこれだけなのだろうか。上手くいきすぎている気がする。こんなことでは、1000万など大金を積まれた意味がない気がする。

普通なら、50万くらいで浮気調査だの人探し(まぁ犯罪まがいの)だのをする。明らかに値段が違いすぎる。

こんなとんとん拍子にいって、本当に終わる案件なんだろうか……?

「…る、キル!」

「んぁ?」

「どうしたの、そんなに真剣な顔で」

「あぁ、いや……」

思わず口を濁した。せっかく喜んでいる時に、わざわざ不安にさせるようなことを言うこともないか。

「今日の打ち上げ、どうするかと思ってさ」

ぱぁっ、とエヌの顔が明るくなったのが分かる。お酒好きなエヌにとって、打ち上げは楽園だ。

「飲めるのか?」

「当たり前だろ?一応案件は終わったんだ。ぱぁっと飲もうぜ」

「キル?」

急に不安げな声がした。ミイだ。

「どうかしたのか?」

「後ろ……あの車。つけてきてない?」

「え?」

運転手のキル以外の全員が、後ろを振り向いた。キルもミラーで後ろを確認する。

後ろは、ごく普通のグレーの普通車だった。今流行りのエコカーとかいう奴だ。

「……たまたまじゃないのか?」

エヌが言う。

「私もそうだと思ってたんだけど……ずっと後ろにいたからつけてるのかと思って」

「エヌ、なんかそういうの確認出来るもの持ってないのか?」

「無茶言うな。俺は魔法使いじゃないぞ」

「例えが分かりにくい!とにかく、巻いてみるか?」

「俺に任せろ」

信号が赤になった途端、キルを後部座席に引っ張ったエヌは運転席に座る。

危険な運転はエヌにお任せだ。

「振り回されるなよ。……ミイ、スカート握っとけ。ニカはカプセル落とすなよ」

え、とミイが慌ててスカートを握り、ニカがカプセルを確認したときだった。

ぎゅんっ!

「わぁっ⁉︎」

思いきり、体が右に引っ張られる。

キルは思わず手をついた。

「あっ……ぶね!」

「もういっちょ」

ぎゅん!

今度は左に体が飛ぶ。

「おわっ!?」

細い路地裏に入る。

こういう時に、この軽自動車は便利だ。細い道でも行けるし、色が白いから少々のキズなら目立たない……

「……って、これは無茶だろぉ!?」

絶叫するキル。目の前には、ドラマでよくある路地裏シーン。ドラム缶。ゴミ箱(しかも金属製)。積まれたビール瓶のコンテナ。

「よくあるドラマすぎだろ! しかもセットが一昔前だぜ!?」

「大丈夫。キズは目立たないようにこの色にしたから」

「いや、ここまで来たらキズキズになるでしょ!」

ミイも叫び声を上げる。

「大丈夫」

エヌがそう言った。その時。

ガリガリガリガリ……

「……いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ミイが叫んだ。

「車止めろエヌぅぅ!!!!」

「いーじゃん、面白いし」

「お前は黙ってろニカ!!!!」

「あ、サイドミラー倒すの忘れてたな。まいったなこりゃ」

「そんな問題じゃねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

うぃぃん、とサイドミラーの収納される音。しかし、時すでに遅し。

「キズでミラー真っ黒になってんだろうが!!!!!」

「最悪、車いくらか分かってんの!?」

「エヌー、ここ後どれくらいで出るー?」

「大体……後50メートル」

「止めろ!!!」

「もう止まれねぇだろ」

こんな話をしている間にも、ガリガリガリガリ……という悲惨な音は続いている。時折、がっしゃあん、と何かが倒れる音も聞こえる。……何かの正体など、誰も見たくない。

そして。

「出た」

ぽん、と吐き出されるかのように、大通りに出た。恐怖の音が止む。

「……終わったぁぁ」

「おいエヌ。大通りの車の3台に2台は、私らの車二度見してるぞ」

「そりゃあキズだらけだからな」

「キズ目立たねぇっつったの誰だ!!!!!」

黄金の右手炸裂。エヌがハンドルに頭を突っ込む。

「あぁー、もう私車見たくねぇ……」

「私も二度と見たくない……」

「エヌー、一回降りて見ていいー?」

「いいぞ」

「お前は呑気すぎんだよ!」


もちろん、白い車体はキズでボロボロになっており、エヌは起きたチシャとキルにこっぴどく叱られるはめになった。




追いかけてきてた車、一体何だったんでしょうか……?

やっぱりこれだけでは終われませんよね。

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