表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
型破りな探偵達   作者: 黒猫レオ
1 Black One、始動。
6/26

seauch 5.

夜。

キルはパソコンの前でうなっていた。

柴原の情報が、少なすぎる。

場所特定ソフトを立ち上げたものの、彼の特徴が少なすぎるのだ。

「……無理だな……」

キルは、椅子にもたれかかった。

静けさが周りを包んでいる。軽い寝息は、部屋の近いニカとミイのものだろう。エヌもとっくの前に眠ったはずだ。

「……私も寝るかな」

言った瞬間。

「……キル……」

「おわえっ⁉︎」

突然の声に、不覚にもおかしな声が出た。

「……悪い、おどかした」

「へ? ……んあ、何だチシャか……」

後ろにいたのは、瞼がとろんと垂れたチシャだった。瞬きが速い。まだ寝足りないのだろう。

「……早く寝ないと……体壊すぞ」

「おぉ。チシャが言うと説得力あるわ」

苦笑して、パソコンを閉じる。

「……発信機のことだけど……」

「うん。……って、あれ⁉︎ なんで知ってんのチシャ⁉︎」

「んー……丁度その下りで起きたから……」

「あぁ、そう」

キルは閉じたパソコンに、ホコリがかぶらないようにシートをかける。

「その発信機……花笠にもつけないかな……?」

チシャが、言った。

……今、何と?

「え?」

キルは思わず聞き返していた。

チシャは今、『花笠教授』とは言わず、『花笠』と呼び捨てにした。

それは、疑っている人にしか使ってはいけない言葉。

「チシャ……?」

「依頼人を……疑うのは良くないと……俺も思うよ。でもさ……万が一ってことがある……」

だんだんフェードアウトしていくチシャの声。

そうだ。誰より命を大切にしてるのは、チシャなのかもしれない。いくら無茶を言っても、ここのルールを決めたのは、他でもないチシャだ。

「……分かった」

キルは大きくうなづいた。

「明日、行ってくるわ」

「ん……よろしくー」

チシャが、ちょっと口角を上げた。


「突然申し訳ありません」

「いえいえ。何か御用ですかね?」

笑ってコーヒーを淹れる、男。花笠だ。

「もう一つ確認しておきたい点ができまして」

「ほう。何でしょう?」

花笠がソファに腰を落とすか落とさないかという瞬間だった。

「わーっ、カッコいー!」

突然、隣のニカが立ち上がった。机に滑り込むようにして取り上げたのは、

「ニカっ……このやろ……!」

携帯電話、だった。

「やっば、このスマホのカバーカッコいい! ね、キルもそう思うよね!?」

「バカ、お前何やってんだよ……っ!」

カバーを外そうとするニカから、急いで取り上げてつけ直す。

「すいません、このバカが」

「いえ。とんでもない。元気がよくていいですね」

にこりと笑う花笠。

「ぷー、キルのケチ」

「黙ってろ。……すいません」

いえいえ、と笑う。花笠に出されたコーヒーカップに手を伸ばし、一口飲んだ。

「あの……用というのは」

「あ、すいません。実は、ここの生徒たちの順位を知りたいのです」

「え……それは……できませんね。個人情報ですし」

「捜査に必要なんです。お願いできませんか。もしどうしてもというのであれば、全員に許可もとります」

花笠は少し考え込み、少しお待ちください、と言って、部屋を出て行った。

「……行った?」

「……オッケー。ナイス演技、ニカ」

「こんなの簡単だよー? 人を油断させるのは得意だからさー」

「うん。そんな可愛い顔でさらっと怖い事言うのやめような、ニカ」

キルも、ぺろりと唇をなめた。

ニカが携帯電話を奪い、それをキルが取り上げた時。

あらかじめ手に仕込んでおいた発信器を、即座にカバーと本体の間に滑り込ませたのだ。 

「電源は自動で入るから、とりあえずは任務完了。さすがニカ」

「でしょー?」

言った途端、ニカがすぐに飛びのき、口を塞がれる。

「……っ何……」

「……足音がする。帰ってきた」

……耳の良さもピカイチだ。

「何だよー、キルのケチ!」

大声でニカが言ったと同時に、ドアが開いた。

「……すいません。お待たせして」

「全然。無理言ってすいません」

ニカが隣でぷっ、と膨れた。……さすが、プロのスパイだ。

「これが、全員分です。個人情報ですから、扱いは気をつけてくださいね?」

「はい、もちろんです」

茶封筒に入った資料をきちんと抱える。キルはニカを連れて部屋を出た。

腰についたスイッチを、同時に、入れる。

『……ん……終わった……?』

聞こえてきたのは、聞きなれた眠そうな声。

「ん。任務完了」

「完璧だよーん」

『お疲れ……んじゃ……ミイに車回してもらうから……180秒後に玄関……いい?』

「180秒後。了解」

「りょーかーい」

一秒の遅れは、何十億の損害になることがある。チシャに叩きこまれたことだ。

キルは腕時計をさりげなく確認し、ニカは壁掛け時計にきょろきょろと目をやり、少し足を速めた。


「お疲れ」

「はーい、ニカちゃんただいま帰還ー!」

「……エヌ、こいつを黙らせてくれ」

「元気がいいのはいいことだ」

「……私の味方が欲しい」

キルは部屋に入ると、ベッドに倒れこんだ。

「珍しいね、キルが昼間から寝るなんて」

「昨日……夜遅くまで……起きてたから……」

椅子に座りながら、チシャが答える。

「……おいチシャ」

エヌがゲームから顔を上げた。

「……ん」

「これからどうすんだ? 柴原探し」

「……それは……キルに任せる……」

「私たちは?」

「……キルに協力……して」

「リーダー、ほぼキルの仕事ばっか増えてますけど?」

「キルなら……大丈夫」

そして、かすかな吐息。

「……寝たよ、リーダー」

「すごいよねー、どこでも寝れるって特技だよ」

ニカが、ゲームをピコピコ鳴らしながら言う。

「ちょっと俺出かける」

「どこ行くの?」

「レール」

「ん、行ってらっしゃい」

レール。それは、エヌ行きつけの店。……バーなのだが、エヌの欲しいものを取り寄せていろいろと売ってくれるらしい。

「さて、私も鍵開けの練習でもするかな」

ぴこーん、と、1UPの音をさせるニカを放っておいて、ミイは自分の部屋に戻った。


さて。この時パソコンの花笠の星印がゆっくり動き始めたことなど、誰かが気付くはずもない。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ