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「依頼きた」
軽ーいその報告は、もちろんチシャである。
「もっと重い雰囲気で言えよな」
「だって今回めちゃくちゃ簡単だしさ」
チシャがメモ帳を見せてくる。キルはそれを覗き込んだ。
「『あるものを取り返して欲しい』……それだけ?」
「それだけ」
ミイがつまんないの、と言った。確かに、プロとしてはこれはつまらない依頼である。
「報酬いくらー?」
「またお前は金の話か、ニカ」
「気になるじゃん」
「1000万」
割り込んでチシャが入ってきた。ふぅん、と言った途端、全員の動きが止まった。
沈黙。
「『「『…………1000万⁉︎』」』」
「そうだよ」
「いや、絶対おかしいでしょリーダー! それだけで1000万はないって!」
「だって言ってたし」
「うっわ、絶対ヤバい依頼じゃねぇかよ……」
「俺わくわくしてきたー!」
「おい、キル。一人だけ違う方向にテンション上げてる奴がいるぞ」
「…ほっとけエヌ」
「てか何取ってくんの?」
ニカの言葉に、一同が口を閉じた。さぁ、とチシャが言う。
「そこ一番重要だろうが!」
「言わずに切っちゃったから」
「聞けよそこは!」
ミイは頭に手を当ててしばらく考えたような格好をしてから、静かに言った。
「……クスリとか?」
ばしん、とキルが頭をはたく。
「それガチでヤバい奴だし! つーか私ら探偵だからそれやっちゃ犯罪だろ⁈」
「待て、キル」
急にエヌがキルを制した。首をゆっくり左右に振る。
「……何だよ」
クスリって可能性もあるぞ、と言われる気がして、キルはごくりと喉を鳴らした。
「キルのツッコミ、間違ってる」
「……は?」
「もう俺たち、犯罪ギリギリかすってるからな」
……正論を言うな。てか、今重要なのそこじゃない!
「そうじゃなくて! ……チシャ、お前依頼受けたのか?」
恐る恐る聞いてみる。ほえ?という間抜けな顔をキルに向けたチシャは、当たり前じゃん、というように呟いた。
「受けたけど」
またの、沈黙。
「……そんな軽いもんじゃねぇーっ!」
「そうよリーダー! リーダーは潜入行かなくていいだろうけど、命の危険があるの私たちだからね⁉︎」
「俺仕事好きだから何でもいいやー」
「おいキル……」
「ほっとけ、エヌ」
「だって、取り返すだけで1000万だもん。得じゃん」
「得とか損とかより命の尊さ理解してくれチシャ!」
キルが頭を抱えた時だった。
こんこん。
事務所のドアがノックされる音。
「あ、忘れてた」
チシャが、ごめんと言うようにちろりと舌を出した。
「依頼人、今日来るらしいから、よろしく」
…………
……チシャ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎
入ってきた男性は、見た目三十代前半くらいの人だった。
「……意外と若かったね」
「ニカ。お前は内緒話のつもりらしいけど、丸聞こえだからな」
「あっは、ごめーん」
キルはニカの首根っこを掴むと、わあわあ騒ぐニカを、ぽいとゴミのようにお仕置き部屋に放り込んだ。
「……申し訳ありません。うちのバカが騒ぐもので」
「いえいえ、大丈夫です」
名刺が机の上に置かれた。
「私は、大学教授をしております花笠と申します」
花笠さん、と言いながら、キルは名刺を取った。
「……何かの研究を?」
「ええ。実は、取り返していただきたいのは、その研究の成果なのです」
花笠は手を顔の前で組んだ。
「研究の成果を……誰かに盗られたとか?」
「盗られた……というのは、少しおかしいかもしれません」
キルはチシャと顔を見合わせた。
「……というと?」
「研究結果を預けたのは、私なんです」
ほえ? と間抜けな声を出したのは、ミイである。
「お恥ずかしい話なのですが、研究結果を、助手である男に渡しまして。そのまま助手が行方をくらましてしまったというわけです。
」
「……それってつまり……?」
「はい。まずその助手から探さねばならないということです」
………。
『えー、めんどくさーい』
全員の考えを代表して口に出してくれたのは、空気を全く読まないニカである。
「ニカ……っ!」
「いえ、そう言われるのは承知の上です。ですから、報酬を高く出すと!」
確かに報酬は高かった。しかし……
『俺たち探偵って書いてるけどさー、実は探偵らしい探偵してないもん』
その通りだ。肩書きは探偵だが、危ない犯罪ギリギリの仕事ばかりしてるのだ。人探しなんて、本音はやったことがない。
「……ま、出来んじゃないの?」
のほほんとした音が、キルの頭上から降ってきた。チシャだ。
「何でもやってきたんだから、今回も何とかなるでしょ」
…………
やはり、頼りがいはないが、こいつがリーダーである。
キルは、ふぅっ、と息をついて、ニヤリと笑った。
「……引き受けました。報酬は1000万。助手を探し、研究結果を取り返す。よろしいですか?」
花笠はほっとしたようにぱぁっと顔を明るくした。
『よーし、仕事ーっ!』
「Black One、始動!」
さて。彼らは知らなかった。この案件が、後に彼らの人生を大きく左右することに。
さて…こんな無茶苦茶な彼ら、一体どうやって捜査していくんでしょう?(苦笑)
次回もよろしくお願いします!