search 18.~カプセル~
「……優華ちゃん、いないね」
ミイは道具をウエストポーチにしまいながら言う。
「そうだな……てかこれ何だ?」
キルは恐る恐る近づく。
銀色の箱。見たところ、横20センチ、縦10センチ、高さ15センチくらいだ。
「んー……これ取れないよ?」
ニカが箱を掴んで引っ張るが、取れない。床に直接つけてあるようだ。
「何でこのデカイ部屋にこれだけなんだ?」
エヌが言う。
確かにあまりにもおかしい。この部屋は4人が入っても十分すぎる広さがあるのに、部屋にあるものといえばこれだけである。
キルはその箱をもっと観察するために近寄った。箱の上を軽くこんこん、と叩いてみる。ずいぶん丈夫そうだ。多分その辺に売っているようなものではないだろう。
ミイは、その箱についているダイヤル錠とにらめっこしている。くるくる回してみたり、逆向きに回したりする。
「……どう? 開けられそうか?」
「んー……これはやったことないんだよねー……。結構最新のやつみたいだし」
そう言いつつもきちんと道具を出してきているところを見ると、一応開ける自信はあるらしい。聴診器のようなものを箱に当て、それにつながったイヤホンを耳にはめ、ミイはダイヤルを回し始めた。
その間、エヌとニカは箱以外のものを捜索中であった。
「この頑丈な部屋と箱を見る限り、あの中身は大事なものなんだろう。もしかしたら、優華ちゃん誘拐につながるものかもしれない。となると、この部屋には監視カメラくらいあるだろう」という、今日は調子がいいエヌの考えである。
部屋の中を歩き回り、カメラを探す。
「んー……ないね」
「諦めはやいぞ。とにかく考えろよ」
「エヌに言われたくないよー! 俺エヌよりは頭いい自信が……」
『はい……一旦ストップ……全部聞こえてる……から。無駄口……叩かずに……真剣に……探して』
イヤホンから聞こえたチシャのお叱りは、もちろんミイとキルの耳にも入っている。
「……お前ら真剣にやれよ」
「やってるよー! 俺は真剣だけどエヌが……」
「人のせいにすんな、2歳児」
「あれ!? 俺なんか3歳若返ってない!?」
「うるせえ。ちゃんと探せ」
残念ながら、言われてしょげるようなモロい心の持ち主ではない。反省の念が全く感じられないニカを見て、キルはゆっくりため息をつく。
「あ」
エヌが小さな声をあげたかと思うと、すぐさま背負ったリュックをがさごそしはじめた。……嫌な予感しかしない。
「んー? どしたのエヌー……」
ニカが言い終わるか終わらないかというときだった。
ぱしゅんっ!
何かが弾けるような音がし、続いて何かが焦げるような匂い。
「……へ?」
唖然、という言葉がよく似合う顔をしたミイが、鍵を開ける手をとめて力なく振り返った。キルも同じく、顔を上げた。
部屋の天井の隅から、細くあがる黒い煙。ぱらぱらと落ちる何かの残骸。下には小さくて黒い光るものが、これまた細く煙を出しつつ転がっている。
「……えーと……これは?」
「ん。カメラだな」
大きくうなづくエヌ。
「やっぱりあったんだな。ご苦労。……ただこれ……いきなり撃っちゃって大丈夫か?」
「分からん。とりあえず見つけたからはやく録画とめねぇと」
エヌの手に握られたものは、小型で、物を破壊するとき専用に作られた銃である。素早く狙いを定めやすくなっており、また破壊力も高い。もちろん、人に使えば大変なことになるため、絶対に使えない。
「いや……私ら結構いろいろ喋ったし……」
「……もう遅いんじゃない?」
ミイと顔を見合わせて呟く。
「まぁだが早いに越したことはない」
「……そうだな」
キルが大きくうなづいたとき、ミイの方で音がした。
「あっ! キル! 開いたよ!」
嬉しそうなミイの顔。よし、とガッツポーズすれば、いえーい! と向こうでハイタッチが起きる。はしゃぎすぎだ。
「じゃあ開けるよ? いきまーす……」
がちゃり、と重い音。開く箱。そして。
「……んぁ?」
訳のわからない声が出る。
箱の中身は、見覚えがある。全員がそろって口を押さえた。
「……どういうことだ、これ……」
冷静に物事を見ることができるキルやエヌでさえ、言葉が出ない。
『ん……どうかした?』
呑気なチシャの声が、沈黙を割く。
キルは震える手で中身を取り出した。
黒い箱の中の、小さな袋。その中に入っていたのは、つい先日盗まれた、花笠教授のカプセルだった。




