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お久しぶりです!
お待たせしました。遅くなってしまい、本当に申し訳ありません(-。-;
「……まだ頭痛いんだけど」
「うっせ。私の好意を無駄にしやがって」
「ちゃんと遊んでたよー!」
「使い方盛大に間違ってたろうが!」
盛大なビンタの音。
車が軽く揺れる。
「緊張感無さすぎだよ、2人とも……。下手したら戻って来れないんだよ?」
「うるせぇミイ。俺が今大事なのは、俺が買ってやったチェス盤だ」
「ヤバイな、キレすぎて一人称が『俺』になってる」
ミイとエヌは顔を見合わせて苦笑した。キレると一人称が変わるクセがあるのは、もちろんキルである。
「だいたいな、あれいくらしたと思ってんだ。3000円だぞ、3000円! 俺の自腹! 分かってんのかニカ、あぁ⁉︎」
「ごめんってー! そんな高いと思わなかったし。第一、俺が見た物全部積むクセあるの知ってるでしょー!」
「知らねぇわ、んなもん!」
また響く乾いた音。ミイは肩をすくめてから、運転席のエヌを見る。
「ねぇ、私たちちゃんと帰って来れると思う?」
「……まだ言ってんのかお前は。ここまで来たんだったら腹くくれよ」
「それはそうなんだけど」
ミイは背もたれに体を預けた。古くなったシートが音をたてる。
「……離れ離れになるの、嫌なんだもん」
ため息の声。呆れた顔をしたエヌが、ミラー越しにミイと目を合わせた。
「それを俺に言うな」
「じゃあ誰に言うのよ」
「当たり前だろ、チシャに言え」
かっと顔が真っ赤になる。素早く助手席のチシャを確認するが、寝息をたてて眠っていた。
「な……何言ってんの⁉︎ わっけ分かんない」
「分かりやすすぎんだよお前は……。何なんだ、根本的にバカなのか」
「はぁ⁉︎ エヌに言われたくないし!」
「俺はバカなんじゃない。お前らと脳の造りが違うだけだ」
何よカッコつけて、とミイが膨れるのを見て、エヌは吹き出した。
窓の外はまだ薄暗い。
午前5時34分。
5人を乗せた傷だらけの車は、宏圀組へと向かっていた。
頭を押さえてやっと静かになったニカを横目に、キルはパソコンを立ち上げた。昨日徹夜でプログラムを改良したせいで、あくびが止まらない。
「ふぁぁ……。えーと、昨日改良したプログラムの準備整えるからチシャ起こして」
「何のプログラム?」
「家の間取りを瞬時に出してくれるプログラム」
ふぁ、とまたあくびが出た。おぉ、とミイが目を輝かせている。
「あれすごいよね。何を改良したの?」
「もっと早く間取りが出るようにした」
キルはノートパソコンのキーを叩く。
「基本は今までと同じ。窓とか屋根の形とか家の形、玄関の場所から大体の間取りを特定するやつだよ。それに幾つかの例をあらかじめ入れておいて、もっと早く出るようにした」
さすがぁ、とミイが手を出す。キルも手を出す。
無言でハイタッチ。
「……うん、えーと。住所さえ入れれば、ネット検索でその家が出るようにしてある。そっから間取りの特定するから、ちょっと遅かったんだよ。でも今回はかなり危険だしさ……指示が遅くなると致命的だから」
ニカは苦笑した。いじけていたニカもくるりと振り向いて、パソコンを触ろうとする。
「おいニカ、触るな」
「えー、ケチ」
「うるさい機械音痴。幾つのプログラム破壊すりゃ気が済むんだよ」
「破壊はしたことないよー? ブラックアウトはさせちゃったけど」
「それで一回パソコン初期化したの誰だ、ガキ」
バタン! と勢いよくパソコンを閉じると、パソコンはキーボードに触れようとしていたニカの手に噛み付いた。
「いっ……たーい! 最低だ! 暴力反対!」
「おーおー勝手に言ってろガキが。もう2度とゲームのカセット買ってやんねぇ」
「え、ちょっと、それはヤダー!」
「だったら黙って車に乗るくらい出来るようになれ!」
本日何度目かの右手が炸裂し、ニカはしゅんと小さくなった。
「……分かったよぉ、ちゃんと静かにするからさぁ……」
「……何だよ」
何かを言いたそうにしているニカを睨みつける。
「……今度の土曜日発売のニューゲーム……欲しーなー……なんて」
フェードアウトしていく声。
キルはため息交じりに軽くニカの頭をこづく。
「上目遣いしても無駄だ。私は男じゃねぇから通用しない。残念だったな」
むぅ、と唇を尖らすニカを見る。
……おい。可愛すぎるぞ。ホントに男か、コイツ?
「普通の男だったら間違いなくオチてたよ、今の表情……」
ミイも思わず呆れた声になる。
「私もかなり今危なかったもん」
「オチかけた?」
「オチてぎりぎり今帰還した」
「一回オチてんじゃねぇか」
もちろん、キルは自分もオチかけたことを言わない。
「おい、もうすぐ着くぞ」
『目的地周辺です。音声案内を終了します』
まるでこれから旅行にでも行くかのような呑気なカーナビが、戦場が近いことを告げた。
「……よーし、やるよ!」
ミイはウエストポーチをつけ、モノクロの手袋をはめた。
「……手袋くらい普通のをしろよ」
「だって服に合わないじゃん? 見て。この服可愛くない?」
メイドのような服。黒チェックのスカートはいつも通り短い。ミイの細くて長い足によく似合っている。
「……まぁいいんじゃないか?」
ようやく絞り出したキルなりの褒め言葉を吐き出し、キルは靴紐を結び直した。
「楽しみだねー。どんな人がいるのかな?」
「ヤクザしかいない。てか人に会うなって言われてるだろうが」
黒一色の手袋をはめるニカと、デカいリュックを軽々と背負うエヌ。
「んん……着いた?」
ようやく、とろんとした目をこすりながらチシャが起きてきた。
「おぅ、着いた。パソコン使い方分かる?」
「ん……分かる」
「じゃよろしく。寝るなよ、司令塔」
キルはピンマイクをシャツの襟に、イヤホンを耳に押し込んだ。
「ピンチになったら……呼んで。すぐ……行くから」
「了解。イヤホン外すなよ」
車のドアを開け、全員で飛び出す。
長い長い1日が始まろうとしていた。