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新連載です!
コメディーが書きたかったので、自分なりのコメディーを書いてみました…。
読んでいただけたら嬉しいです!
静かなビル。そこに響く、一つの靴の音。
「……潜入完了ー!」
重々しい空気に似合わない、軽い声。
『……もっと緊張感ってのはねぇのか、ニカ』
「えー? 一応緊張はしてんだよー?」
『……そうは聞こえねぇんだけど』
イヤホンから聞こえる、呆れた声。
「とりあえず行ってくるからね? マイク切るよ?」
軽い声は、止める呆れ声をガン無視してマイクのスイッチをぷつんと切った。
『Black One』。そう書かれたビルに入っていく。
「はーい、ただいま帰還はニカちゃんでーすっ!」
「……一仕事終えて疲れてないのか、お前は」
「疲れたー、もーくたくたー」
「絶対疲れてないわ」
ぼすっ、とソファに倒れこむ。ニカと呼ばれた奴は、くるっと寝返りをうった。こいつ、実は男である。
「そんなことよりさー、キルこそそんなツンケンして疲れないの? ほら、スマイルスマイル」
「……聞いて驚くなよ。私が今やってる仕事は、お前の失敗した偽書類をきちんと作り変えるって面倒な仕事だぜ」
「わー、お疲れー」
キル。パソコンに向かって小さくマウスを動かしている奴。ご想像通り、女である。
「遠回しに反省しろと言ったつもりだったけど、分かった?」
「全〜然分かんなかった」
「……聞いた私がバカだったわ」
キルはため息混じりに言った。
彼らの職業は、簡単に言えば『探偵』である。簡単に言えば。
難しく説明するとしよう。彼らは、探偵の中でもかなり危ない仕事をしている。一言で言えば、スパイだ。でも、スパイのように情報を収集するだけでは不十分で、それらを組み合わせて推理もする。…まぁ、無理にも突入するような奴らなので、あまり推理の必要はないが。今は二人だけだが、まだあと三人メンバーがいる。彼らはまだ仕事に行っており、そろそろ戻ってくる頃だ。
「キルと二人って久しぶりだねー。何かする? トランプ?」
「……黙っとけ。仕事中だぜ、こっちは」
「えー、暇」
「一人でピラミッドでも作っとけっつの」
「そんな細かいこと出来なーい」
「じゃあネットサーフィンでもしとけ」
「散々パソコン見た後だもん」
「……じゃあ寝ろ」
「仕事の後ってさー、興奮して寝れなく……」
……ついに堪忍袋も破裂した。
「……黙れこのノロマ! 日本語わかるか⁉︎ 私仕事中! understand⁉︎」
「待って、何で最後英語⁉︎」
「日本語分からねぇなら英語だろうが!」
「英語もっと分かんないから……」
「とにかく黙っとけ! 私がやってんのはお前の尻拭いなんだよ!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐニカを追い出し――というか隣の部屋にぽいと投げ入れて――外から鍵をかける。
「ったく……」
「ただいまー。って……あれ? ニカ?」
ドアが静かに開いて、女の子が入ってきた。
「おう、おかえりミイ」
「ただいまキル」
「……またその格好で行ったのかよ」
「うん。勝負服。悪い?」
いや……とキルは口を濁した。見ていて恥ずかしくなってくる。
ピンクと黒のフリルがいっぱいについた、ミニのワンピース。俗に言う、『ゴスロリ』というやつだ。ハイソックスは白と黒のボーダー。……見ているだけで目がちかちかする。
「……ニカは?」
ミイが言った。
「お仕置き部屋。閉じ込めた」
ミイが苦笑する。
「今度は何やったの」
「仕事中に、トランプとか訳の分からないことをほざきやがるから閉じ込めた」
『俺何も悪くないもーん』
閉じ込められたというのに余裕の声。
黙ってろ! の一喝でその声はしおれた。
「……んで? 他のやつは」
「リーダーは車を止めてる。エヌはもう来ると思う」
「何してんだ?」
「上がってくる途中で頭打ってうずくまってる」
「またか……」
いい加減、この天井の高さにも慣れてほしいもんだ。キルはため息をついた。
「ただいま……」
聞こえてきた声は低い。キルが見ると、頭を押さえた大男が入ってきた。
「おかえり、エヌ。お前そろそろ慣れろよな」
「無理な話だ。身長はどうにもならん」
「それはそうだけどさ……」
エヌは二メートル近い体をソファに投げ出した。ミシイッ! と、ソファが悲鳴を上げる。
「……ソファがかわいそうになってくるな。毎回毎回巨人にとびこまれて」
「まだ持つだろ」
エヌはそのまま携帯でゲームをし始めた。
……これが探偵だとは誰も思えない。
「お疲れさーん」
ドアが開いた。
「あ、リーダー!」
「お疲れ、チシャ」
おう、と言った男は、のろのろとキルに寄ってきた。
「出来たかー、書類……」
「もうちょい。くそ、ニカが大ポカやらかさなかったらもうとっくに出来てたっつーの」
「……ニカは……?」
「いつものとこ」
あぁ……とやる気のなさそうな声を出して、チシャと呼ばれた男は黙って『お仕置き部屋』の方を見た。そして、硬直する。
「リーダー……?」
「おい、どうしたチシャ⁈」
……ぐー。
かすかな、いびき。
「……ミイ」
「なーに」
「……ベットへ運んでやってくれ」
急に痛み出した頭を押さえて、キルは椅子に体を預けた。
さて、彼らの紹介をしておかなければならない。
キル。見た目は完全に男だが、一応性別は女である。主に、女性相手の潜入が仕事だ。それから、コンピュータが得意であるため、たくさんのプログラムを作ることもある。今本人が使っている、書類コピープログラムも、彼女が作った。
ニカ。彼は、見た目は女、中身も女、しかし性別は男という訳の分からない生物である。主に男性相手の潜入が仕事で、潜入の点ではプロだ。なぜか料理が上手く、女子力が一番高いと思われる。
なぜ上記二人が性別を逆転させているか。それは、リーダー、チシャの考えである。
男性相手に女性のスパイが接近する。その時、恋愛感情が生まれようものなら大変なことだ。というわけで、男性には男性を、女性には女性のスパイを接近させることにしたのだ。
その当の本人、チシャ。頭がよく、彼らの司令塔として働いている。潜入はせず、車の中で司令する。……が、彼。いつも、眠い。立ったまま寝るという技を身につけたほどだ。イヤホンから、たまに司令ではなくいびきが聞こえることもあるらしいが、頭の良さは一番だ。
ミイ。唯一女らしい女で、天才鍵師である。一切キズをつけずに鍵を開けることができる。ただ、彼女の服のセンス。そう、『ゴスロリLOVE』なのである。現場にもゴスロリ、普段からゴスロリ、仕事中ももちろんゴスロリ。目立つ目立つ。キル的には、現場には行って欲しくないが、鍵師がいないと始まらないので仕方なく連れて行っている。
最後に、エヌ。彼は一メートル九十センチという脅威の身長と、鋭い目つきの持ち主である。それを活かし、武器担当となっている。スタンガンをばらばらにしてから三十分で完璧に組み立てるという特技を持つ。……一体何の役に立つのかとは聞かないでいただきたい。しかし、可愛いところもある。彼は『天然』である。すぐ頭を打つ。方向音痴。……もうむちゃくちゃである。
……さて。書いていて呆れてくるようなこんな一癖も二癖もあるような彼らがいる、『Black One』探偵事務所。そんな彼らが、日本中を巻き込んだ大事件にひょっこり首を突っ込んでしまうのは、もう少し後の話である。
型破りな探偵達が、型破りな探偵事務所で、型破りな捜査を、今、スタートさせる。
ありがとうございました。
まだ自己紹介らしきものだけですが、気に入っていただけたら次もよろしくお願いします!
本番は次からスタートです。