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今回少し短め。
最大の危機が迫ってます。
「……あれだ」
チシャの言葉に、運転席のエヌが反応する。
「止まるか?」
「いや……一旦追い越して、角曲がってから止まって」
「了解」
エヌはしばらくキズだらけの車を走らせ、角を曲がった。チシャが窓から首を出して、様子をうかがう。
「……オッケー。……行ける? キル」
「もうキルって呼ぶな。気が散る」
後部座席で、人影が動いた。
「ごめんごめん……もう行ける……? ……セイヤ君」
「ん。行けるよ」
一段と明るい声になった人影は、ゆらりと動いて、ミラーに姿を映した。
「……上出来だな」
エヌも感嘆の声を出した。
「意外と……メガネ似合うんだね……」
「意外って言わないでくれるかなぁ?」
メガネに茶髪、着古したジーパンの男は言う。
「イヤホンつけた? ……忘れちゃだめだよ」
「いいよ。ほら、ちゃんと付いてるから」
黒い小さなものが、耳に付いている。
「オッケー。……じゃ、行ってらっしゃい」
「じゃあ。また後で」
セイヤ、と呼ばれたキルは、ゆっくりと車から出た。
からん。
ドアを引くと、重いベルの音がした。
「いらっしゃいませ」
セイヤは軽く会釈し、こぎれいなカフェの店内を見渡した。
――いた。
一番奥の席で、本を読んでいる。ここからは題名は見えないが、小説のようだ。
「……チシャ」
襟についたマイクに、小声で言う。
『……ん……何?』
「本読んでる。そっからいくから、ネット開いといて」
『ん……了解』
セイヤは耳についたイヤホンを押しこんだ。
今どきは便利になったな、とセイヤは思う。こんなイヤホンをしていても、誰にも怪しまれない。
今は、これ一つで音楽が聞けたり電話が取れたりするというから驚きだ。わざわざ携帯を耳まで持っていかなくても、これ一つで会話ができる。
――まぁ、これは電話を取るためのものではないが。
セイヤは奥に足を進める。
柴原は気付かない。横切る瞬間、ちらりと読んでいる本の題名を見た。
何やら英語の小説のようだ。難しそうに眉間にシワを寄せ、柴原はそれを読んでいる。
その時だ。
『キル!』
やけに緊迫した声が、イヤホンから聞こえた。
「……何だよ」
セイヤは仕方なく柴原の脇を通り過ぎた。そのまま奥のトイレに入り、鍵を閉める。
「……俺はセイヤだ」
『セイヤ、今日の接近は中止する』
妙に声が途切れないな、と思っていれば、声の主はチシャではなくエヌだ。
「……何で」
『緊急事態だ。とにかく車を前に回す。40秒後だ』
「ちょ、ちょっと待てよ」
セイヤは小声で反論する。
「何でいまさら。もうここまで来てんだぞ」
『説明は後だ。ミイが大変なものを見つけた』
「大変なもの?」
『見た方が早い。さっさとしろ! そこじゃとにかく危ないんだ』
「危ない?」
『早くしろ!』
怪訝な顔をしながらも、セイヤはトイレを出た。怪しまれないよう、電話がかかってきた素振りで喫茶店を出る。すぐに車が来たので、セイヤは乗り込んだ。
「……ったく、何だよもう少しだったってのに!」
「これ……見て……」
チシャに携帯を渡され、セイヤは受け取った。画面には、メールの文面が出ている。
「ミイから……読んでみて……」
セイヤは仕方なく、ぶつぶつ言いながらも文を読んだ。
【リーダー、今日の計画即中止。キルにも伝えて。私たち、指名手配されてる】
「……は?」
セイヤは一瞬でキルへと戻る。
「何これ」
「俺達もよく分からん」
エヌは言った。
「これから確認するところだ。一応今日は中止だ」
ちっ、と舌打ちが出る。
一体どういうことなんだ、私たちが指名手は……
「……エヌ」
「何だ」
「バックしろ」
「なぜ」
「いいから下がれ。私は今とんでもないものを見た」
ぎゅううん、という音がして、窓の外が巻き戻しのように後ろへ下がる。
警察署がある。一枚のポスター。そこには見覚えのある顔ぶれが……
「……って」
「ちょっと待て」
キルとエヌが言い、チシャは背中を背もたれに思い切り打ちつけた。
「何で俺達マジで指名手配されてんの!!??」
――Brack One、最大の危機。