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型破りな探偵達   作者: 黒猫レオ
3 振り向けば。
14/26

search 0.〜エヌの場合〜

今回も過去の話。

でも…今回の人は、みんなとちょっと違う入り方をしてます。

「腕のいい探偵が、仲間を探してるそうだ」

急に言われた言葉に、男は頭を上げた。

途端、低い位置にあった棚に思いっきり頭をぶつける。

「……おい、早くこの低さにも慣れろよ。お前の部屋なんだぞ」

「うるさい。生まれつきは直せない」

大男はパソコンを閉じた。普通に閉じたつもりだったのに、がん! と予想以上に大きな音がする。

「……で、何の用だ?」

「聞いてなかったのかよ」

「何だよ」

大男は、目の前に立つ男を見る。髪を長く伸ばしており、肩まである。

「そうやって人の話を聞かない癖直せよ、エヌ」

「うるさい」

エヌと呼ばれた大男はそっぽを向いた。

「お前だってな、エス。あまり俺の話しを聞かないだろ」

「お前の話にはオチがねぇ。聞いても面白くないんだから、聞かなくてもよい。以上、証明終わり」

「証明か。そんなのは中学校以来使わないと思ってた」

「ところが使うんだよ。たとえば、話が面白くない男に、話を聞かなくてもいい理由を説明する時なんかにな」

男――エス――が髪をかきあげるのを見て、エヌはため息をつく。

「自己チューが。……で、何だって?」

「おっと。忘れるとこだった」

いけね、と舌を出す。お前がぺらぺら喋ってるからだろうが、と言いたくなるが、あえてそこには触れない。触れるとまた話が長くなることは、長く一緒にいれば嫌でも分かる。

「俺の友達に探偵がいてよ。チシャっつーんだが」

「ハーフか」

「いいや、純日本人だぜ。東京生まれ東京育ち」

「変わったやつだな……まぁいい。続けろ」

エヌは足を組む。

「で、そいつが仲間を募集中なんだとよ。いいやつがいたら教えてくれって頼まれたんだ」

「いくらだ?」

即座にエヌは聞いた。

「……何の話だ?」

「お前がただで頼まれるわけないだろうが。どうせふんだくったんだろ」

「それ! そういうとこだよ」

エスは手をパシン! と叩いてエヌを指差した。

「そうやって何でも直球に聞くところ! そういうとこを俺は推薦したいんだよ」

「んなことは聞いてない。質問に答えろ」

「10万」

「……まだ安い方だな」

エヌは息を吐き出す。

「いつもなら50万は行くだろ」

「おいおい、仕事と一緒にするなよ? 大事な友達の頼みなんだぜ?」

「それにしちゃきっちりもらってんだろうが」

エヌはやれやれと首を振る。

「で、どうしろってんだ?」

「行けってことだよ」

「だいたいな、エス。何で俺に言うんだよ。お前が行きゃ済む話じゃねぇか」

「俺はこの仕事に向いてるからだよ」

「俺は向いてねぇってのか」

「向いてないな。というか、お前ほとんど何にもしないだろ」

エヌは押し黙った。

「パソコンしてるだけだろ。まぁ時々はこっちにも来るけど。本当は嫌いな仕事だって、丸わかりなんだよ」

「……お前の優しさって言いたいのか?」

「さぁな。その辺は自分で考えろ。とにかく俺が行きたくないからお前を推薦してるんだ。とやかく理由をつけてな」

エスの言葉に、エヌは舌打ちをした。


エヌの仕事は、注文を受けて、売ることだ。

もちろんお分かりの通り、レストランではない。

売るのは、武器だ。

いろんな人の要望に答える武器を作ったり、ネットで探して、売る。

作るのはエスの仕事で、ネットで探してくるのはエヌの仕事。

なぜか2人の間では、そういう暗黙のルールが出来ていた。


「俺はな、エヌ」

エスは床に座った。よくコンビニの前なんかで見る、反抗期真っ盛りの中学生にも見えるその男は、エヌに向かって指を差した。

「人を指差すなと小学校で習わなかったか」

「お前は違う仕事の方が向いてるとずっと思ってたんだ。分かってんだよ。お前の心が優しいってことは」

エヌは忌々しげにそっぽを向いた。

「そんな忠告はいらねぇよ」

「お前は人を傷付けるもんは作りたくない。そうだろ?」

「人の話を聞け、自己チュー」

「お前が本当にしたい仕事は、人を助けること。そうなんじゃないのか? 人を傷つけるもんを売る仕事を好きでやってる訳じゃないだろ」

あぁ、もう。エヌは頭をかきむしる。

「こんなのは人の役にたつような仕事じゃない。でも探偵ならどうだ? すごい量の人の役にたてる」

「人の役にたちたい訳じゃない」

「でも少なくとも、この仕事は嫌いだ」

エスはエヌの頭に指を突きつけたままだった。指を出されているだけなのに、なぜか動けない。

「……お前は好きなのか? この仕事が」

エヌは言う。

「あぁ、大好きだね」

「嘘をつけ」

「何が嘘なんだ」

「お前と何年間一緒にいると思ってんだ」

エヌはため息が混ざった声で言う。

「お前も俺とおんなじだろ? 好きでやってる訳じゃない。中学もろくに行かなかった俺らを雇ってくれるところなんてないから、ここにいる。そうじゃないのか」

エスが口を少し左右に広げた。

「認めたじゃねぇか」

「何をだ」

「この仕事が嫌いってよ」

ちっとまた舌打ちが出た。

「……そうだよ」

「だったら行けよ」

「……お前はどうなる」

「はっ。なんとかやってけるだろ」

「この店は?」

「俺が1人でやる。お前はいないも同然だったし、何にも変わるこたぁないだろ」

くそ。

エヌはまた髪の毛を掻き回した。

「……何でお前は行かないんだ」

「ん? 俺か?」

エスはにやっと笑った。

あの頃から、小学校から変わらない、嫌味な顔。

「ここが好きだからだ。自分の好きなところで働くなんて、誰もが持ってる最上級の夢じゃねぇか。お前も最上級の夢が叶えられるチャンスだぞ?」

「バカ言うな」

エヌは顔をしかめた。

「嘘をついてるのは分かってる」

「これが嘘だとして、お前はどうする?」

「……どうするとはどういう意味だ」

「行くのか行かないのかという意味だ」




エヌは店を出た。

振り向けば、看板が見える。

ボロボロに風化した看板は、始めた時と何も変わらない。

川で流れてきた、ただの木に書いた、看板。

【Rail】

これから再出発だな。

そう言ったエスの言葉が蘇る。

「再出発……か」

エヌは、ふぅと肩を落とした。

「じゃあ俺は再々出発だぜ、エス」

看板に背を向け、歩き出す。

エヌは、新しい職場へ。

エスは、慣れた仕事場へ。



5年が経つ。

「エヌ……今度は……どんなのを?」

「まだ分からん。一度設計図を送ったんだが、返事がこない」

「ん……エスも……忙しいから……」

「……そうだな」

何だよ。今だに世話になってんじゃねぇか。

エヌは心の中で言いつつ、苦笑する。

『設計図がザツいぞ、エヌ』

そんなエスの苦笑いする声が、耳の中で聞こえた。


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