search 0.~キルの場合~
「くっそ……ついてくんな!」
街を走る『少女』。後ろを追ってくる、たくさんの大人たち。
「待て、止まれ!」
「もう懲りろ!」
「また捕まるんだぞ、『脱走女』!」
ちっ。
舌打ちをした。
短く切った髪は男のようで、なびくような髪はない。
泥だらけのスニーカーに、破れたジーパン、黒い長めのコート。
「もうちょいスピード上げるか……」
荒い息でそう呟き、大人たちを一瞥して、ペースを上げた。
「はぁっ……はぁ……もう来ないか……」
18歳の少女は、額を流れる汗を、乱暴に肩で拭った。
「誰も来ないよな……」
息を整えながら、髪も手グシで整える。
暗い街灯のない道だった。歩いても街灯はなく、反対に光は少なくなっていく。田んぼや山が多くなり、ついにアスファルトの道も途切れた。
「いっ……て!」
足を瞬時に真上に上げた。見ると、木のトゲが刺さっていた。
「ったく……」
また乱暴に引き抜いて、道を進んだ。
少女は、大人が嫌いだった。
自分を捨てた親も、入った施設の先生も、すれ違う度にひそひそ話をする大人も。
いつも施設から抜け出して、逃げた。
ついたあだ名は、『脱走女』。
問題児と言われ、大人に嫌な目で見られ、ついに子供も寄ってこなくなった。
汚い身なりで歩く少女に誰も助けの手を出そうとはせず、むしろ遠ざかっていった。
「着いた……」
少女が見上げた場所は、小さいつぶれた車だった。
誰にも乗られず、置き去りになった車。なんだか自分のようだと、一目で気に入った場所だ。シートにまで草が生えている。錆びた車体に近づき、少女はドアを開けて乗り込んだ。脱走するといつも雨をしのいでいる場所だった。
「……え、ねぇってば」
はっと目を開けたキルは、誰かに体を揺さぶられていることに気付いた。いつの間にか寝てしまっていたらしい。
見つかった。
瞬時にそう思った少女は、飛び跳ねるように起き上がって、その手から離れた。
「誰だ!」
くるっと相手を見た。そして、ぽかんと口を開けた。
「あ……大丈夫かなって……ごめん……迷惑だったかな……」
とぎれとぎれに話す相手は、眠そうに目をとろんとさせた男だった。きちんとした服装で、こぎれい。自分とは全くかけ離れた格好だ。いつものくせで、ムッとする。
「……何だ、お前」
「ん……俺……チシャ」
チシャ? 少女は吹き出した。
「何だ、ハーフか? それにしちゃあ日本人顔だな」
「そりゃ……純日本人だから……」
少女は首を傾げた。
「ほら、私は大丈夫だよ。分かったらさっさと行っちまえよ」
しっしっ、というように手を動かす。
「あ……一つだけ……」
「何」
内心いらいらしながら、少女は聞いた。
「探偵……とか……興味ない?」
ふにゃっ、と、相手―チシャ―の顔が緩んだ。笑う、というより、緩む、という感じだった。
「探偵?」
何でそんなこと聞くんだ。少女は聞き返した。
「俺……探偵なんだ……今……仲間を集めてて……」
「はぁ?」
一体こいつは何を言ってるんだ?
少女は眉をしかめた。
「もっと頭の良さそうな奴を誘えよ。私なんて誘うな。邪魔になるだけだ」
「君の……頭が悪いなんて……君が決めたこと……だろ?」
ふん、と少女は鼻で笑う。
「そうだよ。私はバカだ。それはこんだけ生きてきてりゃ嫌でも分かるっつの」
鼻であしらった。
気付きたくなくても、気付いてしまう。自分が無知で、誰にも認められないこと。
自分より何かをはるかに知っている大人がなぜか憎らしくて、いつも避けてきた。
お前は何も知らない、と思い知らされるのが嫌いで。上から目線は遠ざけてきた。
「使いようによっちゃ……伸びる」
え?
少女は耳を疑った。
「伸びる?」
「ん……その見た目で……伸びると思った……」
チシャは手を差し出してきた。ぎくり、と心臓が跳ねる。長年の勘だ。
いつも大人は優しそうな顔をした。でも捕まれば施設へ送り返されてしまう。手を差しのべられても、少女は絶対に自分からは手を伸ばさないと決めていた。そうすれば、手を出す大人もいなくなった。
が、チシャは手を差し出した。しかも、何もしてこなかった。
とても力強く、でも優しい手。
初対面なのに差し出された手は、いろいろな苦難を乗り越えてきたような手だった。
少女はその手にくぎ付けになった。
おずおずと遠慮がちに出されるのではなく、堂々と、手いっぱいに力が込められていた。
そうか。
少女は思った。
私が、私が欲しかったのは、これなんだ。
自由とかカッコいいものじゃなくて。
仲間が、欲しかったんだ。差し出してくれる助けが、欲しかったんだ。
自分を認めて、話しかけて、分かってくれる、そんな仲間が。
こんな自分でも、しっかり助けようとしてくれる、そんな手が。
手を握ることはしなかったが、少女は動いていた。
自分が気付いた時には、少女の体は車から出ていた。
「ん……君……名前は?」
チシャに聞かれて、少女は首を振った。
「ない。あったはずだけど、覚えてねぇや」
チシャはまた顔を緩ませた。
「そう……じゃあ名前も……必要だね」
気付けば、5年。
当時18歳だった少女は23歳の『男にしか見えない女』に変貌していた。
『キル』と名前を変えて。
……あれ?
コメディー要素が…ない(´Д` )
すいません。
過去の話は真面目にしてますね…
多分この次も真面目な感じに…なるかと思います…
けど!ちゃんとコメディーに戻しますから!
彼らを嫌いにならないで下さい!笑




