第7話『情報屋』
雑踏縫いながら、ロウア―マン・ハッタンメインストリートを進む。
「それで、これからどうするつもりだ?」
横を歩くマーカスは既にやさぐれた感じはなく、背筋を伸ばしながら横を歩いていた。
「とりあえずは、情報収集しかないんだけどもな。なんせ、分かっていることが少なすぎる」
「ふん、分かっていることと言えば裏社会が絡んでいることぐらいか。あとは、出張ってきている連邦警察も気になるな」
忌々しげに吐き捨てるマーカスを横目でちらりと見て、視線を前に戻す。たしかに、連邦警察が出てきていることは気にかかる。
なんにしても、情報が少なすぎる。殺人の目的も、方法もすべてが不明瞭だ。
「ウィル、当てはあるんだろうな」
「気は進まないが、クレメンザのところに行ってみようと思う」
「情報屋クレメンザか。なるほど、確かにあいつなら何か知っているかもしれにないが……」
苦虫を潰したような顔をするマーカスの背中をぽんと叩く。気持ちは分かる、俺だって出来ることなら関わりたいとは思わない。
「ウィル、そこまでこの事件を追う理由はなんだ。ネタだけがすべてじゃないんだろ?」
「あぁー、誠に言いにくいんだがなんとなくだ。なんとなく、ただなんとなくこの事件の裏には何かヤバイものがあると思う」
「けっ、お前の悪い癖だな」
吐き捨てられた言葉を右から左に聞き流し、裏路地を進んでいく。会話はそれきり途絶えた。
マーカスとしては警察として、裏社会の人間であるクレメンザを頼ることには多少抵抗があるのだろう。それでも、情報があまりにも少なく手づまりな現状を打破するにはこれがベスト。
「それにしても、こんなところに本当にいるのかよ?」
塗装がはげ壁にひびが入ったビルの隙間を縫いつつ、路地を歩いて三十分。周囲にはすでに浮浪者の影すら見当たらない。
「昔と同じ方法なら、そろそろだと思うんだけどな」
情報屋クレメンザと会うための方法は大きく分けて二つ。クレメンザに繋がる要人にアポを取りこちらから接触するか、クレメンザ自身にこちらを見つけてもらい接触してもらうか。
前者は各界の大物じゃないとほぼ不可能なため、俺たちが取りうる手段は後者。そして、昔と方法が変わっていなけらばそろそろアクションがあるはずだ。
路地をさらに奥へと進む。開発に取り残されたビルが日差しを遮り、どんどんと周囲は薄暗くなっていく。
「そこのお兄さんたち、こんなところで何をしているんだい?」
突然後ろから声を掛けられ、後ろを振り向く。
「おっと、お願いだから懐のものは抜かないでおくれよ?」
そこに居たのは少年だった。身なりからするに、どうやら浮浪児のようだ。マーカスに目配せをして、懐に突っ込んだ手をもとの位置に戻した。
「お兄さんたち、情報屋に用事かい?」
どうやら当たりを引いたようだ。
「あぁ、クレメンザに用事があるんだが。少年、何か知ってるかい?」
「そうだろうと思ったから声をかけたのさ。クレメンザの旦那からお手紙さ、受け取んな」
少年から手紙を受け取り、代わりにチップを渡してやった。少年は振り返ることなく路地裏へと消えていった。
少年の姿が見えなくなり、周囲に人の気配がないことを確認してから手紙を開いた。
『スウィート・ベットウィーンへ行け』
手紙にはそれだけが書いてあった。