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第6話「マンハッタンウォーカー」

 アパートを出てメインストリートまで歩き、蒸気自動車を捕まえてクイーンズ通り134番通りに着いた。

 車にチップを払い、事件があったという公園まで歩く。

 公園の周囲は既に警察によって封鎖されており、それを取り囲むようにハイエナ同士がカメラ片手に群がっていた。

「どんな感じだい?」

「スタンリー新聞社か。見ての通り、警察に締めだされて写真一つ撮れやしない。おっと、迂闊に写真を撮ろうとするな、さっき記者の一人が写真撮っただけで連行されやがった」

 近くにいた記者に話しかけると、苦虫を噛み潰したような顔をして公園を囲む警察を顎でしゃくって見せた。

「おいおい、嘘だろ? 写真を撮っただけで?」

「あぁ、おかげで俺たちもこれ以上は近寄れねぇんだ。お前さんもあきらめな」

 遠巻きに封鎖している警察を眺める。知り合いの警官でも居ればと思ったがどうやら居ないようだ。そもそも、居たとしたらこんなに静かなわけがないか。

 写真を撮っただけで連行だなんて、上司相手でもあいつは黙ってるやつじゃないもんな。

「ん? おいおい、マジかよ……」

 警察がつけている装備を見て驚く。あれは市警察に配備されているものではない。

 いよいよもって、きな臭くなってきた。ただの変死事件じゃない。


 その後少し粘ってみたが、公園の中には入れそうもなかった。一人、また一人と切り上げていく記者に混ざって俺も公園を後にした。

 事件を教えてくれたバイナムの旦那なら何かを掴んでいるかもしれないが、その前に寄るところがある。

 地下鉄に乗ってロウア―・マンハッタンまでやってきた。地下鉄から五分ほど歩いたところで、目的の古いアパートメントにたどり着いた。

 ドアノッカーを叩いて少し待つと、ドアが半分ほど開いて中から一人の男が顔をのぞかせた。

「なんだ、ウィルか。何の用だ」

「いやー、ちょっと話を聞きたいなーと思って」

「帰れ」

 ドアを閉めようとしたところで、片足をドアの隙間に差し込む。

「つれないこと言うなよ、マーカス。こっちも知っていることを話すから」

 少しの間沈黙が流れた。その間にもドアを閉めようする力は緩まず、ギリギリと足を締め付けてくる。

「ちっ」

 マーカスは舌打ちをひとつして部屋の奥へと戻って行った。どうやら話をする気には多少なってくれたらしい。

「邪魔するぜ」

「あぁ、邪魔だ。帰れ」

「そう言うなよ」

 小さな部屋にパイプ式のベッドと小さな机、そして部屋の隅に本棚が一つあるだけの質素な部屋。俺は机の椅子を引きよせて腰を下ろした。

「それで、変死死体が見つかったと言うのにマーカス警部補はなんでまた家に籠ってるんだよ」

「警部だ」

「なんだ、いつの間に昇格したんだ?」

 マーカスは机に合ったマグカップを手にベッドに腰をおろして、こちらを一睨みした。

「それで、何の用だ。皮肉を言いに来たわけでもあるまい」

「半分以上は今言った通りさ。変死死体があったのはお前だって聞いてるはずだ。それなのに、あの場に居たのはあんたら市警察じゃなかった。あいつらは何者だい?」

「やつらは連邦警察さ。突然やってきて、いきなり俺たちの事件をかっさらって行っちまいやがった。立てついたら自宅謹慎だとかほざいて、手帳と拳銃をぶん捕られたのさ」

 マーカスは忌々しげにそう言うと、マグカップを一気に呷った。匂いからすると、おそらく酒だろう。

「おいおい、連邦警察がいきなりやってくるたぁ尋常じゃねぇな。事件の裏に何があるんだ?」

「それを俺が知っていて、おとなしく自宅で安酒を飲んでいると思ってるのか?」

 ぎろりと睨んでくる目は、真っ赤に充血していた。おそらくは怒りを抑えるためかなりの量を飲んだのだろう。

「お前は拳銃片手に犯人を追いかけに行くだろうな」

「分かってんじゃねぇか」

 マーカスは、ふんと鼻をひとつ鳴らして近くに合った酒瓶に手を伸ばす。俺は先にその酒瓶を回収して、机の上に置く。

「おい」

「まぁ、待て。話を聞け。今回、市警察はどこまで情報を掴んでいる?」

「死体に共通点があることと、あとは怪しい連中がニューヨークに入り込んだ痕跡があることぐらいだな?」

「死体の共通点って、首がないことか?」

「首なしの件だが、鋭利な刃物で切り落とされたのではなく何か凶暴な獣に喰われたような跡がすべての死体から見つかっている」

「なんだそれ、動物園からライオンでも逃げだしたってのか?」

「それなら話は簡単でどれだけ楽か、そこが分かれば俺たちだって苦労はしていなかったさ」

 ごもっともだ。何かに食われたかのような傷跡か……。

「怪しい連中って言うのはなんだ?」

「秘密結社の一部がニューヨークに紛れ込んだという噂がある。こっちのほうに関しては、ある程度の証拠はあるんだがな」

 秘密結社か、それはそれでネタにはなりそうだが。

「それで、お前が知っているというのはなんだ?」

「この事件、裏にはマフィアの影がちらついている」

「なに?」

 マーカスの目つきが変わった。マグカップをわきに置いて、こちらに身体を向け直している。

「バイナムからの情報か?」

「いや、クリスの店の子がそんな話をしていたらしいんだ。バイナムの旦那に確認を取ったら、確かに不穏な動きはあったらしい」

「秘密組織に、マフィアか。たしかに、繋がるとしたらありえん話じゃないが。どこの組だ?」

「マランツァーノのところらしい、そっちは旦那に今探ってもらってて情報待ちさ」

 マーカスは、顔の前で手を組み何やら長考に入った。話しかけるのを控え、その様子を見守る。

 やがて、マーカスは顔をあげた。

「何が望みだ?」

「手を組もう。俺は事件の情報を記事にでき、お前は事件の真相を追えば良い」

 視線が交錯する。マーカスにしても、この話は悪くない話だ。

「足を洗った今でも、相変わらず危険に首を突っ込んでいるのか」

 やがて、そう呟くとマーカスは腰を上げて台所のほうへと歩いて行った。台所から水の音が派手に響き、頭から水をかぶったマーカスが戻ってきた。

「準備をするから外で待ってろ、協力してやる」


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