幕間『回廊の狭間にて』
チクタク、チクタク――
カチコチ、カチコチ――
それはまるで、時計の針が動く音のような。
それはまるで、ゼンマイが回る音のような。
あぁ、これは夢なのだと理解するのに時間はかからなかった。
俺は椅子に座りながら、音を聞いている。
ふと、目の前にも椅子がありそこに誰かが座っていることに気づく。
「生贄は捧げられ、嘆きの声はだれにも届かず」
それは男の声だった。
「正気は停滞し、狂気が加速する」
目の前の人物に目を凝らすが、その姿がはっきりとは見えない。
否、見えてはいる。見えて入るのに、認識が出来ない。
長身痩躯のようにも見え、小柄な少年のようにも見え。
「時は満ちた。舞台は整った。役者は揃って、客も満員」
チクタク、チクタク――
カチコチ、カチコチ――
ふと、男の背後に視線が動いた。先ほどから聞こえ音は、男の背後から聞こえる。
「幕は開き。賽の目はすでに出ている、機械仕掛けの神だけが物語の結末を知っているぞ」
男の言葉に嘲笑の響きが含まれる。その声を聞くたびに、体の芯の部分がざわつく。
不吉な声。体中の細胞が、この男は不吉だと叫ぶ。
「歌い、騒ぎ、踊り、演じきれ。お前は、果たしてフィナーレにたどり着けるかな?」
男の背後にうっすらと見えるものがある。あれは、たしかそう。
階差機関、それも見たこともないほどに大きな。
「足掻け人間、踊れ人間」
歯車がチクタクと回り、カチコチとゼンマイが動く。
「さぁ、舞台は再び動き出す」
そして、世界が光に包まれた。