第4話『ブルーベリー・ヒル』
セントラルパークを後にして、地下鉄を使って他の現場へと足を運んだがすべて空振りに終わった。
ただ、第二の殺人現場を後にするときに近くにあった公衆電話から、今日の夜に知人と会う予定を取りつけれた。
セントラルパークを含め五ヵ所全部の現場を見終わる頃には、ちょうど日も暮れてきていた。
「さてと、収穫は予想通りなしか。待ち合わせの場所に向かうかねぇ」
満員の地下鉄に身体を滑り込ませ、郊外から再びセントラルに戻る。
駅から吐き出される人の波にもまれながら、路地裏を抜けて一つのBARへと入った。
薄暗い店の中には数名の客がいるだけで、目的の人物はすぐに見つけられた。
カウンターの端に座る男の隣に腰掛け、マスターにお酒を一杯頼む。
「やぁ、バイナムの旦那。景気はどうだい?」
「まぁまぁだな。お前のほうも元気そうじゃないか」
「こっちも、まぁまぁと言ったところかね。それにしても、マフィアの景気がまぁまぁとは、物騒な世の中だなぁ」
「ふん、文屋の景気が良いよりは幾分まっとうな世の中さ」
マスターからそっと差し出されたグラスを受け取り、バイナムの旦那とグラスを合わせる。
エリウッド・バイナム。ニューヨークマンハッタンを拠点に構えるマフィアの幹部。気さくで軽口をよくたたくが、裏の世界では名前の通った武闘派だ。
「それで、俺に何の用だ。いきなり酒に誘って、昔話がしたいわけでもあるまい?」
「まぁ、ちょっとした取引を持ちかけようと思ってね」
バイナムの目に一瞬剣呑な光が見えたが、彼はグラスに残っていた酒を一気に呷るとマスターにあたらあしい酒を注文した。
「マスター、ブルーベリー・ヒルを頼む」
彼はマスターにチップを渡すと、店内にゆったりとバンドマンによるジャズが流れ始めた。
「厄介事か?」
「まぁ、そんなところだ」
グラスの中の酒を揺らしながら、声をひそめる。
「ここ半年の間に起こっている変死事件について知ってるか?」
「あぁ、例の首なし死体だろ。警察が近々懸賞金をかけるって話だ。それがどうした?」
「マフィアが絡んでいるって話だぜ?」
旦那の眉間に深いしわが刻まれた。二人で酒をゆっくりと飲みながら、何気ないしぐさで周囲をうかがう。
「確かな情報か?」
「残念ながら、裏は取れていない。だからあんたに話しに来たんだ。何か知らないか?」
「馬鹿を言え。俺たちマフィアが殺しをするときは、常に闇の中だ」
空振りか。旦那でも知らないとなると、いよいよ当てがなくなってくる。
「ということは、やっぱりガセだったのかね」
「いや、少し待て。関係があるかは知らんが、確かに最近妙な動きを耳にしたことがある。マランツァーノのところがここのところ急に活発な動きを見せ始めやがった」
「マランツァーノと言えやぁ、旦那のところと同規模ぐらいの大型マフィアじゃねぇか」
「あぁ、抗争の準備を始めているのかと思いきやそういうわけじゃなさそうなんでな。うちの連中も、おかげで最近は気が立ってやがる。くだらねぇ噂だと思っていたが、やつらの後ろに怪しげな連中がついたって話だ」
マフィアと怪しげな集団。少しずつ点と点が繋がってきた。
「そうか、可能性としては今はそこが最有力か」
「お互い禁酒法でのし上がってきた者同士、うちとは商売敵だからな」
そう言って、旦那はグラスの中に入っていた酒を飲み干し席を立った。
「少し歩きながら話そうか」
俺も残っていた酒を飲みほして、マスターに金を払ってBARを後にした。