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第16話『夜に浮かぶ謎』

 クレメンザからの情報を得て、俺はしばしの間考えこんでから現場へと向かうことにした。クレメンザが俺を利用するつもりなのは明白だが、その真意を未だ測りかねている。

 ホルスター付きのサスペンダーに拳銃をしまいこみ、その上からコートを羽織り足早に事務所を後にする。携帯型電話でマーカスに事情を話したところで、営業型蒸気自動車を捕まえて行き先を告げる。

 マーカスにはクレメンザのことは伏せて、知り合いのタレこみ屋からの情報だと言ってある。

 死体が発見されたのはリトル・イタリーと呼ばれるイタリア街。バイナムにも連絡は入れたが、おそらく縄張りの関係上現場までやってくると言うのは難しいだろう。それに、おそらくは連邦警察もすでに動き出している可能性が高い。そうなれば、マフィアであるバイナムが現場の近くにいると言うのは何かと都合が悪い。

 現場の近くで自動車を降り、運転手にチップを払う。クレメンザから教えてもらった現場までゆっくりと近づく。

 スラムを横切らないように注意しながら、路地を通って現場を見える通路へと身を滑り込ませる。建物の陰から教えてもらった場所を覗き込むと、案の定連邦警察が既に現場を押さえていた。


 遠目で現場を探っては見るものの、さすがに距離があるうえに警戒が強いため被害者の姿などを見ることはできない。

 ひとまず現場の位置の確認はできたので、足早にその場を立ち去りあらかじめ決めていたマーカスとの合流場所へと向かう。

 事件現場から20分ほど歩いたところにある公園に、マーカスがたばこを吸いながら待っていた。マーカスはこちらに気づくと、タバコの吸い殻を地面に落とし、靴の踵で踏みつぶす。

「それで、どうだった?」

「まぁ、予想通り既に現場は抑えられていたよ。現場のほうも固められちまってて見ることはできなかった」

「ふん、さすがは連邦警察ってところか」

 軽く首でマーカスに合図を送り公園を後にする。

「ウィル、お前はどう思う?」

「質問が漠然とし過ぎているな。何についてだ?」

「この事件について、これだけ犠牲者が出てきているのに犯人像が全然見えてこない」

 尾行に気をつけつつも、歩きながら会話を続ける。

「犯人像もなにも、犯人グループはすでに分かっているだろう?」

「そうだが、そうじゃねぇよ。組織的に見れば後ろにいるのはマランツァーノで間違いはねぇだろうけどな、殺しの実行犯について何一つ見えてきやがらない」

 そこまで言われて、ようやくマーカスの言いたいことが分かった。集団としての犯人はマランツァーノファミリーで間違いないが、一連の猟奇殺人の実行犯についてはあまりにも情報がなさすぎる。

「普通は殺害方法や殺害場所、現場の痕跡などからなんとなくだが実行犯の姿が見えてきてもおかしくはないはずなんだが、今回の件については殺害方法すら見当がつかない。一体どうなってるのやら」

 その問いに関する答えを、俺もマーカスも持ち合わせてはいない。そのことはこいつも分かっている。マーカスの問いを最後に、沈黙が横たわり靴と地面の擦れる音が響く。

 リトル・イタリーを抜けてシティー・ホール・パークに差し掛かるころ、携帯型電話が鳴り響いた。

「ウィルか?」

「その声はバイナムか」

「今どの辺に居る?」

「後5分も歩けばシティー・ホール・パークに差し掛かるあたりさ」

「こっちの準備は完了したからな、これ以上先延ばしにもできん。今夜のうちに襲撃を賭ける。フェデラル・ホールの向かいの建物までこい。そこからなら30分もあれば着くだろう」

 電話が切れて、マーカスにバイナムからの要件を伝えた。

「バイナムに同感だな。連邦警察の動きもある以上、時間が経てば経つほどに面倒になっていく。まして奴らの目的が分からない以上、襲撃を賭けるのなら早いほうが良い」

 マーカスと意志を確認し、俺たちは足早にフェデラル・ホールへと向かった。


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