幕間「嘲笑の祈り」
チクタク、チクタク――
カチコチ、カチコチ――
それはまるで、時計の針が動く音のような。
それはまるで、ゼンマイが回る音のような。
「塵は塵へ、灰は灰へ、命は命へ」
それは男の声だった。
「永久の時間は未だ訪れず、完全なる知は未だそろわず。三人の祈りは未だ天に届かず、福音の音は未だ響かず」
薄暗い空間。壁などないにもかかわらず、迫りくる圧迫感を与える闇。
「かくして無知なるものは追い詰められ、愚かなものは答へと到り、追手は包囲の輪をじりじりと締めあげる。」
薄暗い世界。光などどこにもありはしないと言うのに、うっすらと眼前に座る存在とその後ろにあるものを知覚出来てしまう。
「舞台は佳境を迎えようとしているぞ。司祭は高らかに歌劇を演じ、その終焉を高らかに歌い上げるだろう」
眼前の存在がにやりと笑う。楽しそうに、とても楽しそうに。
まるで、すべてを見下しているかのように。まるで、愚かだと言わんばかりに。
嗤う(わらう)。
嘲笑る
「さぁ、終幕の時間だ。誰もかれもが狂ったように嗤い踊る。最後に舞台にったっているのは、君たちか、それとも別の誰かか、はたまた観客なのか」
ガチリとゼンマイがかみ合う音が部屋にひびいた。
薄れゆく世界の最後、眼前の存在の奥に巨大な階差機関が見えた。




