第11話『暗がりの密談』
「おう、ウィル。それにマーカスも一緒か。良い所に来たと言うべきか、タイミングが悪いと言うべきか」
バイナムが仕切っている酒場を何件か訪れ、4件目にしてようやくバイナムと合流することに成功した。
出迎えてくれたバイナムに促されて、酒場に入る。中はすでに客を帰したあとらしく、テーブルに載っている小さな蝋燭がホールを薄暗く照らしていた。
席に着くとバイナムは酒を3つマスターに頼み、葉巻に火をつけてゆっくりと燻らせ始めた。
「さっきの言いぶりだと、何か進展でもあったのかい?」
「マランツァーノの一人を捕まえて尋問している最中なんだがな」
その言葉にマーカスはピクリと反応するが、何も言わず続きを促した。
「何か分かったのか?」
「なかなか進展はないな。いくつかの単語をうわごとのように呟いているが、はっきりしたことはまだ分かっちゃいないな」
「いくつかの単語?」
「あぁ、ほとんどは宗教的な言葉だがな。神様がどうだとか、夢の世界がどうだとか」
たしか、マランツァーノの一部が秘密結社と手を組んでいると言う話だったが、狂信者の類か。いつの世も、世界に争いをもたらす要因は愛と金と神様ってか。
「旦那、その捕まえた奴を見ることは可能か?」
「あぁー、まぁ可能ではあるが」
バイナムはちらりとマーカスに視線をやった。
「OK,俺はここで待っている。どの道見たくもねぇ」
「そう言ってもらえると助かるな、まぁお前さんとは今後も仲良くやって行きたいところだしな」
バイナムの言葉に、マーカスは顔をしかめてカウンターへと向かった。
「それじゃぁ、ついてこい」
バイナムに促され、億の扉へと進む。扉の奥は一本道になっており、幾つかの蝋燭が薄暗く通路を照らしている。
廊下の奥には木製のドアがあり、ドアノブに頑丈な鍵が掛けられていた。
バイナムは胸ポケットから真鍮製の鍵を取り出し、鍵をとりはずしドアをノックする。すると内側からもガチャリという音が聞こえてきた。
「ずいぶんしっかりしているんだな」
「万が一にでも逃げられるわけにはいかないからな」
そしてバイナムがドアを押すと、軋んだ音を立てながドアはゆっくりと開いた。