第10話『真相のしっぽ』
「クレメンザ、情報が欲しい」
「そりゃぁ、そうだろうさ。むしろ私のところに電話をかけてくる人間で、それ以外の要件を持つ人間は居ないと言ってもいいぐらいだ。さて、それで君は何についての情報が欲しいのかな?」
周囲に気を配りつつ、なるべく声に感情が入りこまないように意識する。
「今、マンハッタンで起こっている連続猟奇殺人について知りたい」
「なるほどね、しかしその前に確認しておくことがいくつかある。君たちがそのことについてどこまで知っているかと君たちがいくらまで払えるかだ。君たちが知っていることを話したところで意味はないからね。もちろん、その中に私の知らない情報が含まれていたとしたらそのときは相応にサービスをするつもりりだ」
「すまない、少し待ってもらえるか?」
「どうぞ」
小型電話を耳元から外し、通話口を手で覆う。
「マーカス、ちなみに予算ってどのくらい出せる?」
「あっ? 今は謹慎中だし、そもそもそんな怪しいことに警察の予算は動かん。俺の個人的な財布にしても同じことだ」
「そこを何とか曲げてくれよ」
「ちっ、50ドルまでだ。それ以上は出さん」
マーカスの50ドルに、俺個人として出せるのも同じぐらい。あとは事務所から取材経費として何とか出せそうなのが……
「もしもし、待たせてすまない。150ドルまでなら何とか用意しよう」
「なるほど。では、そちらの知っていることと、知りたいことをもう少し範囲を絞ってもらおうか。事件について知りたいだけじゃぁ、範囲がさすがに広すぎる」
「こちらが知っていることは基本的に報道されている範囲のこと、それ以外では事件にマランツァーノファミリーが関与しているということ、そして連邦警察がこの件で動いていることぐらいだ。知りたいことは、マランツァーノファミリーに最近不審な人物が接触していないかと言うこと、何故連邦警察が動いているのかということだ」
「ふむ、その情報となると中々な値段になるが。まぁ、これも何かの縁と思おう。マランツァーノファミリーについては、最近幹部の一部が外部の人間とあっているらしい。それが奇妙な人物で、性別は男らしいんだが国籍どころか人種すら分からないらしい」
「国籍はまだしも、人種もだって?」
「あぁ、流暢な英語を話すんだが東洋人にも欧米人にも見えないって話だ。そして、連邦警察の件だったな。こっちについては、我らが故郷、大英帝国が関与しているらしい」
「大英帝国だって? ちょっとまて、それはまさか……」
「最後にこれはサービスだ。先ほどの不審な男に関する情報なんだが、その男はさっきも言ったように人種も何もわからないが、黒く、一目見てわかるほどに不吉な男だそうだ。では、金の振込先は君の事務所にでも送らせてもらうよ。また、縁があれば」
電話は一方的に切られ、そのことを知らせる電子音が電話口の向こうから聞こえる。
「何か分かったのか?」
マーカスは、ビールを飲み干しながら尋ねてくる。
「マランツァーノファミリーに不審な人物が接触しているらしい。それと、連邦警察の裏には大英帝国があると」
マーカスが少しだけ咽た後、口の周りに着いた泡を拭いながら眉間にしわを寄せた。
「大英帝国だと!? 連邦警察を動かせるだけの力がある人物と言えば……」
「あぁ、まず筆頭に来るのは女王陛下、あとはエドワード少将あたりか。どちらにしも大物だ」
そして、最後にクレメンザが言っていた言葉。一目見ればわかる、不吉な男。
思い出されるのは、今朝に見た夢だった。普通に考えればたちの悪い妄想にすぎないが、俺の人間としての、生物としての本能が危険だと訴えかけてくる。
しかし、今回の件にマランツァーノファミリーが関与していることはほぼ間違いなさそうだ。ならば、後はそこから情報を繋げていくしかない。
「なんにしても、後はバイナムの旦那と合流してから情報を共有してだな。向こうでも何か掴んでいるかもしれない」
そういって、俺は無愛想なウェイトレスを呼んで2人分のチップを払い店を後にした。




