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第69話・バレエの生徒は目立つ

 ある日の夕暮れ時、オフィス街を歩いています。

 どうしてみんな、うつむいて本当に疲れた顔をしてあるくのだろうか?

 仕事で体力全部使い果たしてあとは家に素直に帰宅してご飯を食べて寝るだけなんですか?

 何となくかわいそうに思えてくる私。いや、気持ちはなんとなくわかる。おもしろくない職場、働きがいのない職場、職業に誇りをもてない職場だと就業時間が終わってやれやれ、と思っても次の朝がくるとまた同じことの繰り返し。これはつらい。

 そんななか、仕事が終わってさあこれからが私が私である時間だ、と思っている人はすぐにわかる。お稽古事、子供の相手、夕御飯をつくるのが大好きという人もいるだろう。恋愛中の人はまさに夜は恋人の時間。

 そういう私の時間って思っている人の中、これからバレエをするという人は大変にわかりやすいのではないかと思います。シニョンにして首長く、背筋まっすぐで。ポワント等持ってるので結構かばんはかさばるし、お衣装も持つなら満員電車の中では周りの人の邪魔になるぐらい場所をとります。バレエをしている人同士では何らかのテレパシーが働くらしく教室が違ってもなんかあの子バレエしてるね絶対! とかいう感覚が働きます。


 いきなり脈絡ない思い出話をします。

 思い切り若いころバレエの発表会の帰り、遅い時間だったけど電車にのって花束とかお菓子の入ったかわいい紙袋におおきなチャコットのロゴの入ったバッグを持っていました。お化粧をおとした顔、オールバッグにしてグリースをつけたままてかてかしたシニョンヘア。目立っていたのだろうと思います。まわりの人の視線、特に男性全員が私を見ていてにこにことしています。こういう視線に不慣れな私は恥ずかしくて終始うつむいて立っていました。あの頃は私も(一応は) かわいらしく見えたのだろうと思います。

 私でさえこういう思い出話ができるのですから、もっとモテまくった人も相当いるでしょう。

 バレエをしている若い少女たち、もしくはチビちゃんたちが群れをなしているのもかわいらしいし、1人だけでもすくっと立っていると、プロのモデルさんみたいな風格が出てあたりを払うようなオーラというか威厳が出る子もいる。

 バレエをしていると普通に立っているだけでも背筋がぴんと伸びているからわかる。

 かくいう私もヘタながら、全然関係ない人から「あの、あなた、何か踊りかされてますよね? 背中がぴんとしてらして~」 とほめられたことがあるのです。


 先日繁華街を歩いていたらどう見てもバレエをしているらしき少女数人と先生らしき人が団体を組んで歩いていました。まあ目立つこと、目立つこと。

 大きな荷物をもっていらして、これから楽屋入り? かしらと思うような。そして張りつめた思いつめた表情、メークこそしていなかったけれど先生(らしき人) も生徒さん達も脇目もふらずさささと早足で歩いていく。


「さてはどっかのコンクールの予選の下見かなにかかな?」

 多分当っているでしょう。あの緊張感は半端なかったので。ちょっと怖いような感じ? やくざさんだってあれだとどうぞ、とよけて通してあげるでしょう。

 少女たちの本物の戦いは生死の関係こそはないけれど、でも青春が全部かかっているのです。そのくらいコンクールで本気出している子は凄味出します。

 そして舞台上でプリンセスになってにっこりと華やかに笑う…風よりも軽く踊りながら。





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