第61話・懺悔話
バレエをやっている人で「森下洋子」 さんのお名前をご存じない方はまずいないでしょう。
彼女は私ごときがここでわざわざ書かなくとも日本の誇るバレリーナです。
森下さんは身長150センチしかなくて小柄な方です。一般的には体型不利です。しかし彼女はプリマ。天才バレリーナは体型なんかどうでもいいと思わせるぐらいのバレエが踊れるのです。
どんな役柄の踊りでも踊りこなせる度量の大きさ、繊細な感情もバレエを通して観客に訴えることのできる希有な存在感あるバレリーナ。時の男性ダンサーのヌレエフさんの相手役に抜擢されたときは名誉なことであったし、バレエ後進国であった日本にバレリーナ「森下洋子」 ありと、世界に知らしめたこの功績は大変に大きい。
と、いうわけで…なぜ天下の森下洋子さんの話を私が? と数少ない読者様は思われるでしょうか?
実は過去、私は彼女に対して失礼なファンレターを書いたことがあるので、今回はその話をしようと思います。
私、森下さんの踊り、好きなんですよ。特に白鳥の湖のオデット。
王子様と気持ちが通じ合う。その美しいパ・ド・ドゥ。王子様と引き離されるときにいやいやをするときのマイム、オデットの王子様を思う感情が森下さんの踊りを通じて思わず涙がでてしまいます。
これは実際に舞台を観た人にしかわからないと思うが、本当に若いだけの元気なオデットも悪くはないが何年も踊りこなしてきた感情も何年も練りに練った熟練したプリマでないとできないのではないかな?
私はそう思いました。ずいぶん大昔の話だけど。
…そう思っておくだけでいいのに、私はよせばいいのに、彼女にファンレターを送ってしまい、墓穴掘りました。
ここでは匿名なのでなんでも書けます。このさいあやまっておこう。森下さんがここを読むとは思いませんが読者さんにもあきれられてもいいや、と思います。
森下さんへの踊りにあこがれと尊敬を綴ったへたくそな字体のファンレター。便箋と封筒だけは上品な花柄ではなかったかな?
そして最後に私はこう書きました。
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森下さん、たまには踊る相手を変えられたらいかがでしょうか。
清水さんとばっかりでは飽きませんか? 海外にいっぱい良い相手があるのに、清水さんが自分以外の別の人と踊ってはダメというのですか? それならとっても残念です…。
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森下さんから返事が来ないのも当然ですね。森下さんと清水さんはみんな知ってるけどご夫婦なんですよ。夫婦別姓。
私は単純にたまには相手変えて踊れば? と軽い気持ちで書いたのですが、あとで友人にのけぞるほど驚かれたのでそれで気づいたんです。
「あんたっ! あんたは、まあー…森下さんにそんなこと書いて、
清水さんも傷付くよ、絶対!
私死んでもそんなこと書かない、って書けないっ!!」
す、すみません。
パートナーの相手変えない人って確かにいないことはない。ですが。
数回しか舞台を観てない見ず知らずの女が手紙をよこして、したり顔にアドバイス。読み手はさぞや腹がたつでしょう。
しかもこの書き方…詳細は忘れたのですが真意は上記の通り。清水さんもお怒りになったのではないでしょうか。洋子! こんなヤツの手紙は返事なんか書くな! 即刻ゴミ箱に捨ててしまいなさいっ! など…。
清水さん、森下さんの黄金のコンビがあってこそ今の松山バレエ団がある。
ごめんなさい。
ファンレターでは失礼しましたが森下さんのファンであるのは変わりないです。
以上懺悔話でした。