第60話・子供の時の発表会の思い出
私が生まれて初めてバレエの発表会に出た時の役柄は「ロボット」 です。
あんまりかわいくない、ウエストもないストンとした銀色の衣装。膝上でまっすぐに切られています。靴はいつものバレエシューズの上に銀の長靴をはいているように見せかけた銀の布が膝まで巻かれています。頭の上の髪飾りもなんにもなくて、ぐるぐるまきにした針金が上にアンテナのごとく建てられています。
そのような変な衣装で踊りました。観客様はぎくしゃくした動きを楽しむ? ちょっとかわったバレエだと感じたことでしょう。
よくプロのバレリーナのアンケートで、「はじめての発表会で何を踊りましたか?」 というのがありますが、私は「ロボット」 です。私にアンケートしようなんて思う人はまずいませんが、私は初舞台が「ロボット」 というのが悲しいです。妖精とかちょうちょとか、うさぎ、小鳥とか言える人がうらやましいです。
一緒に出た妹は「キャット」 チュチュ着た猫です。髪飾りはなくて猫耳になっていました。そして猫の尻尾を長くつけます。お衣装だけでは猫らしくはないですがそこは振り付けで猫らしくします。
私の初舞台のロボットなんか全然覚えてないのに、妹の猫の踊りの最初の出だしを覚えているって言うのは、もうあんなに小さい時の話なのに「ロボット」役が不満だったのに、他なりません。
当時はDVDどころかビデオなんかありませんでした。(家庭用はあったかもしれませんが親が機材を持っていませんでした)かろうじて写真が残っているのですが「ロボット」と「猫」が2人そろっているのを見ると明らかに妹の方がかわいい衣装です。
観にきてくださったおばたちも妹の衣装をほめますが、私の衣装なんか誰もほめてくれません。子供の発表会はいかに上手に踊れたかではなく、① 泣かずにちゃんと踊れたか? です。チビには上手下手は関係ないですから。そして② かわいいか、かわいくないか…です。衣装のかわいさでははっきりいって負けでして、私は子供心に悲しい思いをしました。
口に出して不満は言いませんでしたが、こうしてオバサン化した今でも残念に思う気持ちがあり、かつ私はこうして最初から誰にも注目もされずにひっそりと踊って最後の最後は腰か足を痛めて誰にも何にも言わずにひっそりとレッスン場を去るのであろう…という予測があります。
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以下はさらなる思い出話です。
個人的な楽屋内での話ですが、この教室にも初舞台を踏む幼稚園児達がいました。この時の演目は頭が着ぐるみのクマでした。テディ・ベアちゃんだったかと思いますが、衣装が超かわいい。
かわいい、いいね、の声が楽屋まで届かなくても、私たち自身がそう思うのですからきっと観にきたおじいちゃん、おばあちゃんも誇らしいでしょう。
そして私の隣にいた人が楽屋にあるモニター画面を見てため息をつきました。
「この子たち初舞台でこんないい役もらっていいわね、、振り付けもいいし。私なんかすみっこでしょぼい衣装でちゃちゃちゃと踊ってすぐ終わりだったわ」
その人も子どもからのバレエ愛好者。私と一緒です。その人は衣装よりも振り付け不満組でした。
「あのさ、超初心者のチビでも踊れる振り付けってあるんだから、しかもバレエの(←バレエという言葉を強調してお読みください) 振り付けでしょ?
あの時の先生に私、いいたいわ、手をアンオーにしたままの振り付けってどうよ? スキップで横の人と顔を見合わせてにっこりするだけの振り付けだったよ? ビデオ見るたびにイヤな気持ちになるんだー」
なるほど…衣装はどんなか覚えてないけどふりつけが嫌で覚えている人。かたや衣装が不満でふりつけなんか全然覚えてない私。
たかがバレエの発表会されど発表会。みんなも思い出がいろいろあるのだろう、そんなことを考えた楽屋での1コマでした。




