第55話・バレエ指導について
今回たまたまですが著名なバレエ教師とお話しできる機会があったので記念に書く。あちらは私のことを当たり前だが全く知らない。ましてやエッセイに書かれるとは思いもしないだろう。私との会話もほんの少しなのだがバレエっていいものね! という感情がほとばしりでて感銘をうけた。
その先生はもちろん元プロで、今は指導者。振り付けもする、コンクール指導もする。
実はその日のためにレッスンを受けた。そうでなければ会うことのできない先生だ。
レッスンが身の程知らずで受けたので非常にハイレベルだった。バーからしていつものメソッドと違う。息切れはないものの、できないの絶句。このクラスはできれば毎日受けないとこなせないと思う。実際毎日来る人も多そうな感じ。
いや~バレエって稽古事ととらえず、ちゃんと真面目にしようと思ったら「毎日」 レッスンしないといけないものなのです。長年していてプロのレッスン風景も見たことある人ならその感覚がわかると思うけど、バレエは厳しい世界です。
私はそういうところにもぐりこみました。上手な人の踊りも見たい、そういう好奇心つきで。かくしてセンターのクライマックスでいつものとおり苦手なアレグロでさらに苦手な振り付けがきた。テンポも最速で早すぎら…絶句。
とりあえず順番がきたので、仕方なくセンターに出て踊ったものの、5カウントももたず、だめだ、できないと踊りをさっとやめて端に引っ込んだ。
そうやっていつもの教室のレッスンもそうしてきたし、いつものとおりの感覚で引っ込んだ。他のできる人の邪魔しないようにね。
それを、その偉い先生は私の「そういうところ」 を見抜かれたわけです。他の生徒も多く1人1人に目配りなさりつつ私の動きも黙って見ておられたわけです。
レッスンの終了後、なんと短いが1対1でお話しする機会があった。初対面の生徒にはそうするようにされているのかもしれない。なんといっても著名な方だし、自分に会うのが目当てのにわか生徒も多いのだろうと思う。
するとその先生はおっしゃられたのだ。
「あなたね、一度音楽が流れてきたら、自分は踊れないと思っちゃダメ、ましてや音楽が流れているのに引っ込んじゃダメです。できなくてもいいから最後まで中央に出て踊りなさいね」
私が次の人のためにささっと引っ込んだのを覚えておられたのだ。いつもの先生はできない生徒や初心者がうろうろしていると、他の生徒の踊りが見えない、さっさと引っ込んで、と手で追い払うしぐさをされるので(私も最初されたときは大ショックだった) 厳しめの先生はそういうものだと思っていた。
実際知り合いの元某バレエ団員からも、観客にはわからなくともちゃんとできないと「それでもお前プロか!」 と楽屋裏緞帳がおりて、客が帰った後も楽屋に戻れず着替えられず、綺麗なお衣装を着たまま、代表者から満座の中罵倒されたことがあるとか聞いた。今有名なソリストも例外でなく、代表者から「恥を知れ!」 とずっとののしられ顔をあげられない状態もあったとかも聞いたことがある。踊ってお金をもらうというのはそういうものだと思う。だからプロ志望なら厳し目の先生で厳しいことを言われた方があとあとの精神的タフさに役立つかも、と思う。
まあ私の場合は単なるレッスンだけど、そういう流れの延長でへたは遠慮するものだと思っていたのでその先生にそういわれて、かえってびっくりしたのだ。これはうれしいびっくりだった。
どうせ踊れないなら即興で違うのを踊ってもこの先生なら怒られないかも。
その先生の門下にはコンクール受賞者やプロになったのがたくさんいる。私のいっている先生も受賞者やプロになった人もまあいるにはいるが今の時点では比べ物にならない。
どちらがどうとかは私ごときがいえることではないが、できなくともいいから最後まで踊れ! なんでもいいから踊れ! という先生の門下にいる方が生徒はのびるのではないか。




