第27話・プロ主役の大変さ
個人的に好きなバレリーナは何人かいますが一番好きなのは今でもグルジアの名花、ニーナさん。
綺麗だと思います。華やかだし。
ところでそのニーナさんのバレエ公演で1日目が眠りの全幕、2日目がドンキの時がありまして2つとも良い席で観れたんです。2日連続で観に行きました。もちろん彼女がその2つとも主役です。日替わりとかない。最初から最後まで主役。当然出ずっぱりです。
その時のちょっとした思い出話です。
眠りのニーナさん、もちろんきれいで文句なし。でもおとなしくみえたのです。他の人も感想は一緒だったみたいで、帰りの地下鉄で私の耳に以下の言葉が飛び込んできました。
「あれだったら全然大したことがないじゃん。私でも踊れるかも! 」
なんという強気の発言だろうか!
地下鉄のガラス窓を通して声のしたほうをみると高校生ぐらいの子が友達にいっている。シニョンヘア、立ちふるまいからしてバレエはしている。ごく普通の子にみえる。だけどこういういい方をするならば発表会で眠りの主役を踊るかバレコンで優勝経験がある子なんだろう。
多分若すぎて怖いもの知らずだったんだろうと思う。反感を買うというよりそのあまりの強気にこういう意気でなきゃ、バレエ団を代表する人になれないのかもしれないと思いました。弱気は損なんだろうと思う。ああいう子が海外でもやっていけると思う。それでなくとも日本人留学生はおとなしくて発言しないので何を考えてるかわからないと言われているらしいし。
そして次の日。ドンキ。ニーナさんこういうはっきりした踊りは得意!
きのうの眠りとはまったく別人になりきって、舞台を縦横無尽に踊りまくる。活気ある舞台に観客は沸きました。楽しい舞台でした。
私は思いました。
前日たいしたことないわって言ったあの子はこの舞台を見ていただろうかって。ドンキは派手な振り付けで楽しめる。だけど眠りとドンキと全く違う舞台を主役でほとんど出ずっぱりで演じ分けるというのは常人ではなかなかできないことではないだろうか。(多分外国公演だからそうしたのだろうと思う。)
やはりニーナさんはすごい。バレエ団を代表しかつ自分の名前を冠した公演で踊るというのはこういうことなんだ。明日の晩はまた違う劇場で主役を踊るし、その次も別の地方で主役踊るし。激職です。
またプリマというのはいわゆる公人になる。プライベートは確実に削られるだろう。彼女にだって人間だから悩みはあると思うが周りに認められた天才バレリーナってこうなんだ。眠りは気品がありドンキは凄味があった。これはなかなかできることではない。バレエを主役で何年も踊って観客を幸せな気分にさせるなんてなかなかできることではない。私はもう何年もトップはっている彼女を心から尊敬しています。