08 - 神様と林檎の木
超短い。それと挿絵の実験。
追記:いろいろあって挿絵削除。
気付くと真っ白な世界に僕はいた。
果てしない白。果てのない零。その中で小さく泣き濡れる少女を見つけた。
座り込み、膝を抱え、その膝に顔を埋めて泣く少女を、見つけた。
「どうしたの?」
僕は話しかける。
「私は何処へも行けないの」
そう言って、少女は泣いた。
「なぜ?」
と僕が訊くと少女は、
「この世界には私しかいない。何処へ行っても同じなら、何処へ行っても無駄、何処にも行けないわ」
と嘆いた。
だけど、と僕は思う。
「そうかな。だって現に君は僕と会ってるじゃないか」
「でも貴方は幻だわ」
少女は頑なだった。だからこそ、僕は頑なになろうと思った。
「僕が幻かどうかなんて、自分じゃ分からない。でも、だけど、君とこうして会話している僕は、僕だけのものだ。それは否定しないで欲しいかな」
僕は何故かとても冷静に答えていた。突然こんな場所に立っていることに驚きもせず、少女の言葉に耳を傾け、受け答えをしている。
……もしかすると本当に僕は、少女のために、少女と話をするためだけに創られた存在なのかもしれないな。
「……ごめん」
「いいよ」
少女の謝罪を、簡単に赦す。
「でも、じゃあどうしたらいいのよ」
少女は挑むように、縋る様に僕を見つめた。
どうしたらいいか、だって? そんなの、決まってるじゃないか。
「また、歩き出せばいい」
「……行きたくないわ」
「なら少し休めばいい」
「……どっちなのよ」
「どっちも。……でも、最後には歩きだして欲しいな」
そう言って僕は笑う。
だって、そうじゃないと楽しくない。ここに居るだけじゃ、何も始まらない。
始めるために、終わらせるんだ。その思考も思想も、君を縛り付ける全てを。
「……貴方はイイヒトなのね」
「どうだろう、イイマボロシなのかもしれないね」
少し笑ったような雰囲気がしたので、冗談で返す。
そして少女が顔を上げた。その泣き濡れた顔は、とても綺麗で、銀色の瞳は優しげに微笑んでいた。
「ありがとう。……お詫びと言っては何だけど、これを貴方にあげます」
そう言うと、少女はその左手を僕に差し出した。その手にはいつの間にか、真っ赤な林檎が握られていた。
「これは……林檎?」
「そう。でも、林檎じゃない」
それはどういう意味なのだろう。でも、悪い気はせず、むしろ良い気分だった。
「うん、ありがとう」
「それはこっちの台詞だわ。絶対その林檎を手放さないでね」
「もちろんだよ」
そう言うと同時、意識が揺らぐのが感じられた。
そっか、もう終わりか。
「ねぇ」
「何?」
僕は少女に話しかけた。
「君は何処へでも行けるよ。歌でも歌いながら、ゆっくり行けばいい。また僕みたいなお節介が現れるかもしれないしね」
そう言うと、少女はクスクスと笑った。
「そうね、いい加減ここで愚図ってるのは駄目ね」
「うん。っと、そろそろ限界かな」
僕の体が下半身から消えていくのが分かる。
「じゃあ、バイバイ」
「ええ、またいつか会える時を楽しみにしておくわ」
また会うのだろうか。それはそれでとても楽しみだ。
「うん、またね」
「バイバイ」
何度も別れを惜しむ言葉を告げながら、僕の体は消えていき、まさに消え失せる寸前。
ドクン、と。手に持った林檎が、僅かに脈打つように感じられた。
◆ ◆ ◆ ◆
自分以外誰も居なくなった空間。
その中で一人少女は立ち上がり、新しい一歩を踏み出した。
数歩歩き、少女は口ずさみ始める。誰もが知っていて、誰もが知らない歌を。
どうも。
絵を描いてから、ストーリーを考えました。
ちなみにこの絵は、ニコニコ動画で活躍をされているハチさんという方のアルバム「OFFICIAL ORANGE」の中に収録されている「神様と林檎飴」という曲をモチーフに描きました。
たぶん、歌詞の内容とは全く違うストーリーになっていると思います。あまり気にせずとも良いかと。
それと、今回は挿絵とか挑戦してみました。猫神とかRe:とかでは使う気ないのですが、好き勝手出来るここなら許されるかなーと。あんま見てる人もいないことですしね。
ではではー。




