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07 - 蒼天の一番星

 この物語はフィクションです。現存するいかなる小説とも関係がありません。なんか「あれ?これアレじゃね?」とか思っても気のせいです。

 以上を了承された方のみお進み下さい。

「ぐあああああああ!!!」

「おい、大丈夫か!? ………畜生ッ! 魔物のヤロウばかすか魔法撃ちやがって!!」


 男は、隣で爆発に巻き込まれた戦友を一瞥し、生きていることが分かるとすぐに治癒術師を呼ぶよう風魔法で後衛に伝えようとした。

 しかし、爆発の影響か周囲には砂塵が舞い、風が乱れており、男の力量では伝える事は出来ないことが分かった。


「くそったれ!! おい、今はとりあえず止血するから意識だけは落とすなよ!!」

「ぐぁ………、く、俺はもう駄目そうだ………。早く逃げろ、この砦はすでに落ちたも同然だ。早く逃げないと魔物に殺されちまう」

「ならお前も一緒に………!」

「馬鹿野郎! 俺がいたら逃げられるもんも逃げられなくなるだろうが!!」


 その言葉に、男は息を呑む。その行動は戦士として哀しいほどに正しい決断だった。つまりこの戦友は、自分を置いて逃げろと、そう言っているのだ。


「し、しかし………」


 なおも渋ろうとする男の肩を、後ろから走って来た部隊長が勢いよく掴んだ。


「おい何やってる! さっさと逃げるぞ!! ………く、怪我人か」

「部隊長………、この馬鹿さっさと連れてって下さい。俺は足手まといになってしまいますので」


 その言葉に部隊長は顔を顰め、数秒。次の瞬間には歴戦の兵士相応の鋭い眼光でこう言った。


「………殿しんがりは任せたぞ」

「ハッ!」


 その言葉は、部隊の為に死ねという命令。しかし怪我を負った兵士としては、これほど嬉しい言葉はない。

 部隊長が自分に殿を任せてくれた。たとえ自分が死んでも、名誉は残る。

 そういった考えだった。そこまで気を使ってくれた部隊長に、感謝した。


「た、隊長! それでは………」

「黙れ!」


 納得できなかった男の口から声が漏れるが、部隊長の叱責が飛んだ。


「ここでそれを言うな。あとでいくらでも怨嗟の声は受け止めよう。しかし、今は逃げる時だ」

「………ッ!」


 男も気付いたのだろう。今言おうとしていたことは、戦友の決断を貶めることだと。


「………くそ、また人が死ぬのか」


 魔物がこの国を襲い始めて、早2年と少しが経とうとしていた。

 魔物は2年ちょっと前から活動が著しくなり、最近では各地の村々を襲っては作物を奪い、人を殺し、食糧にしていると聞く。

 男は砦から下方に広がる荒野を見渡した。すでに門は破壊され、砦内に魔物が乗り込んできているだろう。いたる所から焦げ臭さや濃い鉄の臭いがする。


「なんで、なんでこうなっちまったんだ………」


 そう呟く男に、応える影があった。


「こうなってしまったんですから、これからどうするかを考えなさい」


 驚き男が振りかえると、そこには白い女性が立っていた。

 白く長い髪の毛を纏めようともせずに振り乱し、肌は病的なまでに白い。色素という色素を全て追い出したかのような印象を受けた。

 しかしその中で荒野を見据える瞳は紅く、鋭さを持って魔物の群れを睨みつけている。


「時間とは不可逆なものです。過去の後悔をするより、未来の後悔を無くす努力をしなさい」


 男は知らないことだが、彼女のその体は、アルビノという一種の先天性の症状である。

 その女性は丈の短い、薄ピンク色のドレスを身に纏っており、戦場においてそれはありえない格好であった。

 ………しかし、その姿は彼女の姿からは信じられないほどに似合っており、どこか神々しさすら感じてしまう。


「とにかく、あなた方は早くここから離れなさい。後はこちらで殲滅します。………もちろんそこの怪我人も一緒に」

「お、お嬢さん、流石にそれは無理だ。すでに魔物が砦を囲んでやがる。今は裏門に人を集めて一点突破にかけるしかないからこうして探しに来たんだ。突破の際に人はさらに死ぬだろう。それでも生き残れる可能性があるならどんなことでもしなきゃならないんだ」


 部隊長が突然現れた白い女性にそう言うが、そもそも女性にとってはそれが間違い。


「大丈夫です。外には我が主と仲間たちがすでに魔物の殲滅を開始しています。私は単独で砦内の魔物の掃除を任されたに過ぎません」

「君は一体………」


 その言葉に彼女は今まで無表情だった顔を少し和らげ、こう言った。


「私はリリィ。私はただ主に付き従うだけの奴隷ですよ」


 そう言うだけ言うと、リリィは手を男目掛けて真横に振る。

 次の瞬間、その手から何かが発せられ、男の真後ろでキンッという軽やかな鉄の響くような音が聞こえた。

 男が何事かと後ろを振り返る。


「………? ヒィッ!!!!」


 そこには、今まさに男に飛び掛かろうとしていた狼型の魔物の姿があった。

 しかしそれは動かない。なぜなら、リリィから放たれた冷却魔法によって体内の水分が全て凍らされた後だったからだ。しかも床からは氷でできた支えがあり、魔物が倒れないようされていた。

 男が、先ほど聞こえた鉄の響くような音は魔物が凍りつく音だったんだと気付くのに、そう時間はかからなかった。


「これで砦内のほとんどの魔物は殺しました。魔物の一匹や二匹、倒せますよね?」


 その言葉に、隊長を含めた男3人は茫然としながらも頷くことで意思を示した。

 それに満足したのかリリィは大きく1度頷いた。


「そうですか。では私も外の魔物の殲滅にかかります」

「え?」


 リリィは言うや否や、砦の縁に足を掛け、そこから飛び降りた。

 ここは砦で、やはりそれなりの高さを持つ。高位魔法である飛行魔法を使えれば大丈夫なのかもしれないが、そんな高等魔法を覚えている魔法士など見たことがなく、男は急いで地上を見下ろした。

 するとそこにあったのは、氷で出来た滑り台。

 リリィはあの一瞬で氷の滑り台を作り、そこから降りたのだ。

 そして下方で繰り広げられるは戦闘ではなく殲滅。

 リリィの腕が舞うように振られるたび、周囲の魔物が凍りつく。そして凍りついた魔物が多くなれば、また違う魔法で氷像を破壊する。

 その姿はまるで女神のように男の眼に映った。

 そして軽やかに舞う銀髪は、あたかも巡り回る星のようで。

 男は突き抜けるような蒼天に舞う星に、不条理な世界を食い破る様な感動を覚えた。


「………すごい」

「ああ………」


 そう呟いた男は、ハッと気付き、部隊長に言い放った。


「は、早く逃げましょう!!」

「そうだったな。よし、こいつは俺が抱える。お前は先導して魔物を倒せ」

「了解!」


 そうして男たちはその場から去って行った。



◆ ◆ ◆ ◆



 そして男たちは帰還する。

 犠牲者は多数だが、それを悼みながらも酒を飲み、大声で騒ぐ。これこそが死んだ者への慰めになると彼らは考えているからだ。

 そして話に上るのは、やはり砦にいた魔物を全て喰らい尽くし、助けに入った彼らの話。

 様々な目撃証言があったが、情報を纏めると彼らは5人組でそれぞれが異なる魔法を使った共同戦線を張っていたらしい。

 しかしその中でも1人、どうにも容姿が曖昧なのがいるらしい。

 その話を横から聞いていた例の男は、もしかしてその人は氷使いで銀髪、紅い目をした彼女のことではないか、と予想をつけた。

 彼女の魔物の倒し方は、どうも音を出さないようにしていたように見えた。そして単独で砦に潜入した事実。男の考えでは、あれは暗殺の仕方ではないかと思ったのだ。

 彼女は一体何だったのか。彼らは果たして何者だったのか。疑問は尽きない。

 しかし―――


「ま、今更だがね」


 今はただ、生きている事実に感謝しよう。

 男は誰とでもなくそう小さく呟くと、グラスに残る酒を一気に飲み干した。

 どうも、黒色猫です。


 ずっと前に友人とやった『同タイトルで短編遊び』です。


私「蒼天の!」

友「一番星!」


 ………微妙……。

 まぁやるけどね。


 というわけで、そんな感じで、こんな風です。

 ちなみに以前友人に送りつけた文に、少々手を加えて投稿します。まぁほんの少しなんですけどね。

 楽しんでいただけたなら本懐です。


 では。

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