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04 - 上空の風車

 ぼくらの空には大きな風車がある。

 それはとても大きく、天を覆い、太陽を遮り、地面に向かうようにしてその羽根を地平線の遥か先まで伸ばし、その先に何があるのかは誰も知らない。

 ぼくは空を見上げる。

 それはみんなからは“風車”と呼ばれ、誰もがそれを常識だと思っている。

 街の中心にはとても大きな塔があり、その遥か上空で“風車”が地面に向いて回っている。

 そのせいで町にはあまり太陽の光が当たらない。


 ぼくは、いつも考えていた。


 あの塔の頂上には何があるのだろうと。


 ぼくは今まで座っていた家の窓から、石畳の敷かれた道路へ飛び降りた。そして再び、雲にも隠れる“風車”を仰ぎ見る。


「………ホント、何があるんだろうなあ」


 その呟きは誰にも届かず、ただ虚空へと消えていった。


 この街には決まりがある。それは、誰も塔に上ってはいけないというもの。

 人は誰も疑わない。それが当たり前だったから。

 ………なんのことはない。ただの“掟”なのだから。



◆ ◆ ◆ ◆



 ぼくは街を歩く。

 今日も街は市場が多く開かれ、活気付いている。

 しかし今日は太陽が風車の羽根に遮られる日だったのか、街全体に影が絨毯のように敷かれ、どこか陰鬱な空気を醸し出していた。

 しかし、それはもしかしたらぼくだけが感じているものなのかもしれない。

 なぜなら、誰もがそれを普通だと、常識だと、当然だと思っているから。


「はぁ………」


 思わずため息をついた。

 僕がこんな“異端”になったのは、最近のことではなく、結構昔からのことである。

 なぜ誰も塔に上ろうとしないのか。あそこには塔の入り口を守る人もいないし、勝手に入れるはずなのだ。

 しかし、誰もそれをしようとしない。

 それに気付いた時、ぼくは全身に鳥肌が立つような悪寒を感じた。

 ぼくもこれに違和感を感じなくなってしまうのだろうか。

 そう考えた瞬間、ぼくはこの街では“普通”ではなくなった。


「………風車、か」


 いつの間にかぼくの足は風車の根っこ、塔の下に来ていた。

 いつもはなぜかあまりこの辺りに来たくないのだが、今日はいつの間にか辿り着いてしまっていたようだ。


「やっぱり大きいな、風車は」


 下からグッと背を反らさないと、塔の頂上まで見ることは出来ない。………いや、たとえそうしたとしても、頂上は薄くもやがかかったり、雲がかかったりと、頂上まで見通すことが出来るのはほとんどない。

 そして、やはり今日も雲がかかっていて、頂上を見ることは出来なかった。


「………この塔の頂上には何があるんだろうなぁ………」


 なんて立ち止まり呟くと、近くにいたおじいさんが近寄ってきた。このおじいさんは、ぼくの家の近くに住んでいる、ぼくにとっては優しいおじいさんだ。


「ほっほ。どうしたんじゃ?」

「こんにちは、おじいさん。風車の上ってどうなってるのか知ってる?」


 そう訊ねた途端、おじいさんの顔は驚きに変わり、目を見開いて硬直してしまった。


「………えっと、何かマズかった?」

「お、おお。なんでもないぞ。………ふむ、そうか………」


 そう言うと、おじいさんは考え込んでしまった。

 手持ち無沙汰になったぼくは、再び風車を見上げる。羽根より下に雨雲が出来るので、雨さえ遮ることが出来ないのに、太陽の光は遮ってしまう。

 そんな風車にぼくはやはり、いい印象は持てなかった。

 そうしていると、おじいさんがぼくに向き直り、こう言った。


「のう。気になるのじゃったら上ってみたらどうじゃ?」


 その言葉はこの街では異端で異常で、ありえない提案だった。

 それは地動説を提唱したガリレオのように、月食の観察により地球が丸いと確信したアリストテレスのようにありえない提案だった。


「………上ってもいいの?」

「本当は駄目じゃよもちろん。それが掟なのじゃから。………しかしお主ならあるいは………」


 そこでおじいさんは話を区切り、頭を軽く振った。


「今はどうか分からんが、昔風車には管理者が住んでおってな、常に頂上で風車の管理を行っておったんじゃ」

「人が住んでるの!?」


 それはぼくにとって、………いや、この街の人全てにとって衝撃的な話だっただろう。


「昔の話じゃよ。今はどうなっておるか分からん。………のう、お主。上る気はあるのか?」


 おじいさんの質問に、ぼくは一も二もなく肯いた。

 すでにぼくの中の欲求は極限まで膨れ上がり、今すぐにでも飛び出して行きそうだった。

 しかしそんなぼくを、おじいさんは優しく引き止めた。


「落ち着きなさい。誰も見張りがいないからと言って、掟は軽々しく破って良いものではない。せめて準備をして、夜になってからにすると良いじゃろう」


 その言葉に多少冷静になったぼくは、とにかく準備をすることにした。

 まずは食料でしょ、そして懐中電灯。

 あとは何があるか分からないからロープとかも用意しなきゃ!

 考えるたびに全身に何か不思議な力が湧いてくるようだった。


「ありがとう、おじいさん! ぼくちょっと用意してくるよ!」


 そう言うとぼくは、その場から走り去った。


「………少年よ、街に新しい風を運んでくれ。この淀んだ世界をどうか………」


 おじいさんのそんな言葉は、誰にも届かなかった。



◆ ◆ ◆ ◆



 その夜、街に緊張が走った。


 掟を破り、塔に侵入した被疑者一名。


 被疑者は夜中の、月が風車の羽根によって隠れる時を待ち、風車塔内へ侵入したと思われる。


 被疑者は塔を上り、空気窓から荷物の一部を落下。それを見た通りすがりが風車を見上げた時、被疑者が顔を覗かせていたことから事件が発覚した。


 被疑者はよわい15の少年。


 身長163センチメートル。体重52キログラム。


 すぐさま捜索隊を結成すべきと打診したが、評議会はこれを棄却。


 風車塔内は複雑に入り組んでおり、一度侵入すれば生きて帰ることが出来る保証はないというのが主たる理由だ。


 これにより、被疑者確保は非常に困難であるとされる。


 しかし、もし発見された時。その時は………



 死刑。

 どうも。


 活動報告にも書きましたが、友人と言葉を出し合って作ったタイトルで、お互い短編を書いてみようと企画し、書いた作品です。

 つまり、


友「上空の?」

私「風車」


 と言った感じで、できました。詳しくは活動報告でも見ていただけると良いかと。

 というか、私の力量では微妙になってしまったのが残念でなりません。まぁこれも私の(黒)歴史の一部ですので、こういった形に残すのもアリかな、と。


 ではでは失礼します。

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