ポーラの行く道
わたしは八歳の時に伯爵家の嫡男と婚約した。幼いながらも、ふたりはそれなりに仲良くしていた。彼は一つ上で、わたしが困っているときには手を貸してくれたし、わたしも彼の役に立ちたいと思っていた。
十四歳の時、両親が事故で死んだ。世界が音を立てて崩れたように感じた。泣き疲れて声も出ないわたしに、伯爵夫人は優しく言った。
「婚約してるのよ。娘と同じよ。だからうちにいらっしゃい」
その言葉にすがるようにして、わたしは伯爵家に引き取られた。
学院に入学してからは、婚約は秘密だと言われ、彼とは距離を置くように言われた。それでも、わたしは彼の役に立ちたかった。テスト前には要点をまとめたノートを作って渡し、レポートも代わりに書いた。三年生の時には、箔がつくからと王宮の文官試験を受けさせられた。
合格した時、彼は褒めてくれた。
けれど伯爵夫人は言った。
「結婚するのだから辞退しなさい」
わたしは逆らえなかった。
彼は、謝ってくれた。そして、わたしを抱きしめると軽く唇にキスをした。
「早く結婚したいね」そう言うと離れて行った。
卒業を目前にしたある日、同級生の妊娠がわかった。伯爵夫人は淡々と告げた。
「子供がいるのなら結婚するしかないわね。いいお嬢さんなのよ。だからあなたは諦めてね。まぁこの三年面倒を見たから文句ないわよね。これ少しだけど、遠慮しないで」
差し出された袋は軽かった。わたしの三年間も軽く扱われたのだと、その時ようやく気づいた。
卒業式の翌日、わたしは裏口から伯爵家を出た。荷物は少し。行くあてもない。最初に来た馬車に乗り込むと、年配の女性がわたしの顔を見て言った。
「お嬢さん、どうしたの。そんな暗い顔するような年じゃないわよ。若くて綺麗。未来は開けているのよ」
わたしは何も言えなかった。
「言っちゃいなさい。馬車のなかだよ。二度と会わない人ばかり。安心して話してみて」
その優しさに、胸の奥がほどけた。わたしは話した。両親が死んだこと、伯爵家に引き取られたこと、そして今日追い出されたこと。
女性はわたしの文官合格通知を見て、にっこり笑った。
「お嬢さんの経歴を買うよ。うちはグリーンリーフ商会。この辺りでは有名だよ」
周りの乗客たちがうなずいた。
「うちは信用できる商会だよね」
またうなずきが返ってくる。
わたしはその人と一緒に馬車を降りた。
伯爵家の裏口から出た時には閉ざされていた未来が、今は少しだけ明るく見えた。
あたらしい世界が、静かに開けていくのを感じていた。
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